終章 ゴールを目指して †
ユウキは、夜の道を悠生の家へと向かって歩いていた。
雲がかかっている空は月や星の光を遮られており、空からの明かりは薄い。しかし、並んでいる街灯が街を十分に照らしていた。
それら街灯の明かりに足して、家の明かりがあるため街は暖かな雰囲気で満たされているように感じられた。悠生の家は住宅街にあるのだが、聞こえてくる家族団欒の声が、その印象をさらに強くしているのかもしれない。
(……って、昨日も思ったこと――か)
家までの道程を歩きながら、ユウキは同じ感想ばかり抱いていることに気付いた。
しかし、別の感想やイメージを思い浮かべようとも思わなかった。暖かい、その印象だけでこの街を語れそうだ。
そうして三〇分ほど歩いていると、悠生の家が見えてきた。
悠生の家はどうやらユウキが出た後と何も変わりがないようで、明かりが一つも点けられていない。それは、これまで歩いてきた中で、見てきた家とは正反対である。家の明かりが点けられていない悠生の家は、逆に際立って見えた。
『上村家』という表札が寂しく飾られているだけだ。
「……やっぱり明かりは点いていない」
それはユウキが何度この家に戻ってきても変わっていない。悠生の両親は共働きだということは分かったが、一日以上も家を何も連絡なしに家を開けておくことはしないだろう。それとも悠生は事情を知っており、数日帰宅しないということなのだろうか。
時空を越えて、こちらの世界に来てからまだ日が浅いユウキには詳しいことは分からない。しかし、悠生の家族あるいは家庭に対して疑問に思うことはいくつもあった。
(悠生の親が帰ってきたとして、どう接すればいいのか困るのも事実だが……)
また、ユウキは悠生の親が帰ってきた場合の別の問題も危惧する。
ユウキと悠生は住んでいる世界が違うだけであり、DNAレベルで身体は同じである。ということは、悠生の親はユウキの親と生活スタイルなどによる微妙な違いはあれ、基本的に同じ顔と身体つきをしているのである。悠生の親と会った時に、自分の親ではないと意識しながら、接することが出来る自信がユウキにはなかったのだ。
「その時になったら考えればいいか……」
そのことに対して若干不安を抱いているユウキだが、今懸念してもどうしようもないことに変わりはない。悠生の親がこの家に帰ってきた時に考えよう、と後回しにするのだった。
そして、明かりが一つも点けられていない家に入っていく。
他の家とは違い、薄暗い家へと。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
千秋です。
ようやく『クロス・ロード』のPARTⅠが終わりました。
PARTⅠとしてありますが、話は大体文庫本一冊サイズで展開させていこうと考えています。つまり、PARTⅠで文庫本一冊、PARTⅡで文庫本一冊、という感じです。
PARTⅠではそれぞれの章をさらに細かく分けて連載しましたが、これは私が章をさらに節やら項で分けて書いている、ためです。そのため、それぞれの話で極端にテキスト量が多かったり少なかったりといったことやキャラクター視点が頻繁に変わることがあります。キャラクター視点がよく変わるのはまとめるのが上手くないからであり、力不足です…。
また序章と一章のテンポが悪くなってしまったのは制限を設けずに書きすぎたため、つまりこれも力量不足です。すみません。
今後はテンポ良い文章を書けるように努力して参ります…
そして読んで頂いた方は分かると思いますが、まだ何も解決しておりません。
今後も物語はPARTⅡへと展開していきます。
が、その前に外伝をちょっと挟ませて頂きます。
予めご了承ください。
それでは、これからも『クロス・ワールド』を読んで頂けることを願って、
あなたは、どちらの世界がリアルだと信じますか?