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紅腕の白魔女  作者:
8/8

ep.8 初めまして。

スカーウ「やけに静かだな。」

アーサー「そもそも魔獣と人間以外はこの環境で暮らせないからな。」


アーサーはスカーウの表情を見ると、少し心配していた。


アーサー「降下前のアレ、気になるのか?」

スカーウ「何か異常な事が起きていたのは明らかだ。」

アーサー「今考えても仕方ねぇよ。帰ってから調査するぞ。」

ギャラハッド『2人とも!サテライト北部から複数の魔獣反応!』

アーサー「どうやら、簡単な調査で終わらせるつもりはねぇようだな。」


ーザッ!ー


スカーウ「無線か、前方の部隊だな。」

アーサー「行くぞ!」

ギャラハッド『待って!』

アーサー「どうした?!」

ギャラハッド『おかしい、別方向に魔獣の反応!それも強力な...?!』

スカーウ「異常か?」

ギャラハッド『反応は、後方から!』

アーサー「後方?それはサテライト側だろ?」

ギャラハッド『間違いないよ。サテライトから魔獣が来てる!』

アーサー「意味わかんねぇ...」

スカーウ「アーサー!どうする?」

アーサー「スカーウ!お前は後方の支援だ!前方は俺が行く!」

スカーウ「了解した!!」


2人は確認を取り合うとすぐに二手に別れて走り出した。



ー第2機導軍 後方ー


スカーウが後方に着いた時にはあたりの雪は真っ赤に染まっていた。悲鳴はなり止むことがなく、銃声と魔獣の咆哮が響く地獄だった。


スカーウ「スターヴウルフの群れか?!とてつもない量だ、それに何だ...あの魔獣は...!」


到着後、すぐに魔獣に襲われる軍人を助けに回ったが、サテライト側からこちらにゆっくり移動している巨大な魔獣を見て、スカーウは混乱する。

その魔獣は獣の形をしておらず、巨大な卵のような形だ。

足はなく、タコのような触手が下から無数に生えており、ズリズリと擦り歩いている。その卵を守るように大量のスターヴウルフが取り囲っている。


スカーウ「あの卵みたいな魔獣、魔力を生産している?!」


卵から発せられる膨大な量の魔力が周りの魔獣を強化し、凶暴化した魔獣がその魔力からどんどん繁殖する。

スカーウは無線でこの事をアーサーに伝えるが、魔力がハーツに干渉しているのか、上手く無線が繋がらない。


スカーウ「アーサー!右の軍をこっちによこせ!アーサー!聞こえてるか?!」

第2軍人「た、助けて...ぐぁ!!」

スカーウ「チッ...お前ら!俺の後ろに回れ!負傷したものから配置中心部へ迎え!ギャラハッドが回収する!」

???「初めまして。紅腕の白魔女。」

スカーウ「?!」



ー第2機導軍 前方ー


アーサー「魔獣はどこだ?」

第2軍人「魔獣だ?」

アーサー「ギャラハッドがこちらに魔獣の反応を感知したと。」

第2軍人「魔獣は今のところ遭遇していないぞ。」

アーサー「いや、確かに魔獣の反応があったと、それに無線も...」


ーザザッーアー...右の...こせー...サー...ー


アーサー「スカーウか?!そっちは大丈夫か?!」

第2軍人「今のは?!」

アーサー「ここと同じように後方からも魔獣の反応があった。先にスカーウを後方に向かわせたが、すぐに後方に向かおう。」


アーサーは長く無線を押し、左右の軍を中心部へと招集した。


ギャラハッド『アーサー?!魔獣はいた?!』

アーサー「ギャラハッドか?!こっちに魔獣はいなかった!」

ギャラハッド『だよね?!前方は張ってたけど魔獣は目視出来なかったの!それと、後方から見たことない量の魔獣が来てる!それにおっきな卵もある!』

アーサー「卵だぁ?!」

第2軍人「すぐに後方に向かいましょう!」

アーサー「いや、半分に分けよう。前方からの魔獣の襲撃もあれば挟撃されてしまう。ここに残った軍は待機だ。異常があればすぐに無線を飛ばせ!」


アーサーはそう言い残すとすぐに後方へととんぼ返りした。



ー第2機導軍 後方ー


逃げ惑う軍人たちを、まるで狩を楽しんでいるかのように魔獣が追いかけている。


第2軍人「く、来るなぁ!!」


第2機導軍は対魔獣のエキスパートだが、統率の取れた魔獣の軍には歯が立たなかった。

戦況は劣勢。そしてその指揮を取っているのが卵の魔獣の上に立っている謎の男だ。男は黒い布を羽織っており、まるで昔に見た事があるような姿だ。


???「初めまして。紅腕の白魔女。」

スカーウ「初対面じゃないだろう。」

???「初めましてのはずですが?」

スカーウ「物覚えの悪い奴は好かない。それと、見え透いた嘘を吐く奴もだ。」

???「いやぁ、てっきり忘れてる物かと思いましてね、気を使って初対面の振りをして差しあげたのですよ。」

スカーウ「小さな親切は大きなお世話だぞ。」

スルト「ワタクシはスルト。いずれは挨拶に伺おうと思っていましたが、まさかあなたからいらっしゃるとは。」

スカーウ「どういうつもりかは知らねぇが、その卵、守ってるんだろ?」

スルト「そうです。ワタクシの目的はこの卵をある場所まで運ぶことです。」

スカーウ「俺の軍ではないが、任された以上はこの虐殺を見届ける訳にはいかない。」

スルト「なら力ずくで止めてみるといいですよ。」

スカーウ「了承を得られて良かったよ。」


スカーウはまっすぐ走り出した。目的は無尽蔵に魔力を垂れ流している卵の破壊だ。

腕を構えるとガチャガチャと開き、およそ60センチの短刀が内部から飛び出した。それを掴みそのまま卵に切りかかったが、スルトに割って入られた。


スルト「邪魔しないとは言ってませんよ。」


ガキィィンッ!!


スカーウは後ずさりした。

今の衝撃でスルトのフードがファサリと落ちた。

その頭には人間とは思えないおぞましく燃え上がるような角が生えていた。


スカーウ「やはり魔人か。」

スルト「魔人をご覧頂くのは初めてですか?」

スカーウ「以前にも一度あったと言っているだろう。」

スルト「そうでした。では初めて見せる魔法を使いましょうか。」


ゴオォォォッ!!


スルトの右腕から強力な炎が出ると、それは棒状に収束された。


スルト「【豪炎魔法 炎の剣】ホムラノツルギ。」


スルトは自身の背部から豪炎を放ち、一瞬にしてスカーウまで近付いた。

至近距離で放たれた一撃を自身の短剣で受けるが、その衝撃は凄まじく、スカーウの背後1面の雪景色と血液を蒸発させた。


スカーウ(物体じゃない炎が、まるで本当に剣があるような質量まで練り上げられているッ!!)


チッチリッ!!


スカーウ「?!」


スカーウは剣を振るいスルトから距離を取った。

何と自身の剣が溶かされたのだ。

両刃の短剣だが半面が使えない状態だ。


スカーウ「まずいな...。」

スルト「ワタクシ共はこのままサテライトから離れます。ここで引くのであればこれ以上の犠牲は出さないと約束しましょう。」

スカーウ「逃げられると思っているのか?」

スルト「ワタクシのセリフです。」


スカーウは目を閉じ、ゆっくり息を吸い込み吐くと、自身の剣に優しく触れた。


スカーウ「【付与魔法 水激】エンチャントスプライト。」


スカーウの短剣が光を反射する透明なオーラに包まれる。その表面は僅かにチリチリと魔力が弾けている。


スルト「少しはキレるようですね!」


スルトの大振りな攻撃に、スカーウは手数で押し込む。

痺れを切らしたスルトは大振りでスカーウを潰しにかかった!


ゴッ!!


再び鍔迫り合いの局面になるが、受けた衝撃を反射するようにスカーウの短剣が爆発した。


スルト「これは...?」

スカーウ「水魔法で作った水と風魔法の応用で作った二酸化炭素を混ぜた複合属性の付与魔法だ。軍では兵舎の火事に消火用として炭酸水が使われていた。付与魔法で再現できるかどうかは分からなかったが、試してみるものだな。」


ガッ!ゴッ!ギィンッ!


攻守が変わり一方的にスカーウがスルトに切りかかる!

スルトが立て直そうと距離を取った時、その時を狙っていたようにスカーウは卵に向かって走り出す。


スカーウ「今なら壊せる!...?!」


突如地面が揺れ、巨大な蛇が姿を現した。


スカーウ「しばらくスターヴウルフが現れないと思ったら、コイツを作る為に魔力を温存していたのか!」


大蛇はまっすぐ体を地面から出すと、今度は横に倒れ始めた!


第2軍人「う、うわぁ!!」


大蛇の倒れる先には負傷した軍人を担ぎゆっくり後退していたが、逃げ遅れた第2機導軍の軍人だった。


スカーウ「ッチ!」


スカーウは卵を諦め第2軍人のところに走り出し、押し潰される直前で2人を突き飛ばした。


ズズウゥゥンッ...


巨大な地響きと共に大蛇は体を地面に叩きつけた。


第2軍人「ス、スカーウさん!!」


スカーウ「...んぐッ...!!」


何とスカーウは大蛇の衝撃に耐え、大蛇の体を持ち上げて耐えていた。

そこにスルトが自慢の豪炎を使った加速で強力な蹴りを放った。

スカーウはだるま落としのように吹っ飛ばされた。


スカーウ「...かはっ!」

スルト「その発想力と応用力は褒めましょう。」


スルトはゆっくりスカーウに近付き、先程スカーウが助けた軍人の肩をトンッと触ると、2人の軍人は豪炎に包まれ、一瞬にして灰になった。


スルト「もう少し慣らしたいところでしたが、もう収穫してしまいましょう。」


スルトが炎の剣をスカーウに突き刺そうとした時、


ガギィィッ!!


スルトは気が付くと卵のそばまで吹き飛ばされていた。


スルト「何者ですか?」

アーサー「ウチの下っ端が世話になったな。」

スルト「旧人類に興味はありません。」


スルトの大振りが辺り一面を豪炎に包むが、そこにアーサーの姿はなかった。

アーサーはスカーウを担ぎ遠く離れた場所にいた。


アーサー「よく粘った。ゆっくり休め。」

スルト「旧人類よ。今退くなら見逃してあげます。」

アーサー「遺言か?聞くのもめんどくせぇから遺書にしろ。」


スルトは再び大振りで攻撃するが、アーサーの剣に触れた時、スルトの炎の剣が今度は物体がないように、ただの焚き火だったように消えた。


スルト「炎の剣が...。」

アーサー「エクスカリバー。行くぞ。」

スルト「エクスカリバー...。勝利を意味する剣ですか。」

アーサー「冥土の土産話にはちょうどいいだろ?」

スルト「えぇ。何も出来ずワタクシの背後を見つめる旧人類の話はいい土産話になりますよ。【豪炎魔法 獄の檻】インフェルノ!!」


スルトの腕や肩、背中から燃え上がった豪炎はアーサーをぐるりと囲み、まるで鳥籠のように高く舞い上がった。


アーサー「これは...行動範囲を制限する魔法か。」


アーサーは一瞬は驚きつつも、スルトを視界に抑え続けるため、すぐに檻を切りにかかった。

だが切った傍から炎は舞い上がり、すぐにその檻の形に戻る。


アーサー「魔力を断てない?!」

スルト「インフェルノは自身が発動を終了するまで鎮火される事はありません。その間自身はインフェルノ以外の魔法を使用できませんが。」


スルトは振り向き、巨大な卵の上に立つと、卵は再び進行を開始した。


スルト「また会いましょう。愚かな旧人類の皆様。」

アーサー「待てッ!!」


アーサーは鬼神の如く乱舞でインフェルノを切り裂くが、霧や雲、いや、まるで炎その物を切っているように、手応えがない。しかしその豪炎は変わらず、中と外を完全に遮断する。


アーサー(クッソ...逃げられる...ッ!!)


アーサーが苦しそうな表情を見せた時、巨大な卵の上に人影が飛び乗る。


スルト「ッ!!」


ガキィィィッ!!


スルト「まさかまだ動けるとは...。さすがは紅腕の白魔女。」

スカーウ「だ...まれっ!!」


キィィィンッ!!


スルトに弾き飛ばされ距離を置くが、瞬時に自身の短剣をスルトに真っ直ぐ投げる。

スルトはその投擲を見切っており軽く弾くが、本命の攻撃は短剣ではなく、スカーウの左腕の大振りはスルトの右顔面に直撃した。


スカーウ「オラオラオラッ!!」


スカーウはここぞとばかりに連撃をぶち込む。

スルトがよろけた時にトドメの一撃をしようと左腕を構え、顔面に殴りかかったが、なんとスルトはその一撃を掴んで止めた。


スカーウ「?!」

スルト「この腕は少々厄介ですね。」


スルトは掴んだ手から直接豪炎の熱エネルギーをスカーウの左腕に流し込むと、スカーウの左腕は内側から膨張するように爆発した。


スカーウ「ッぁぁぁあああッ!!」


よろめくスカーウに、今度はスルトが大振りの拳を食らわせ巨大な卵から突き落とした。


アーサー「スカーウッ!!」


???「っブねぇぇ!!!」


ズザァァァッ!


外部から走り込んできた何者かが落ちてくるスカーウを受け止めた。その男は、任務出発前に第2特殊機導隊に憎まれ口を叩いていた軍人のうちの一人だった。


スルト「いずれ再び会うことになるでしょう。次こそは摘んで差し上げましょう。」


ズゴゴゴゴゴゴッ!!


巨大な卵は前進する速度を上げ、みるみる遠く、小さくなっていく。やがてその地鳴りが聞こえなくなる頃には、辺り一面に居た魔獣の群れも姿を消していた。残ったのは軍人だった物と魔獣の死骸だけだったが、明らかに数が合わない。

おそらく生き残った魔獣が回収したのだろう。


完全に巨大な卵が見えなくなった時に、【豪炎魔法 獄の檻】は解かれた。



















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