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クロス・ワールド  作者: 小来栖 千秋
PART Ⅰ
19/118

第二章 時空を越えて Ⅲ

 


 ()()の家から出たユウキは、悠生(ゆうき)の家を探し始める。

 家に帰るとは言ったものの、こちらの世界での悠生の家は全く知らないのだ。真希から悠生とは中学から同じ知り合っているということを聞いたため、家はそれほど遠くないのだろう。

 しかし同地区の中学校へ通うとしても、その範囲はかなり広い。一軒一軒家の表札を見て回るというのはナンセンスだ。

(そもそも一軒家かマンションかも分からないんだよなぁ……)

 ユウキはこちらの世界の悠生が一軒家に住んでいたのか、それともマンションに住んでいたのか、それすら知らない。

 そのため家を探すこともすでに無理難題に近い。それでもこちらの世界のことを知るためにも一度悠生の家には行き、確かめなければならない必要がある。

「とりあえず歩くか」

 ぼうっと立ち止まっているだけでは何も解決しないと思い、ユウキはおもむろに当てもなく歩き始める。

 歩いている街並みはすっかり太陽が落ちて暗くなっているが、それでも強い恐怖を与えてくることはない。等間隔で建てられている電灯が、通りを先まで見えるように明るくしているためだ。

 通りを歩いているとすれ違う人も様々な装いであり、表情も多種多様だが、それでもユウキが今まで見てきた緊迫感は見受けられない。

(やはり『覚醒者』はいないみたいだな……)

『覚醒者』が放つ独特の気配――『覚醒者』としての力の使用の痕跡を、こちらの世界で感じることはなかった。だからといって安心できるわけではないが、ユウキの足取りはどこへ向かえばいいのかも分からないのに自然と軽くなる。そこに、この世界に対する不安感は見当たらない。

(だとしたら、力を使うことは極力避けたほうがいい)

 どこかに地図か住所が分かるものはないかと辺りを探しながら歩いているユウキはそう考えた。

(それよりも問題はこちらの世界でどうするか――だよな)

 これから自分はどうするべきなのか、ユウキは悩み、迷ってしまう。確かめなければならないことのために、とりあえず悠生の家を目指しているだけだ。その後どうするかは、まだ決めていなかった。

 閑静な住宅街には、驚くほどに周囲から音が聞こえてこない。時々、近くの家から団欒している家族の笑い声が聞こえてくる程度で、それ以外の生活音はほとんど響いていない。ユウキの意識がそこに向いていないということもあるが、耳が慣れてしまったあの音たちがまるっきり聞こえてこないことにユウキは、妙な感覚を覚える。

「……っと、まずが家を探さないと何も始まらない――か」

 気を取り直して、ユウキは悠生の家探しを再開する。

 歩いている通りの風景は先ほどからとそれほど変わらない。住宅街の中で、一軒家が多く建ち並ぶ横にぽつんとアパートや時々大型マンションがあるくらいだ。

 見える風景が同じようなものばかりであるため、ユウキは自身がどこ歩いているのか分からない。

(真希がどこで俺を見つけたかくらい聞けばよかったな)

 通りの左右に並んでいる住宅やアパートを眺めながら、どうやって探すかと考える。その様子はぼうっと歩いているように見え、傍から見ればふらふらと歩いているようにしか見えない。

 そのまま数分歩いていると、夜道を向こうから歩いてくる一人の影があった。

 何てことのない通行人だろうと判断したユウキは気にすることもなく、そのまますれ違おうとしたが、

「あら、あなたは――」

 と声をかけられた。

「……っ!?」

 不意に声をかけられたユウキは声を上げて驚きそうになるのを堪える。そして、尋ねてきた通行人――お婆さんに聞き返した。

「あなたは?」

「あら、その余所余所しい言葉は何かしら。私のことも忘れたの?」

 急に話しかけてきたお婆さんは、ユウキの言葉を聞いて驚いたように言った。

(まず――っ! 悠生の知り合いか)

 まさか、このお婆さんが知り合いだと思いもしなかったユウキは、お婆さんの返事に身体を震わせる。

「ごめんなさい。暗がりだったから、よく見えなくて……」

「あら、それじゃ仕方ないわね。悠生ちゃんは、ここで何をしていたの?」

 なんとか絞りだした言い訳をお婆さんは疑うこともしないで、気にしないで、と答えた。

(ちゃん……。結構前からの知り合いってことか)

 お婆さんの呼び方が、ちゃん付けであることからユウキはそう判断した。

 男子がちゃん付けで呼ばれるのは、幼少時から知り合っていたということが多い。長年からの付き合いがあるのだとユウキには容易に想像できたのだ。

「ちょっと怪我して、友達の病院で診てもらってたんですよ」

「怪我? 大丈夫なの!?」

 お婆さんはユウキが怪我をしていると聞いて、慌てたように驚いている。

「えぇ。それほど大きな怪我でもないですから。消毒して包帯まいてもらってますし」

 大袈裟に驚いているお婆さんを落ち着かせようと、ユウキは怪我の程度を説明する。その説明を受けてもお婆さんは心配なようで、

「家も近所だし、途中まで一緒に帰りましょ」

 と誘ってきた。

(家が近所!? この人についていったら、悠生の家に近くまで行けるか)

 一瞬の間に判断したユウキは「本当ですか!?」とさもうれしそうに答える。

「えぇ、私は構わないわよ。悠生ちゃんが心配だし、家もすぐそこの近所さんだし」

 ばったりと会った当初の顔からユウキの顔が穏やかさを増していることに、笑顔を見せたお婆さんはそう言って、ユウキとともに歩き始める。

 歩いていく先には、悠生の家があるはずだ。



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