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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
PART Ⅰ
3/118

序章 交わりの始まり Ⅱ

 

 銀行の入り口を突き破って入ったユウキは、明かりが消されている一階の受付を見渡している。無論それは銀行強盗しようとか金庫を探そうとしているわけではない。

(銀行や金融機関には必ずあるはずだ――っ)

 ユウキが探しているものは別のものである。

 目的のものを探そうと本来なら銀行職員が入る受付の奥まで、ユウキは並べられている机を飛び越える。

「どこだ……!?」

 躍起になって探しているところに、

「俺たちを銀行強盗にでも仕立て上げるつもりかぁ!?」

 追手の男たちが銀行の中へ入ってくる。

(こいつらも躊躇なしか――!!)

 銀行のフロア内に現れた追手の男たちを見て、ユウキはすぐに飛び越えた机の下に隠れる。そのコンマ数秒後に、けたたましい音とともにライフルの火がふく。

「くそ……っ」

 容赦なしの銃撃が銀行のフロア内に響きわたる。その銃弾は銀行の受付内の机や椅子を貫通していき、壁に設置されているロッカーにも穴をあけていく。

(まずいな――)

 銃撃が止むまで机の下から出られないユウキは、身動きがとれない。このままではじり貧であり、男たちもユウキ同様に机を超えて狙ってくるだろう。

 この危機的状況を一発解消するために、ユウキは目的のものを探す。

(ドラマや映画なんかじゃ、よくこの辺りに――)

 頼りない知識ではあるが、あてもなく探すよりはマシだろうとユウキはフロアを区切るように長く設置されている机の下を這って進みながら探す。這って進むユウキの後ろには、肩から流れている血の痕が残される。

 その間もライフルの発砲音は止まらない。

「……? あいつ移動してるぞっ!」

 何度銃撃を行っても反応がないことに気付いた追手の男の一人が、机を飛び越えて銀行の受付内に行こうとする。

(げ……っ、ばれたか――)

 なるべく物音をたてないように慎重に進んでいたことが逆に男たちに気付かれる要因になってしまった。

(こうなりゃやけくそだ――)

 どちらにしろ追手の男たちも机を飛び越えてくるだろうと判断したユウキは、机の下を這って進むことを止めて立ち上がる。

「いたぞ――っ!!」

 当然追手の男たちにはすぐに気付かれるが、ユウキは気にしない。立ち上がってそのまま受付の長い机を並走する。そして、机の下に手を当てて、目的のものを手探りで探す。

「待てぇ!」

 そのユウキのすぐ後ろを、受付の机を飛び越えた追手の男が追いかけている。振り返ってその様子を確認したユウキは、さらに走る速度を上げる。

「くそ、こいつ速い――」

 銀行の入り口付近でライフルを構えている男たちは仲間にあたることを考慮して、発砲することが出来ないでいる。

(今のうちに見つけないと……)

 そう焦るユウキの左手が、机の下の出っ張っている何かとぶつかる。

「……っ!?」

 それを感じてユウキは立ち止り、急いで机の下を確認する。

(あった――)

 そこにはユウキが探していたものがあった。

 ユウキが探していたものは、外へ緊急の連絡ができ、ブザーを大音量で鳴らす『非常ボタン』であった。

(金融間係には絶対にあるもんだろ、これ――)

 目的のものを見つけたユウキは、それに飛びかかるようにしてボタンを押そうとする。

「……? な――っ!? やつをとめろっ!!」

 それに気付いた追手の男の一人が叫ぶ。

「ち……っ!」

 気付かれたことにユウキは舌打ちをする。その背中に受付の机を飛び越えた男が飛びかかって抑えようとする。

(やば――っ)

 捕まる。

 そうユウキが思った瞬間、銀行のフロア内に強烈な風が銀行の入り口のガラスや窓ガラスを割って吹き荒れる。

「な……っ!?」

 いきなり吹き荒れた強風に追手の男たちは、建物内の壁まで吹き飛ばされる。ドガッという大きな音とともに男たちは壁に衝突し、そのままずるずると床に倒れていく。

「はぁはぁ……」

(やっとか――)

 強風に吹き飛ばされて気を失った男たちをユウキが一瞥していると、

「ユウキ――!!」

 声がかけられる。そちらを振り返ると一人の少女が立っていた。

 少女の名前は『ミユキ』。

 肩を少し超えるほどに伸びたストレートの髪が驚くほどに綺麗な黒色で印象的なユウキの幼馴染みである。

「間に合ったみたいだね――」

「ぎりぎりだけどな」

「仕方ないでしょ。連絡きたのお風呂入ってたときだったんだもん――」

 さきほどの強風によって割れた銀行の入り口のガラスを踏みしめて、少女――ミユキはユウキのもとへ駆け寄って言う。その言葉は間違いではなさそうで、タンクトップの上に薄いカーディガンを羽織り、ショートパンツを履いているだけの服装から覗いている肌は少し火照ったような色合いをしている。その彼女は肩に小さなバッグをさげていた。

「なるほどね……」

 そのミユキの肌を見て、おもわずユウキは視線を逸らす。

「連絡をくれてからどうだったの?」

「どうも……。喫茶店で別れてから、ずっと追いかけられてるんだよ。もしかしたら、喫茶店から張ってたのかもな」

 ユウキがミユキに連絡を入れたのはこの逃避行が始まったすぐであり、もう三〇分以上も前のことだ。その後からの状況をミユキに説明する。

「追ってきているのが誰か分かってるの?」

「いや、分からない。俺を捕まえようとしているのは分かるが、何が狙いなのかもさっぱりだ」

 追われているという現実は変わらないが、その理由はユウキにも分からない。

「ともかく、追手きてるのはこいつらだけじゃない。さっきスピーカーでこいつらのボスみたいなやつが叫んでたから、まだ油断は――」

 そこに再び声が聞こえてくる。


「その通り。まだお前を捕まえるのは諦めてはおらんぞ?」


 それはまたしてもスピーカーを介して聞こえた男の声だった。

「……っ!?」

 聞こえてきた声に、ユウキは敏感に反応する。どうやらスピーカーの声の男は、銀行の外からこちらの様子を窺っているようだ。

「さっさと出てこい! お前は袋のねずみだぞ?」

 スピーカーから聞こえてくる音のほかに、ユウキはエンジン音が紛れていることに気付く。

(車……?)

「どうするの?」

「何が目的かは分からないが、捕まる気はない。逃げよう!」

「どうやって……!?」

 銀行の入り口は別の男たちに抑えられているだろう。すぐに突入してこないのは、こちらを警戒しているからだろうか。

「裏口があるはずだ。あいつらを牽制するためだ。もう一発頼むよ、ミユキ!」

「しょうがないなぁ、もう――」

 ユウキの言葉の意図を理解したミユキは、銀行の入り口へと向き直る。

 その瞬間、またしても強風が起こる。その強風は銀行フロア内の机や椅子を持ち上げ、そのままユウキを捕まえようと追っている男たちがいる外へと吹き飛ばす。次の瞬間には、その机や椅子やらが風とともに襲いかかってきたのを見た、男たちの悲鳴が夜の街に響きわたった。

「さ、今のうちに行こう!」

 そう言って、ミユキは振り返る。

「あぁ!」


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