ep.6 行方不明
ーサテライト 兵舎にてー
ペリノア「嬢ちゃん似合ってんじゃねぇか!」
スカーウ「嬢ちゃんって...俺は男だぞ!」
アーサー「似合ってるぜ。お嬢さん。」
スカーウ「表に出ろ。そのふざけた聖剣とやらを粉々にしてやる。」
織姫「似合ってるわ。スカーウ。」
スカーウ「あんたは怒ってる時とイメージが違いすぎるな...」
白が基調で、ベルトや装備、ポーチ、布の一部が赤い隊服だ。関節部はタマハガネの鎧が装着されている。また、以前までの服装と同じで大きなマントが付いている。
スカーウ「ペリノア、礼を言う。」
ペリノア「ウチの新人だ、礼なんて要らねぇぜ!」
織姫「作ったのはマーリンですけどね。」
アーサー「ペリノアはウチの凄腕鍛冶師だ。」
スカーウ「これからも世話になりそうだな。」
ペリノア「いいって事よっ!」
アーサー「ペリノア。ついでにコイツの腕を見てやってくれねぇか?」
ペリノア「腕だ?」
スカーウは袖を捲り左腕を見せた。
ペリノア「ウヒョォー!!なんだこの機導!初めて見るぜ!」
アーサー「このオッサン、機導が性癖なんだぜ。」
スカーウ「見れば分かる。」
ペリノアはスカーウ達の下衆を見るような視線を他所に舐め回すようにスカーウの左腕を調べる。
最初は楽しそうにイジイジしていたが、そのうち表情が曇り、眉間に皺を寄せる。
ペリノア「装甲や内部ピストンは年季が入ってんのに、そのシステムは意味が分からねぇ...これを作ったのは誰だ?」
スカーウ「元々使っていたのは祖父だ。詳しい事は聞けていない。」
ペリノア「嬢ちゃん、これバラしてもいいか?もちろん元に戻せる範囲でだ。」
スカーウ「構わない。」
ペリノアが慎重に装甲を剥がすと、内部には人間の作るそれとは到底思えない構造になっていた。
ペリノア「こ、これは...っ?!」
アーサー「骨...に直接ボルト...?」
織姫「筋肉や神経が基盤と一体化してる...?!」
ペリノア「嬢ちゃんもしかして、コネクターがねぇのか?」
スカーウ「コネクター?」
アーサー「俺達機導士は腰に穴が4つあるコネクターってのを付けてんだ。移植手術で神経に繋ぐんだが、腕や足の機導はそのコネクターに繋いで使えるようになる。」
織姫「中にはスカーウさんみたいに直接自身の肉体のようにコネクターを使わず機導を装備する人もいますが、その場合は腕を綺麗に切り落としてから装備するのが一般的です。」
ペリノア「どの道嬢ちゃんのコレみてぇなのは初めて見るぜ。」
アーサー「この機導をスカーウに付けたのは誰だ?」
スカーウ「いや、誰が付けたのかは分からない。」
アーサー「もしかして、腕を切られた時の...」
スカーウ「そうだ。8年前、【魔導師のアトリエ】を名乗る連中に腕を切られた。その後、知らない連中に介抱されたんだと思う。」
アーサー「8年前、腕を失くした少女...あーーっ!!!」
スカーウ「いきなり叫ぶな。うるさい。」
織姫「へ、兵舎内ではお静かに...。」
アーサーは焦りながらデバイスで連絡を取る。
アーサー「おい!トリスタン!!8年前の遠征データを持って今すぐ来い!!」
ーそれからしばらくして、兵舎の食堂にてー
トリスタン「何事ですか?おや、ペリノア、織姫にスカーウも。皆さんお揃いで。」
アーサー「俺の事無視すんじゃねぇっ!」
トリスタンは不機嫌そうに持っていた分厚い3冊のファイルをアーサーに手渡した。
トリスタン「しかし、なぜ8年前の遠征データを?」
アーサー「8年前の遠征でよ、1回だけ【魔導師のアトリエ】に追いついた時あったろ。」
トリスタン「マーリンが魔力観測装置を実験運用したあの遠征ですか。彼は「精度が微粒子レベルで使えねぇ」って言ってたね。」
アーサー「違ぇよ。知りてぇのはそれじゃねぇ。」
トリスタン「それじゃない?だとすれば一体何が...。」
アーサー「わざわざ立ち寄った村で僅かな魔力が検出された。思い出さねぇか?」
織姫「そもそもお腹が減って立ち寄った村でたまたま魔力の反応が出ただけですけどね。」
トリスタン「そうですね。その魔力を追って、村外れの小屋までかなり歩きましたし...」
アーサー「その小屋に、腕を切られた少女が居ただろ。」
トリスタン「まさか、あの時の?!」
織姫「ええーっ!!って事は...!」
食堂でパッサパサの固形栄養食を貪り、話を流しながら聞いていたスカーウに全員が注目する。
スカーウ「?」
アーサー「あの時立ち寄った小屋で、腕を切られて死にかけてた子が、スカーウだ。」
スカーウ「もしかして、あの時俺を助けたのは、お前達だったのか。」
アーサー「あぁ。」
スカーウ「それなら、誰が俺にこの腕を付けたのか知ってるんじゃないのか?」
トリスタン「あの後スカーウは私が要請した軍の医療班に緊急搬送されました。この資料にもそう載っています。」
織姫「では、今から医療班に話を伺えばいいのでは?」
アーサー「いや、何か引っかかる。」
ペリノア「何が言いてぇんだ?」
アーサー「そもそも第2特殊の事は第2特殊で解決するはずだ。」
トリスタン「あの時は緊急時でしたので、軍に第2特殊の医療班よりも早く到着出来る軍の医療班が担当しました。」
アーサー「そこだ。」
トリスタン「しかし、わざわざ軍が介入したのは治療後、従業員として炭鉱で働かせる為なのでは?」
アーサー「働かせるだけならいいぜ。問題は何故その処遇が俺達第2特殊に報告されていないか、だ。まるで俺達が見つけたスカーウを攫って隠したみてぇにな。」
スカーウ「アーサーはあの日、なぜ炭鉱に来ていた?」
アーサー「外壁地下に魔獣の反応があったって軍からの出動要請があったんだよ。」
スカーウ「アーサーの読みは正しいようだ。」
織姫「どういう事ですか?」
スカーウ「俺のいた炭鉱には監視カメラのような警備システムは備えられていない。」
織姫「魔力観測装置は第2特殊の独占技術ですし、何者かが常に監視していた...と言いたいのですか?」
スカーウ「そうだ。そのアーサーの言う軍の医療班、もしくは医療班になりすました何者かが俺にこの腕を付けて地下に閉じ込め監視、管理していたという事だ。」
ペリノア「だとしても軍がなんの為にだ?」
アーサー「キング...本格的にきな臭くなってきやがった。」
スカーウ「キング...今の軍のトップか?」
アーサー「そうだ、スカーウ。その炭鉱に怪しいヤツはいたか?」
スカーウ「怪しいヤツか...そもそもあそこには奴隷か囚人しかいなかったか...ら...っ!!」
アーサー「どうした?」
スカーウ「あの日、新しく廃校に来たあの男...ホーアムだ。」
アーサー「あの時、車の中で言ってた炭鉱の従業員か。」
ペリノア「あぁ?そんなのでどうやってこれまで監視してたってんだよ。怪しかねぇだろ。」
スカーウ「違う。人目見た時から怪しい男だった。アイツからは、とんでもない量の魔力を感じた。」
アーサー「スカーウお前、魔力が見えるのか?!」
スカーウ「あぁ。それなりには見える。アーサーのその聖剣とやらもな。」
その場にいたアーサーとスカーウ以外のメンバーが「?」と顔を見合わせる。
アーサー「そ、それよりも!そのホーアムってヤツは今どこに?」
トリスタン「アーサーに指示を受け、捜索した報告書がここに。」
アーサー「助かる。」
スカーウ「コップとケルは...。」
その報告書に書かれていたのは
「遺体を激しく損壊」
だった。
スカーウ「...。」
アーサー「だ、大丈夫か?」
スカーウ「いつか必ず、弔ってやるからな。」
ペリノア「それでよ、そのホーアムってヤツは?」
「ホーアム サテライト外南西地区の炭鉱に割当 護送車が魔獣に襲われ行方不明」
アーサー「行方不明?」
スカーウ「手掛かりは無くなったな。」
織姫「どうしましょう?」
アーサー「軍は怪しい。トリスタン、任せられるか?」
トリスタン「了解しました。」
スカーウ「頼りになるな。」
トリスタン「お褒めに預かり光栄だよ。」
アーサー「どうすっかな〜...。」
スカーウ「キングの周辺を洗うんじゃないのか?」
アーサー「それもいいんだが、これからの季節は忙しくなるんだよなぁ。」
織姫「魔獣は夏と冬の始まり、春と秋の終わりに活動が活発になります。毎年この季節には軍や隊が戦場に駆り出されるんです。」
スカーウ「なぜその季節に?」
ペリノア「んなもん魔獣の行動パターンなんて分かんねぇよ。」
アーサー「んじゃ、今日はもう解散にしとくか、どうせ明日もなんかしらの任務やらさせられるからよ。さっさと帰って寝ようぜ。」
そう言えば怒涛の2日だった。
気絶した時間を除けば睡眠は取れていない。
スカーウ「そうだな。」
アーサー「おっと、ここでの会話は誰にも言うんじゃねぇぞ?」
織姫「第2特殊は秘密の会話しかいつもしていないでしょ?」