ep.7 性悪だな
それから日が過ぎ、毎日が忙しかった。
朝早くから出動命令のアラートが鳴り、兵舎に戻るのは日付けの変わる直前だ。
スカーウ「いつまで続くんだ...。」
アーサー「こっちが聞きてぇよ...。」
次第に会話も少なくなり、落ち着いた頃には1ヶ月が過ぎていた。
ーサテライト外 とある集落の周辺にてー
アーサー「コイツで、最後っと...。」
魔獣に突き立てた剣を引き抜き、アーサーはどすんと座り込む。
スカーウ「早く帰るぞ。」
アーサー「どんだけメシ食いてぇんだよ。」
ギャラハッド「迎えに来たよ〜...。」
破天荒に明るいギャラハッドでさえ元気がない。
スカーウ「季節の境目だと聞いていたが、もう夏だぞ。」
アーサー「いつもはこんなに長続きしねぇんだけどな...今年は長ぇ...。」
ギャラハッド「でも、これを乗り越えれば、冬前までは暇が続くよ...。」
アーサー「魔獣のバカ共がサテライトにさえ来なけりゃなぁ...。」
スカーウ「エサ溜め込んでるお前達の問題だろ。」
アーサー「エサだァ?お前もしかして人間の事をエサ呼ばわりしてんのか?」
スカーウ「違う。魔力の話だ。」
アーサー「魔力ってったって、そもそもそこら辺にも微弱な魔力が流れてるだろ。」
ギャラハッド「村や町は特にね〜...。」
スカーウ「魔力が密集する理由は知らないが、サテライト内はかなりの量だぞ。」
アーサー「んな訳ねぇだろ。マーリンの作った魔力観測装置でも感知出来なかったんだぞ。」
スカーウ「その装置をサテライト外で1度でも使用したのか?」
アーサー「いや、そもそも魔力観測装置は第2特殊の独占技術だ。持ち出したりなんてした事ねぇよ。」
ギャラハッド「装置がバカデカなんだよね〜。」
スカーウ「魔力の溜まった場所から観測しても周りの高密度の魔力が通常であると誤認させたのだろう。」
アーサー「そ、そんなに魔力が溜まってるのか?」
スカーウ「あぁ、かなりなんて量じゃない。1匹の魔獣が星が終わるその日まで活動出来る量だ。」
アーサー「はあぁ?そんなに大量なのか?!」
スカーウ「織姫は魔力が見えないと言っていたが、魔力が見える魔人からすれば、見通しがわるくなるほどだ。」
アーサー「じゃあ、サテライト内の魔力を全て排出すれば、サテライトは狙われないのか?」
スカーウ「完全に魔獣のヘイトを剥がす事は難しいだろうが、効果的だとは思う。」
ギャラハッド「理論上はってやつだね。でも難しいのは魔力を排出する技術より...」
アーサー「キングの作戦許可が下りるかどうか、だな。よしっ、ラモラックに頼るか。」
スカーウ「ラモラック?」
ギャラハッド「情報通信部のリーダー兼、第2特殊機導隊のラモラックだよ〜。一応言うけど、この前会ってたペリノアの子供だよ。」
スカーウ「ペリノアの息子なのか。」
アーサー「頭の良さは父親譲りだな。それに、困った時は頼りになるヤツだ。」
ーサテライト 兵舎食堂にてー
スカーウ「こんなところで待ち合わせして大丈夫なのか?」
アーサー「問題ねぇよ。要件は既にメールで送ってる。」
シュラソー「お、第2特殊じゃあねぇか。」
ギャラハッド「げ。」
スカーウ「暫くぶりだな。」
アーサー「これはこれは、第2機導軍のシュラソー隊長。お疲れ様です。」
シュラソー「公の場でもねぇし、今は休憩時間だ。堅苦しいのは無しにしとけ。」
アーサー「そんで、なんでここに?」
シュラソー「いやたまたま...」
シュラソーのセリフを遮るように何者かが会話に割って入った。
ラモラック「あのメール本気で言っているのか?」
アーサー「お、ラモラック!」
ラモラック「僕はオススメしないね。あんな無茶な作戦が通るとは思わないね。お、君がスカーウか。これからよろしく。」
スカーウ「世話になる。」
ラモラック「それと、なんで君がここに?」
シュラソー「だから!たまたまだっつってんだろ!」
ラモラック「はぁ...アーサーの作戦案では恐らく通らないだろう。別の案を考えないと。」
スカーウ「アーサーの作戦案?」
アーサー「いやぁ、サテライトの天井取っ払っちまおうって話〜。」
ギャラハッド「よくそれが通るって思ったね。」
ラモラック「とりあえず、魔力を排出する装置はマーリンに報告しておきます。ですが、何をするにせよキング議長を納得させなければ。」
ギャラハッド「でも第2特殊にはキングは手を貸さないじゃん。」
アーサー「もそもそ耳を貸すことすらしないだろうし...」
スカーウ「第2特殊以外なら聞くのか?」
一同「あ...。」
シュラソー「は、はぁ?俺に行けってか?」
アーサー「頼む!お前しかいないんだ!この話が通れば正式に作戦案を立案できるし、魔力の排出に成功すれば魔獣が攻めてくることも無くなる!」
シュラソー「その、魔力の排出とかは知らねぇが、分ーったよ。話に行けばいいんだろ?」
ギャラハッド「ありがとね〜。」
スカーウ「恩に着る。」
シュラソー「そういえば、ちょうどついさっき緊急議会が開かれるって連絡があったぜ。」
アーサー「俺には来てねぇぞ。」
ラモラック「当たり前でしょう。第2特殊は国が運営する軍ではないので。」
シュラソー「俺は第2機導軍の任務があるから行くつもりはなかったけどよ。」
アーサー「要するに、俺達が代わりに第2機導軍と行けばいいんだろ?」
シュラソー「そういうこった。」
アーサー「よし、そっちは任せるぜ。ラモラック、台本を用意してやれ。」
シュラソー「あんまり第2機導軍をこき使うなよ。」
ーサテライト 兵舎軍用倉庫にてー
アーサー「以下により本日の作戦指揮は我々第2特殊機導隊が執り行うものとする。」
第2機導軍人「本気で言っているのか?」
第2機導軍人「所詮第1特殊の真似事してるような連中だろ?なんで俺達がお前らの言う事に従わなきゃなんねぇんだよ!」
第2機導軍人「そうだ!この税金泥棒が!」
アーサーの指示に対して不満が爆発した第2機導軍人は全員が同時に不満を叫ぶ。
ギャラハッド「税金泥棒はあんたらもでしょ...。」
スカーウ「この前みたいに殴って黙らせるか?」
アーサー「いや、力で統制を取るなんて1番やっちゃいけねぇ事だ...。もっとも、簡単な方法ならあるぜ。」
それは、プライドを傷付ける事だ。
アーサー「不満であればこの場に残って構わない。」
第2機導軍人「あぁ、お言葉に甘えてそうするぜ。」
アーサー「第2特殊機導隊は第2機導軍を置いて自分達だけでも任務に行く。」
第2機導軍人「お前らだけで何が出来んだよ!」
アーサー「君達名誉ある第2機導軍は国の出動命令に背き逃げ出した臆病者だと報告する事が出来る。」
第2機導軍人「卑怯だぞ!」
アーサー「卑怯なのはどちらだい?我々はそもそも君達に助力する必要は無い。シュラソー隊長の穴埋めだ。そんな我々に感謝の言葉も述べず挙句の果てには罵り任務の放棄、ここまでの能無しは初めて見るよ。」
第2機導軍人「能無しだぁ?」
アーサー「頭だけでなく耳まで悪いとはね。」
第2機導軍人「言われていれば調子乗りやがって...テメェらの方がよっぽど使えねぇだろうが!!」
アーサー「なら証明して貰おうか。是非その優秀さを我々第2特殊機導隊に見せつけて頂きたい。」
スカーウ「性悪だな。」
ギャラハッド「気付くの遅いね。」
ー2時間後 サテライト北部上空ー
巨大なヘリのような乗り物に軍人が押し込まれている。
ヘリのせいで機内でも轟音だ。
緊張と圧迫感でかなり息苦しい。丸い小さな窓からは外の景色が見えるが、青い空と白い雪原以外は何も無い。
アーサー「今回の任務はあくまで調査であり、接敵した場合のみの戦闘だ。目的地周辺に到着後、我々第2特殊を囲むように降下、調査ポイントまでは徒歩での移動だ。第2機導を4グループに分け、第2特殊から100メートル先を4方向に分け続いてもらう。異常があれば無線を短く押せ。こちらからの指示がある場合は長く押す。その場合は各自すぐに中央に集合するように。以上だ。」
第2機導軍人「足引っ張んなよ!」
ギャラハッド「目的地に到着10秒前〜各自降下せよ〜。」
第2機導軍人「おっしゃ!行くぜ!!」
第2機導軍がどんどん降下しパラシュートを開いていく。
全員が降りた後、第2特殊が降下する。
アーサーが先に下りるはずだが、降下直前、一瞬止まった。
バチィッ!!
それはまるで脳をムチで打たれたような強烈で短い激痛だった。
アーサー「ッ痛!!」
その影響を受けていたのはスカーウもだった。
しかしスカーウはアーサーほど痛そうにはしていなかった。
スカーウ「アーサー!!」
アーサー「あぁ...分かってる!」
ギャラハッド「どうしたの?」
アーサー「いや、問題ない。」
そう言うとアーサーはそのまま降下して行った。
ギャラハッド「スカーウ!アーサーに無理させないでね!」
スカーウ「任せろ。」
そしてスカーウもアーサーに続いた。
ビュオォォォォッ... バサッ!!!
ドシャァァッ!!
軍のパラシュートはスムーズに降下する為に死なない程度までしか減速できない。
スカーウ「アーサー!」
アーサー「恐らく、さっきの激痛は俺とお前だけらしいな。」
スカーウ「撤退するか?」
アーサー「今俺達が抜けると指揮系統は死ぬ。今回は調査だけだしこのまま続行するぞ。」
スカーウ「了解した。」
激痛の正体は不明だが、2人は任務の続行を選んだ。
一方、少し前のシュラソーは
ーサテライト 王の御前 にてー
キング「みなよ。よくぞ参った。」
巨大な部屋は壁一面がガラス張りであり、中央に長い机、部屋の奥には背もたれの長い玉座。
そこに座しているのがあのキング・ホート議長だ。
シュラソーとその秘書として参加したラモラックは緊張から重々しい表情で自身の席へと向かった。
静かな会議室に響く2人の足音はまるで秒針を刻む時計のようで、1歩1歩が永遠のように感じた。
2人が席に着いて少しの沈黙が続いた後、最初に口を開いたのはキングだった。
キング「さて、まずは現状報告だ。第2機導軍。」
シュラソー「は、はい。此度の侵攻での被害は少なく、人員の消費よりサテライト外の領地を失った方が被害が大きかったです。2度目の侵攻の前に領地を奪還すべく、後方支援として物資の供給及び各軍の援助を求めます。」
キング「ほう。第2機導軍の失態により失った損失を他の軍の助力で穴埋めしよう、と?」
シュラソー「誠に申し訳ございません。我々の力のみではこれ以上の損失を出すと判断し、自体が悪化する前に助力を求めた次第であります。」
キング「よろしい。第4機導軍を指揮下に置くといい。」
シュラソー「感謝します。」
キング「して第1機導軍は?」
ケイ「以前と変わりありません。」
キング「そうか...第2特殊機導隊とは違い頼りになるな。」
ケイ「ありがたきお言葉です。」
そこからしばらく他の軍の報告を受けキングは黙々と会議を進める。
キング「以上か。以前と何ら変わらんな。みなの衆よ。冬の侵攻に備え、準備を怠らぬように。」
キングが会議を切り上げようとした時、手を挙げたのはラモラックだ。
ラモラック「発言をお許しください。我々第2機会導軍には報告すべき内容がございます。」
シュラソー「お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」
ラモラックがキングに目配せをし、キングは他の軍を再び席に着かせる。
キング「ほう?」