4 澱(よど)みのない空の下で
ロザリンド一派が王宮を追放され、その取り巻きたちが町の権利を手放してからというもの、下町の空気は一変した。通りに面した窓は開け放たれ、夕暮れになるとあちらこちらから活気ある笑い声が聞こえてくる。
「ほら、そこ!油断するなよ!」
ユージンは今、広場で十数人の子どもたちに囲まれていた。手にしているのはただの木の枝だ。
かつてはロザリンド一派の目を盗んで、すみっこでこっそり棒を振っていた子供たちも、今は堂々とチャンバラごっこに興じている。
「ユージン、兄ちゃん、すっげえや!枝一本なのに全然当たんないや!」
「……いや、これでも俺はお前ぐらいの頃には、厳しい先生に叩き込まれていたからな。ほら、足元がガラ空きだぞ」
ユージンが軽く枝を払うと、子供たちはきゃあきゃあと声を上げてはしゃぎ転がる。彼らにとってのユージンはもう、「地下牢の不気味な男」ではなく剣がちょっと強くて面倒見のいい、最高に恰好いい「近所のお兄ちゃん」だった。
遊びが石つぶて(的あて)に移ると、ユージンはさらに本領を発揮する。
川沿いに並べた古い木箱に向かって小石を投げる。
「ヒュッ」と手首のスナップをきかせて投げると「コンッ!」と乾いた音が響き、石は正確に的を射抜く。黄金の力など一滴も使わない、ただの鍛え抜かれた身体能力。
遠くから青果売りのおじさんの声が聞こえる。
「おーい、ユージン!……悪いが、屋台の荷物を運ぶのを手伝ってくれねえか!」
「ああ、わかった_今行くよっ!……お前らは次回までに十回連続で的に当たるようになっとけよっ」
ユージンは子供たちの頭を適当になで回すと、軽やかな足取りで、荷台に向かって歩き出す。
ロザリンドがいた頃は、重い荷物運びを頼むのさえ「不当な手数料」を取られないかと人々は怯えていた。けれど今は違う。手伝いをすればリンゴ数個を渡される。そんな当たり前の善意が循環する町になりつつあった。
一通りの手伝いを終え、ユージンがアルベール邸へ帰る道すがら、家々の隙間から吹き抜ける風が頬を撫でた。
ゼノス:「……いい風だな……ルシウス」
ユージン:「……ああ。陛下もそう思うか?ロザリンドのキツイ香水を思うと、よっぽどいい風だ」
ユージンは、夕日に染まるアルベール邸の煙突を見上げた。そこには、あの日、「軍神」と呼ばれた男ではなく、少しだけ遊び疲れた、ただの青年としての穏やかな横顔があった。
『ユージン』はアルベールの息子ですが、ゼノスの孫の名は『ルシウス』でした。
表記間違いではありません(笑)
今回も書いて全消ししてしまいましたとさ。何やってんだか。




