命令
甚左衛門は頷き、再び口を開いた。
「わしは、木戸甚左衛門、おぬしの持ち主じゃ。おぬしは、わしの命令だけに従う。それは判っておるな?」
理解したのか、目玉は「うんうんうん!」とばかりに素早く頷く──もしもそれが頷きならば──と、聞き耳を立てるように緊張した様子を見せた。
甚左衛門は無線行動電話を取り出した。画面をよく見せるように翳す。
「この子供の姿が見えたら、わしに知らせよ。この無線行動電話に電子矢文を送ってもよし。必ず報せるのだ! この子供は、必ずこの屋敷に姿を表す!」
目玉は、まじまじと甚左衛門の手にある無線行動電話の画面に見入った。
「直接交信をするか?」
目玉は三本の触手のうち、一本を甚左衛門の無線行動電話に近づけた。甚左衛門の無線行動電話の差込口に触手が接触し、一瞬の間に大量の二進符号が目玉と無線行動電話の間に遣り取りされる。
「よし、行け!」
甚左衛門の声に、目玉はぴょんと手の平から跳ねて地面に落ちた。
とととと……と、三本の触手を器用に使って庭から正門へ向かうと、柱によじ登り、崩れかけた屋根へと登っていく。
触手をがしっ、とばかりに屋根に突き立て、動かなくなる。目はぱっちりと見開かせ、正門前の道路を見張っている。
それを見た甚左衛門は、満足して立ち上がった。
正門の陰に潜み、人通りが途絶えるのを確認して、悠然と外へ出る。正門屋根の目玉は、遠ざかる甚左衛門の背中をじっと見送っていた。




