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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
PART Ⅰ
25/118

第三章 家 ~ルーム~ Ⅲ

 とある建物の中に、薄暗い部屋があった。

 薄暗い部屋には、様々な色を発している光があった。それらの光は明滅を繰り返して、薄暗い部屋を物静かに照らしている。

 その部屋にスピーカーの声の男――シンジはいた。ずっと着ていた防護スーツではなく、スーツルックな服装に変わっている。

 シンジの視線は、じっと光を放っている大きなモニターに向けられている。

「『時空扉(タイム・ドア)』を起動してください」

 モニターを見つめていた別の白衣を着た男がマイクを通して、起動の合図を出した。

 そのモニターには、ミユキから奪った『時空扉(タイム・ドア)』が映されていた。

 奪った『時空扉(タイム・ドア)』は、ドアが閉められた窓のない硬質感がある部屋のガラステーブルに置かれている。窓のない部屋には、他に白衣を着た男が二人いた。

 窓のない部屋にスピーカーを通して、先ほどの指示が届く。

 その指示を受けた白衣の男の一人が、ガラステーブルに置かれている『時空扉(タイム・ドア)』を持ち上げて、円盤型機械の中央にあるボタンを押す。

 すると『時空扉(タイム・ドア)』は強烈な光を放ちながら、丸みを帯びた(ふち)が円状に広がっていく。淵が広がりきるとその眩しさは次第に弱まっていき、そのうちまた元の鈍い銀色の光沢だけが残る。そして広がった円状の淵の中には、薄暗い霧が渦巻いていた。

「これが世界を越える入り口か」

 モニター越しに『時空扉(タイム・ドア)』の起動を見つめていたシンジは感嘆の声を上げた。その目は楽しいおもちゃを買ってもらった子どものように、きらきらと輝いている。

「本当に、この中を通るだけで並行世界へ行けるのでしょうか?」

 同じようにモニターを見ていた先ほどの白衣の男が当然の疑問を口にした。

「並行世界の存在すら確認されていないのに、先に移動手段を確立させるなんてロマンにもほどがありますよ」

 しかし、その言葉にもシンジは、

「いいではないか。そもそも研究者は、そのようなロマンを追い求めているのだろう? そこに何があるのか? それは本当にあるのか、本当はないのか。一度疑問を持ったそれを追い求めずして、研究者とは言えないだろう?」

時空扉(タイム・ドア)』が作られた理由もそれと変わりはないとシンジは言い放つ。

 シンジの言葉に白衣の男――研究者は同意するが、それでも並行世界の存在はタイムマシンの完成と同レベルのロマンだと思っている。科学技術や世界の理が次々と解明されるようになっても実現にはまだまだ様々なハードルがある、ということだ。

「とはいっても、やはり誰でも使えるのかどうか確認する必要はあるな」

 起動された『時空扉(タイム・ドア)』の円の中をじっと観察したシンジは、おもむろに言った。そして、続いて命令する。

「さて、部屋に入れろ」

 シンジの命令から、窓のない部屋のドアが開き、さらに拘束具に縛られた男が二人とそれを率いているシンジの部下の男が二人入ってきた。拘束具に縛れている男二人は両手を縛られている他に目隠しもされており、鎖でつながされていた。

「そいつらを『時空扉(タイム・ドア)』の円の中へ飛びこませろ」

 冷酷な命令がシンジから出される。

 拘束具に縛られている男二人は目隠しをされているため自身がどこにいるのかも、どこに飛び込めと言われたのかも理解できていない。

「し、しかし――」

 その命令に驚いた研究者たちは声をそろえて驚くが、

「そいつらは犯罪者だ。どうなろうと構わん。それにあらゆるデータは必要だろう? さっさと飛びこませろ!」

「はっ」

 拘束具に縛られた男二人を連れてきたシンジの部下は、連れてきた男の拘束具を取り外す。そして、目隠しをしたまま『時空扉(タイム・ドア)』の前に立たせた。

「な、なにがあるっていうんだ……っ!?」

 目隠しをされている男は目の前に何があるのかも分からず、恐怖に帯びた声を上げる。その声は今にも鳴き叫びそうなものだった。

 目の前で男たちが時空の渦へ飛びこまされそうになっている状況を見て、部屋にいた研究者二人は、これから起こるだろう結果を直視したくないと視線を()らしていた。

「お前たちを別世界へ連れて行ってやるのだよ」

 その一言とともに、シンジの「やれ」というひどく冷たい言葉がかけられる。

 次の瞬間には拘束具を解かれた男たちは背中を押されて、短い悲鳴とともに『時空扉(タイム・ドア)』の渦の中へ飛び込んで行っていた。

「さて、これで結果がどう出るかだが……」

 じっとモニターを見つめているシンジとは別に、部屋にいる研究者たちはもはや視線どころか身体の向きさえ変えていた。

 数秒間の沈黙がそれぞれの部屋に訪れる。聞こえてくるのは呼吸の音だけで、張り詰めた空気が場を支配していた。

「…………」

「……」

 誰も声を上げない。

 その、さらに数秒後。

 グシャ、という耳触りな音とともに、『時空扉(タイム・ドア)』の円の中から何かが吐き出された。

「?」

「――っ!?」

 突然、『時空扉(タイム・ドア)』から何かの物体が吐き出されたことに、モニター越しにシンジと研究者、部屋にいたシンジの部下と研究者たちは驚いた。

「何が出てきた!?」

時空扉(タイム・ドア)』から出てきたものがはっきりと認識できなかったシンジは、慌てたようにスピーカーを介して部屋にいる部下の男たちに尋ねた。

 尋ねられた部下の男は、恐る恐るその物体へと近寄る。

「こ、これは――」

 そして視認したそれは、

 

 

 

 

「……人肉の……塊です」

 

 

 

 

 ぐちゃぐちゃに丸められた人の成れの果てだった。

時空扉(タイム・ドア)』から出てきたのが、先ほど渦の中に飛び込んで行った犯罪者たちであることはすぐに分かった。

 電気が点けられていない部屋の中で、じっとモニターを見つめていたシンジは、

「まさしく別世界にいってしまったな」

 と短く呟く。

 同じようにモニターを見ていた研究者は言葉が出ないようで、口をぱくぱくとさせていた。

(あの犯罪者は、一人は普通の人間で、もう一人は『覚醒者』だった。やはり『覚醒者』は全員使えるというわけではない)

 シンジの命令で『時空扉(タイム・ドア)』の中へ飛び込んでいった犯罪者はしっかりとデータが取れるように一般人と『覚醒者』が用意されていた。『時空扉(タイム・ドア)』の使用にはユウキの力が必要という情報は得ていたシンジだったが、自分の目で確認するためにも飛びこませたのだ。

(しかし、これではっきりした)

 そう判断したシンジはスーツのポケットから携帯電話を取り出して、とある番号にかける。

「もしもし、私だ」

『なんだ、シンジ?』

 かけた電話の相手はトモヤだった。

「計画に変更はない。ユウキを捕まえるんだ」

『わかった。捜索はまた明日からか?』

「あぁ、そうなる」

『了解。今度こそ奴を捕まえてみせるさ』

「期待してるぞ」

 短く会話して、シンジは携帯電話の通話を切った。

 その視線は今もまっすぐとモニターへ向けられていた。

 


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