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盲目の復讐者  作者: 翠色じゃないヒスイ
5章・討伐指令発令
20/22

その1

 鼻孔を擽る芳醇な香りに意識を覚醒させたのは、日の光が真南に上ろうかという頃合いだった。

「う、うぅ……」

 体を襲う鈍い倦怠感に低い呻きを上げて、体を起こそうと軽い伸びをする。シーツから露わになった上半身の衣類が肌蹴ているのに気付き、セラスは慌ててシーツに包まる。

 どうやら、昨日は夜遊びが過ぎたようだ。

 馬鹿なことをした、と後悔しつつもベッドを下り、ここへ来た時に寝ていた石壁の部屋を出る。宛がわれたニ階の寝室ではなく、どうしてこちらに寝ているのかはっきりとした記憶がない。

「我らが眠り姫様のお目覚めですよ」

 部屋を出たところで、最初にセラスを認識したのはその人物だった。

 黒金の大陸でさえ珍しい『眼鏡』なる視力の補強器具を身に付けた、端整な顔立ちがセラスに向く。森羅万象を見透かすような漆黒の瞳に微笑まれながら見据えられ、一瞬とはいえ昨夜の痴態を思い出してしまう。

 アッシュブロンドの無造作な髪が、人形とも思える顔の造形を人間の物にし、どこか怠惰な雰囲気さえ醸し出している。服装は神父様が来ているような法衣を身に纏い、腰には心もとなくも細剣(レイピア)が差してある。

 どこの誰か、と問われれば答えは一つ。

 この神父――ハーディこそ、噂に聞くカフィーの師匠に当たる人物である。

「お目覚めですか。もうちょっとで、昼食ができますので」

 弟子の修道女、カフィーは木造のカウンターの向こうでハムエッグなどを焼いていた。

「昨日はお楽しみだったな。まさか、セラスのあんな姿が見られるなんて思わなかったぜ」

 ハーディとカフィー以外の先客が、忘れ去りたい記憶を蘇らせてくれる。包帯の下で厭らしく笑みを浮かべるアケットが、恨めしい。

 そう言えば、昨夜の痴態の名残は跡形もなく片づけられていた。

「あ、あれは、ハーディさんとジェイルさんが無理やり……」

 セラスは慌てて弁解と抗議をする。

「最初はそうかもしれませんが、その後もご機嫌で絡んできたのはセラスちゃんじゃありませんか」

 今度はハーディが突っかかってきた。

 美形の顔立ちに似ず、カフィーの師匠とは思えない性格の悪さをしているのだ。いや、尊敬しながらも愚痴をぼやくカフィーが、毎日言っていることは本当だった。

「だって……初めてなのに、あんなに気持ち良かったんですもん……」

 顔を赤らめ、両手の人差し指を突っつき合わせるセラス。

 僅かに入り込んで来ただけで脳髄を突き上げる極上の快楽を思い出し、またあれを味わってみたいと臓腑が疼く。もう、セラスは虜になっている。

「初めてなのに、あれだけ大きいのはきつかったでしょ? 僕も人一倍とは言われますけど、全部入ったことに感心さえします。乙女の神秘という奴ですか?」

「ハーディ、それは少しデリカシーがないぞ……。セラスを俺と一緒にしたら可哀そうじゃないか。そりゃ、これからの楽しみができたのは嬉しい限りだけど、よ。女は入るところが違うんだよ」

「はいはい、二人ともおしゃべりはそれぐらいにしましょう。セラスさんも、痛むようなら薬を出しておきますよ」

 ハーディとアケットの言葉を遮り、カフィーがお皿に盛った昼食をカウンターに置く。

「いや、考えても見ろ。お前はカマトトぶるからつまらないし、ジェイルも早くてつまらないだろ。だから、いままでは俺とハーディ、それからアイツの三人で楽しむしかなかったわけだ。まさにセラスは原石なんだよッ」

 なぜか良く分からない熱弁を振るうアケット。

「カマトトって……。私は、師匠の生臭なところだけは似たくないだけです。それより、冷める前に食べてください」

 流石のカフィーも、こういう時は師匠の目の前で悪態も吐くらしい。

 アケットは、食い下がるかと思えば、セラスと同じ穴のムジナなのか昼食へ欲望の矛先を向ける。セラスも席に着き、昼食を食べ始めた。ハーディも、弟子の一言が胸に突き刺さったと言わんばかりの表情で昼食を腹に収める。

 そこへ、その人はやってくる。

「朝から何の話ぃ? とても危険なお話をしていたみたいだけどぉ」

 昨夜の乱れた状態ではあるものの、緩慢な喋り口調からは予想もできない美女が階段を下りてくる。

 薄手のキャミソールにカーディガンを羽織っただけで、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ絶世の美女だ。薄桃色のロングヘアーは軽くカールして、アメジストを納めた寝ぼけ眼でさえ羨望を覚える。そんな美女の名は――知らない。

「ランさん、おはようございます。と言っても、もう昼なのですけどね」

 呆れ顔カフィー同様、暫定的にランと呼んではいるものの、正しい名前はセラスも聞いていない。そもそも、ここにいる全員の名前さえ、本名なのかどうかも怪しいのだが。

「おはよう、ラン。大したことじゃありませんよ。昨日のことを思い出して、楽しんでいただけです」

「そうぉなのぉ。長旅から帰って来たばかりなのに、ハーディも元気よねぇ」

 年齢も、呼び捨てで呼び合うハーディとランで、どちらが上なのか分からない。二十歳後半ぐらいだろう。

「それで、いつまでそんな誤解を招くような会話をしてるんだ?」

 横から口を挟んだのは、部屋の隅で寝ていると思っていたジョニーだ。もちろん、なぜ教会の名残である祭壇の上に張り付けられているのかは、問わない。

「誤解って?」

 アケットが怪訝そうな顔をする。

「別におかしな話はしていないと思いますけど」

 変なことを言い出す相棒に、セラスが顔をしかめてみせる。

「いや、十分にいかがわしいだろ……」

『昨日のセラス歓迎酒宴会のどこが、いかがわしいと?』

 ジョニーの呆然とした言葉に、残る五人が口を揃える。

「そりゃ、絡み酒なんて酒癖は人に言い辛いですけど」

「初めてで大ボトルを飲み干すなんて、できることじゃないわな。ま、女には別腹があるからな」

「僕も、飲み負けるんじゃないかと心配しましたよ」

「酒こそ百薬の長よぉ」

「ほどほどなら、ですよ。私は飲みませんけど」

 四人の反論と一人の突っ込み。

「いや、もう良い……。今日もここは賑やかです」

 いつもの軽口を聞く元気もないのか、ジョニーが珍しく食い下がらない。

 それはさて置き、ここにいない『 』のメンバーはジェイルだけだ。カフィーの話によると、今朝早くから教会に出かけたとのことだ。


 さて、アグネスが来る前に更新しておきましょう。ほんと、どんだけ待たせるんだよ!ってファンの方々が御怒りになられています。

 感想とかないですけどね(笑)。

 たぶん、この回が一番長くなると思います。佳境に入るまで残り二話、プラス重要な戦闘が『 』の人数分とエンディングがひとつ。諸々を入れても十話近くになるんじゃないかな?

 更新が遅いのは、サボっているのと戦闘シーンの順番が構想できていないのでしばしお待ちください。

 それでは、いろいろと言い訳を重ねておりますが、ご勘弁のほどを。

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