記録
烏天狗は、時太郎たちが入ってきたのに気付き、眼鏡をずらして「なんでしょう?」と口を開いた。背が低く、時太郎の胸ほどしか背丈はなかった。
「翔一! 河童の三郎太という名前を調べてもらいたい。十何年前、この苦楽魔に立ち寄ったと申しておるのだが、記録は残っているかな?」
「三郎太……ははあ、少しお待ちを……」
翔一と呼ばれた烏天狗は、頭を下げると、ちょこちょこと部屋の隅に歩いていく。
そこにも文字打出鍵盤が置かれ、翔一はその前に座ると、打鍵をかちゃかちゃと打ち出した。
途端に壁の機械から「ざーっ、ざーっ」という音が聞こえてきた。時太郎が壁に近づいて見ると、爪先より小さな輪っかがぶるぶると震えているのが見える。
二人を連れてきた天狗が説明した。
「これは電磁誘導磁界素子というものだ。これまで作成されたあらゆる記録がこの機械に収められておる。今、翔一が行っているのは、三郎太という名前の河童がいつ、この苦楽魔に立ち寄ったかを機械に質問しているところなのだ」
説明している間に、文字打出鍵盤が一枚の紙を吐き出した。それをびりっと破いて、翔一が天狗に渡した。天狗はその紙に目を走らせ、頷いた。




