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盲目の復讐者  作者: 翠色じゃないヒスイ
3章・海賊と幽霊船
11/22

その1

 細波の音を頼りに港町を駆け回る。

 ジェイルはセラスを抱え、カフィーの直ぐ後ろを走っている。その後ろでは、アケットがカイナと交戦しながら徐々に距離を港に近づける。

 後退しながらの応戦はアケットにも難となるのか、何度も体勢を崩しながら辛うじてカイナの投擲する短剣を弾き落とし、避け続けていた。時には舶刀と手甲爪を打ち合い、必死に時間を稼いでくれている。

 ジェイルはアケットを助けに行きたかったものの、歯を食い縛って前を向き直る。カフィーも同じ心境なのだろうが、仕事は仕事だ。

「私は一人で走れますッ。アケットさんを、助けに行ってあげてください!」

 セラスが肩の上で暴れ、仕方なくジェイルは地面に降ろしてやった。

「あいつが言ったんだ。お前を頼むって。任された仕事を放り出すと、怒られるんだよ、アケットに」

 どうして助けに行かないのか、そんな表情をするセラスに、ジェイルは苦笑を浮かべて答えた。

 信じて任された仕事だからこそ、それを放り出すことができない。例え仲間を助けるためであっても、アケットにとってそんな理由は畑の肥料にもならないのだ。

「…………」

 ジェイルの答えに納得したのか、セラスは黙り込んで港へ向かう。

 フッと後ろを振り向いたジェイルが見たのは、アケットが漁業用の銛を投げてカイナの腹部を貫いた瞬間だった。

 思わず拳を握り締めてしまったが、後ろをついてくるアケットが手を振って「急げ」と合図する。銛で腹に風穴を開けられ、家屋の壁に繋ぎとめられたカイナが絶命していないわけがない。そう、ジェイルは高を括った。

「……マジかよッ?」

 そんなジェイルの予想に反し、カイナは腹に突き刺さった銛を引き抜こうと足掻いている。致命傷を喰らった人間とは思えない動きで、壁から銛を抜こうとしているのだ。

「あいつは殺せん! 俺の予想だが――」

「あれ? 皆さん、どこへ行くんですかッ?」

 アケットが声を張り上げたところで、通りかかったラットルに声を掛けられてしまう。

「――すまん、帰りの護衛はできそうにない! 他の護衛を雇ってくれ」

「ちょっと、どういうことですかッ? うわッ」

 逃げるアケットを追おうとラットルが身を乗り出したところで、

「頭を下げてろ。痛ッ……」

 カイナが投擲した短剣に気付いてアケットがラットルを押し倒す。

 短剣はアケットの腕を掠め、刃を血に塗らす。

「大丈夫かッ?」

「これぐらい、かすり傷だ。積荷に隠れろ」

 追いついてきたアケットの安否を心配するものの、傷は思いのほか深くないのか気丈に振舞う。

 カフィーは先に、港の積荷の木箱に隠れる。セラスも後に続いて、食糧と思しき絹袋に山に身を伏せる。ジェイルとアケットも、適当な木箱を見つけて身を隠した。

「本当に大丈夫か? 傷はそれほど深くないみたいだが、足がふらついていたぞ……」

「あぁ、傷は、な。ただ、どうやら痺れ薬が塗ってあったみたいだ。すまん、ちょっと休むわ」

「お、おいッ……」

 抜かったとばかりに自嘲の笑みを浮かべて、アケットが暗闇の中で目を閉じる。ジェイルが呼び止めるのも聞かず、アケットの意識は睡魔の中へと駆け込んでしまった。しかも、昨日からしっかりと睡眠をとってなかった所為か、ジェイルにも睡魔の波がやってきてしまう。

「少し休むか。ここなら、カイナの野郎も迂闊に近づいてこないだろうし」

 そう独り言を呟き、ジェイルも睡魔に身を委ねる。

 まさか、カフィーとセラスまでもが、身を隠した積荷の中で惰眠を貪るなどとジェイルも思いはしなかった。誰にも起こされることなく、積荷は四人の存在を失念したまま船に積み込まれてゆく。

 それから四人が目を覚ましたのは、積荷が積み込まれた船が海洋のど真ん中にたどり着いてからだった。しかも、ただの貨物船ならば問題はない。

「……?」

 積荷の感触から一変して、木材の硬い感触が直に肌を伝わってくる。カビ臭い匂いも鼻を突くため、二度寝という安眠は妨げられる。

 目を覚まし、ジェイルはゆっくりと周囲を見渡す。

 薄暗い船倉と思しき部屋で、鉄格子に囲まれた状態だということは理解する。鉄格子はそれほど広くないのか、他の三人も少し距離を置いて座り込んでいた。

「寝すぎだぞ、ジェイル。木箱から放り出されても寝続けるとは、どんだけ図太い神経をしているんだ?」

 寝起きの一言目が、鉄格子にもたれかかったアケットのそれだった。

「手前ぇにだけは言われたか……それより、傷はッ?」

 突っ込みも中途半端に、怪我を負ったアケットを心配する。

「心配はいらんよ。あまり深くなかったから、寝てる間に血は止まったよ」

 布切れを巻いた腕を見せて、アケットが包帯の下で笑みを浮かべる。

 無事であることを確認してジェイルは安堵する。そして、現状の説明を誰ともなく求める。

「で、これはどういう状況なんだ?」

「どうやら、海賊の積荷に隠れてしまったらしくて……。私も、セラスさんも、寝てしまっている間に見つかって捕まってしまいました」

「見ての通り、武器は奪われて抵抗もできません。私なんて、魔法を封じる手錠までかけられる様です。ジョニーなんかは、猿轡を噛まされてどこかに仕舞われちゃいました」

 カフィーとセラスが答える。

 セラスにおいては、『封魔の錠』と呼ばれる魔法を使えなくする円状の錠を両腕に嵌められている。杖が魔法や魔術を生み出す触媒だとするなら、『封魔の錠』はその逆で中和する性質を持つ。

 ジョニーに関しても、喋る案山子なんぞというものは海賊にとっても不気味に映ったのか、檻の中にはいなかった。

『……ッ?』

 四人揃って打つ手無しと諦めた瞬間、唐突に船全体が揺れる。暗礁にでもぶつかったのかと思ったが、船底にある船倉に海水が流れ込んでこないところを見るとそうでもないらしい。

 しばらく弱震が続いた後、甲板から慌しい足音が響く。それから船倉へ、数人の男達が降りてくる。

 頭に水夫のようにバンダナを巻き、舶刀を腰のベルトに差した恰幅の良い男と、同様の格好で細身の男、中肉中背の三人だ。

「おい、外に出ろ!」

 恰幅の良い男が声を荒げる。

「入れと言ったり、出ろと言ったり、どちらかハッキリとして欲しいもんだな」

「喧しい! そっちの魔術師の娘は残れ。人質だ」

 アケットの軽口を遮り、中肉中背の男が引っ張り出していたセラスを檻に戻す。

 人質ということは、これから残りの三人にどこかへ向かわそうとしているのか。それも、武器を返さなければ危険な場所へ、だ。

「何があったのか聞かせてもらおうか? 事と次第によっては、俺達が協力しても良い。その代わり、俺達の解放を約束してもらうぞ」

「何があったのか、は外に出れば分かる。但し、手前らに交渉の余地があると思うな」

「はいはい、殺生与奪はお前らにかかってる、ってことね。だが、せめてその男をここに残すことはできないのか?」

 交渉するのは不可能と見たアケットが、妥協してジェイルを指差してくる。

「なんで俺なんだ?」

「へッ? いや、セラスが心配じゃないのか?」

 ジェイルが問い返すと、アケットは素っ頓狂な声で鸚鵡返しに問う。

 確かにセラスだけを残すのは心配だが、セラスが人質という立場に置かれている現状では、どちらかというとジェイル達の方が有利なのだ。

 なにせ、仲間になって日の浅いセラスならばこの四人の中でも切り捨て易い。アケットの言葉を借りるなら、自分達の命のためなら仲間も見捨てる、である。

「駄弁ってねぇで、とっとと歩け!」

 妥協案も拒否されたらしく、三人は無理やり歩かされる。

 甲板に出たところで、ジェイルは形容のし難い悪寒を背中に感じた。

 名前のない三人組、好きだな、おい……。まあ、たぶん、名前を出さずに操りきれるのが三人ぐらいが限度だから、そうなるんだろうけど。

 さてさて、四人の受難はまだまだ続く。これからどうなることやら。

 時間があるときにでも、登場人物のアニメ声優(仮)でも考えようと思う。

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