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盲目の復讐者  作者: 翠色じゃないヒスイ
2章・咎人達の仕事
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その4

 今まで、様々な街や村を旅して周り、路銀を稼ぐためにできる限りの仕事をこなしてきた。そんな中で身についた、お金への執着心。

「あの、この仕事って幾らぐらいで引き受けるんですか?」

 ジェイルとラットルに詰め寄るセラス。

 背中ではジョニーが、またか、と言わんばかりに溜息を吐く。

「え、まぁ、俺とアケットが引き受けて……距離にもよるが、目的地までとの往復の宿代や食糧の代金で考えるからなぁ。一概に幾ら、ってのは決まってないんだわ。なぁ、ラットル?」

「そうですね。たぶん、今回は徒歩で〔イルトニア〕まで、十日ほどの道のりになりますから……」

 しばしの計算の時間を置き、ラットルが護衛代金を口にする。

「金貨二十枚と言ったところ――」

「――馬鹿言わないでくださいッ! 確かに寝泊りや食事の分だけならそれで済むかも知れませんが、身に及ぶ危険の手当てなんかを含めれば、金貨五十枚ぐらいが妥当でしょう? 例えジェイルさんとアケットさんが担当したとしても、それぐらいの権利は当然のことですよ。あ、それから、今回、運搬する武具のリストを見せてください。ジェイルさん、読み上げて」

 ラットルの言葉を遮ってまで、セラスはそう捲くし立てた。その上で、ラットルから武具のリストを掻っ攫い内容を確認する。

「えっと……黒金の大陸〔アレキドル〕産の鉄鋼原石が七十キロ。刀剣類が三十ダースほど。薬草の類が計十キロばかり、だ」

 リストの内容を読み上げていくジェイル。

 全体を通しても、相当量になる。それに、鉄鋼原石は原産地以外で輸出入にキロ十金貨もの関税が掛けられる。薬草類にしても、物によればピンからキリまでの関税が掛かる。刀剣類と纏めたが、中には一本で金貨数十枚に及ぶ価値の物や、運搬だけで許可のない商業人なら役人に捕まってしまう。

 王国軍から盗賊、山中などの魔物の襲撃を考えれば、往復分の必要経費だけで報酬を決算するのは間違えているのだ。

「ほら、金貨百枚で護衛を雇ってもお釣りが来る荷物じゃないですか。私の目の黒い内は、きっちり依頼料を算出さえてもらいますからねッ」

「は、ははは……敵いませんねぇ。分かりました。依頼料の方はセラスさんと相談の上で決めさせていただきます。今まで安く引き受けて貰った分、少しぐらいは色をお付けします」

 ラットルもセラスの気迫に圧し負けて、依頼料の吊り上げを快諾してくれる。

「しかし、今回はいつもより荷物が多いな。大口の注文でも入ったのか?」

「はい。闇灯やみあかりの大陸〔ムーニア〕の首都から注文が来まして、馬車で三台分になってしまいました。できれば、二人ほど馬車の扱いができる方がいらっしゃるとたすかるんですが。ジェイルさんは――」

「――無理ッ」

 何故か即答するジェイル。

 どうも、心臓の拍動から馬車に対してのトラウマがあるようだ。

「荷車に乗るぐらいなら構わないんだが、どうも動物とは相性が悪くてなぁ。アケットに任せると、どんな暴走をするか分かったものじゃないし、よ……っとなると」

「誰が暴走するだと?」

 ジェイルが思案に移った瞬間、どこからともなくアケットの声が響く。

「ひゃうッ!」

 ジェイルらしからぬ悲鳴を上げて、その場から飛び退く。いつの間にやってきていたのか、腕を組んだ不機嫌な声音のアケットがジェイルの背後にいた。

「そりゃ、手綱なんて一度も握ったことがないから、上手く操れるか分からんさ。もちろん、安全に荷物を送り届けるためなら身を引くことも敵わん。そうなると『 』にはカフィーと生臭神父ぐらいしか残らない。流石にカフィーだけじゃ不安だから、俺とジェイルもついていくとして、後の一台はどうする?」

 修道女のカフィーが馬の扱いができるとは驚きだが、ここに一人だけ忘れ去られた人物がいる。勝手にできないものと判断されるのは遺憾ながら、これでも路銀稼ぎに駅馬車の仕事も手伝ったことがあった。

「私でよければやりますけど?」

『えッ?』

 ジェイルとアケット、ラットルまで一様に声を重ねて驚く。

 目が見えないからと言って手綱が操れないわけではない。速度の調整さえ分かれば、障害物等に対しては馬の方が判断してくれるのである。故に、セラスが名乗りを挙げた。

 三人は顔を見合わせてアイコンタクトを取り合い、しばらくの逡巡を置いてうなずく。

「護衛が四人というのは少し多いですけど、仕方ありませんね。では、必要経費として前金に金貨百枚でお願いできますか? 後の報酬は、こちらに戻ってこれた時にお支払いします」

 こうして、初日にしてセラスは護衛の仕事を手伝うことになった。

 彼女達が街を出発したのは、準備を整える時間を考慮した上で一時間ほどあとのことである。

 ちなみに、どうしてアケットがあの時間にあの場所にいたか、と言うと。思いの他、話が早く片付いたからとのことだ。ただし、良い方向で片付いたのならば安心できた。

「セラスを守るためとは言え、悪いのは『バンガード』の奴らだ。要求を突っ撥ねてやったら、案の定というか、敵意剥き出しで『覚悟しておけよ』の捨て台詞だぜ。あっははははははッ」

「笑い事じゃないだろ……。どうするんだ? 『バンガード』と全面戦争なんてことになったら、この街だって無事じゃ済まないだろ」

 何も面白いことではないというのに、気楽なアケットに誰もが呆れる。

 ジェイルの言葉に、包帯で隠れた表情こそ分からないものの、アケットが元から細い目を更に細めた。

「なぁ、お前は大事なことを忘れているぞ。俺達は街の中立を守っているが、正義のヒーローを気取ってるわけじゃないんだ。自分の命が危なくなったら、例え依頼されていても依頼人(クライアント)を見捨てる。仲間であるお前らだって、自分の命に代えれば安いものだと思ってる。それを忘れるな」

『…………』

 決してアケットの言葉が真理ではないにしろ、何が正しいかなど〔ハイオン〕という街では無意味な議論だ。

 だから、ラットルを含め『 』のメンバーは反論の言葉がなかった。

 どうしてそれを今、ここで口にしたのかは分からない。

「なに抜けた顔をしてんだ? 冗談だよ、冗談。守るって決めたものを放り出せるほど、俺は悪党やってないぜ。それに、この街で戦争をしなけりゃ良いだけの話だろ? なぁ、優しい悪人さん」

 急に破顔して、アケットがセラスやジェイルの肩を叩く。

 その声音は、出会った時と同じ優しい他人事のような声だった。傍若無人で、いつも身勝手に暴れまわる、〔ハイオン〕の顔無き女剣士アケットの声である。

 うそぶくように誤魔化してはいるが、セラスの心には小さな疑念が残る。もしかしたら、本当にアケットは誰かを命と引き換えに差し出すかもしれない。そんな気が、鎧に包まれた背中から感じられた。


 序盤から飛ばし過ぎた所為か、やや二章が冗長になってしまう。そして、読者がまったく増えないという罠。

 ありきたりな設定が駄目なのか? ありきたりな題名がだめなのか? 愚痴っても仕方ない今日この頃。地道にがんばりますか……?

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