ep.3 アヤシイ新人
アーサー「さて、これからスカーウは俺達の隊の新人になる訳だが、その前に口裏を合わせておかなくちゃならねぇ。」
スカーウ「捕まえた捕虜とかでいいだろ。」
トリスタン「入隊前から発想が軍人だね。」
ギャラハッド「誰かの親戚とかは?」
アーサー「いや、隠すだけ怪しいだろ。ここはサテライト外でスカウトしたって言えば何とかなる。」
スカーウ「なるべく手続きがない方法で頼む。」
アーサー「そうだ!前の入隊試験の!」
ギャラハッド「そういえば!よく隊長覚えてたね!」
トリスタン「今マーリンに確認を取ります。」
スカーウ「入隊試験?」
アーサー「半年前くらいにな、新たにメンバーを3人入隊させることにしたんだ。これでメンバーは11人になるはずだったんだが、1人行方不明になってよ...。」
トリスタン「確認取れました。未だに消息は不明です。元々がサテライト外からの応募者だったので、そのメンバーとして入隊させても問題ないとマーリンからの伝言です。」
アーサー「決まりだな!スカーウ、お前は以前この隊に入隊希望したが、家庭の事情でしばらくサテライトに来れなかった、そして落ち着いたから再び連絡を取り入隊した。分かったな?」
スカーウ「了解した。」
アーサー「次の問題だが、名前だよな。」
トリスタン「スカーウ、性は?」
スカーウ「いや性は無い。名がスカーウだ。」
ギャラハッド「じゃあ安直にモルドレッド・スカーウでいいじゃん。」
アーサー「まぁそもそも入隊希望の書類にモルドレッドとしか書かれて無かったからな。ギャラハッドの案で決まりだな。」
トリスタン「いつまでゲート前に路駐してるつもりだ?と警備員から連絡が、」
アーサー「っとすまねぇな。とりあえず城についたらギャラハッドとトリスタンについていけ。お前ら、スカーウの事は任せるぞ。」
ギャラハッド「任せなさい!」
トリスタン「お任せを。」
アーサー「俺は行くところがあるから、スカーウは困った事があればコイツらになんでも言え!医務室に寄ったら部屋にでも案内してもらえばいい。」
スカーウ「分かった。」
後ろの両開きドアをガコンと開く。
警備兵「お疲れ様です。」
アーサー「報告書を書いてから会議に向かうと軍に。」
警備兵「お伝えしておきます。」
アーサー「皆は先に休んでおいてくれ。」
トリスタン「了解しました。行きましょう。」
警備兵「待て。その者は?」
トリスタン「以前入隊試験を受け、合格した者です。もうお忘れで?」
警備兵「入隊試験は知っているが、その者が新しい隊員か。」
ギャラハッド「少し前から入隊してたから新しいって訳じゃないけどね!あれ?もしかして警備兵もあろう者が城を出入りする市民と隊員の顔すら覚えてないなんてね〜。」
警備兵「確認の為だ。さっさと行け。」
ギャラハッド「釣れないな〜。」
ギャラハッドは口先を尖らせ不貞腐れた態度で正門を通る。
それに続きトリスタンとスカーウも荷物を持ちながら正門を通った。
スカーウ「凄い...これがサテライトの中か。」
正門を抜けるとかなり広い駐車場があり、軍用のトラックやヘリなどが何台か配備されていた。驚く所はその奥である。
今ある駐車場よりもかなり低い場所まで広い溝がドーナツ状に掘られており、そこにいくつもの高いビル、空中に通る道路や線路、そしてその町の中心部にある巨大な城だ。
トリスタン「サテライトの中っていうより、サテライトの中にある城壁の中だね。」
ギャラハッド「サテライトの中に城があって、その城の中に市街地があって、その中心に城があるんだよ〜。」
スカーウ「こんな大きな規模で...。」
アーサー「ちょうど貨物列車が城に向かうらしい。乗せてもらおうぜ。」
ギャラハッド「やったー!ヘリはうるさくて嫌いなんだよね〜。」
トリスタン「こっちだよ。」
4人が乗り込んだのは8両編成の大きな貨物列車だ。
スカーウ「いったい何種類の乗り物があるんだ?」
アーサー「よく使うのは車と貨物列車、ヘリに、後はバイクだな。船は滅多に乗らねぇぞ。」
スカーウ「馬には乗らねぇんだな。」
トリスタン「馬に乗るのは貴族くらいかな。」
ギャラハッド「私は貴族出身だから乗ったことあるよ〜!」
スカーウ「これだとどれくらいで着くんだ?」
アーサー「だいたい20分くらいだ。」
スカーウ「この距離をか...凄まじいな。」
街の上空に伸びている線路の上をゴトンゴトンと貨物列車が通る。
上から眺める街の風景は最高だった。
スカーウ「ここは雪は降らないのか?」
トリスタン「天井があるからね。」
スカーウ「この街も城壁の外も室内みたいなものか。」
トリスタン「その通り。だからある程度は暖かい気温だし、日光も作ってる。天井の内側は青空を映す液晶で、外側は日光発電用のソーラーパネルだよ。」
スカーウ「サテライトの中は...こうなってたんだな...。」
アーサー「...サテライトの外の人間も、前まではサテライトで受け入れようってなってたんだ。でも上の臆病な連中がさ、魔力汚染を受けた人間をサテライト内に入れたくないってよ。それでサテライト外への支援は全面的に打ち切られた。それでも、俺達はサテライト外の人間も平等に助けるべきだと判断した。だから巡回範囲も軍とは違って城壁よりも更に外のサテライト外がメインだ。」
スカーウ「別にお前らを攻めている訳じゃない。ただの希望的観測だ。もし、俺の仲間や俺の父親が、サテライト内で一緒に生活していたらって。」
アーサー「もう...こんな悲劇が起こらねぇようにさ、これから頑張ろうぜ...。」
スカーウ「あぁ。」
アナウンス『ビーッビーッー 間もなく到着ー 』
アーサー「うっし、行くか!」
荷物を持ち、列車から飛び降りると、そこには真っ白い巨大な城がそびえ立っていた。
アーサーはまっすぐ城の真ん中にある扉に向かった。
トリスタン「こっちだよ。」
スカーウ「あ、アーサーは?」
ギャラハッド「後で合流出来るよ。」
アーサー以外は正面の扉ではなく白の隣にある別の建物に向かった。
トリスタン「さて、ここが僕らの拠点だ。」
大きな建物が3つほどと、監視塔のある縦に長い建物、いくつかの電波塔と、恐らく車などが格納されている建物があり、正面には広めのグラウンドがある。
スカーウ「まさしく話に聞いてた通りの軍事基地だな。」
トリスタン「まずは医務室に行こうか、君の記録は僕が改ざんと登録をしておくから安心して。その後はギャラハッドに自室まで送って貰って。」
そういうとトリスタンは監視塔のある建物に向かった。
ギャラハッド「じゃあ行こう!今から行くのはあっちの兵舎!あそこには医務室と食堂があるよ!そして今トリスタンが向かったところが司令塔本部!そんであっちが室内訓練棟、そして残り一つが生活棟、基本生活はあっちでするよ。最後にあっちの窓が多いのがガレージね!勝手に入ると整備班がバチギレるから行かないでね〜!」
スカーウ(バチギレる...。)
そこからギャラハッドに医務室に案内してもらい、軽い検査だけ受けた。
その後自室に案内してもらった。
本来は複数人の集合部屋だが、第2特殊機導隊ということもあり個人部屋を貰った。
部屋には小さな窓と机、ベッドがあるくらいだ。
軽い文句を添えたが、ギャラハッド曰く集合部屋には室内に便器もあるらしい。
ガワ以外はほぼ牢獄だ。
ギャラハッド「あ、アーサー!」
アーサー「すまねぇな。ちと時間がかかってよ。」
スカーウ「俺の情報登録は済んだのか?」
アーサー「無事終わったぜ。でも、いきなりの事だから気付くやつは怪しむだろうな。でも、定着しちまえば大丈夫だ。時間の問題だな。」
スカーウ「しばらくは自室にこもった方がいいか?」
アーサー「少しでも怪しまれないようにしたい。隠れるよりは堂々と自己紹介してる方が安全だな。」
ギャラハッド「友達いっぱい作ろうよ!」
アーサー「その前に晩メシだ!食堂行こうぜ!」
一行はそのまま食堂に向かった。
大きなホールで最奥には広いカウンターが2つ、真ん中に長いテーブルが2列あり、大量の料理が盛られていた。
食器やテーブル、イスは全て鉄製で銀色の光沢が刑務所の様な雰囲気を漂わせている。片側の壁はガラス張りでグラウンドが一望できる。
スカーウ「広いな。それに人も多い。」
アーサー「もうちょいしたらもっと混むぜ。早くメシ貰って席取ろう。」
トリスタン「ではあの窓側のテーブル席を取ってこよう。僕の分は任せたよ。」
ギャラハッド「了解っ!」
スカーウ「メシはどれを取ればいいんだ...?」
アーサー「ココはバイキング制だ。メインはあっちのカウンターでお願いして、あっちのカウンターで受け取る。その前でもいいし、その後でもいいから欲しい別のメニューはココのテーブルから取ればいい。」
スカーウ「なんて品数だ。」
アーサー「しまった、トリスタンの分、何にするか聞き忘れてたな...。」
ギャラハッド「トリスタンはサラダしか食べないでしょ。」
アーサー「この前もそう言ってサラダだけ渡したらキレられたじゃねぇか!」
ギャラハッド「そだっけ?」
アーサー「どうせまた俺が選んだとか言い出すんだろ!」
ギャラハッド「隊長早くしないともっと混むよ〜。」
アーサー「んのやろぉ...。」
スカーウ「微弱な魔力がいくつもこちらに向かって来ている。ギャラハッドの言うことは正しい。すぐに行こう。」
アーサー「お、おう。」
3人は各々の食事の乗ったプレートを持ち、トリスタンのいるテーブルへ向かった。
トリスタン「お疲れ様。混む前にここに来れたようだね。」
アーサー「これ、トリスタンの分。」
トリスタン「なるほど、喧嘩売ってます?」
アーサー「い、いや、俺だってサラダオンリーは違うだろって言ったんだ!」
ギャラハッド「よく見てよ!ただのサラダじゃないよ!マヨネーズが付いてるんだ。」
トリスタン「表に出ましょうか。」
アーサー「まじすいません...。」
ギャラハッド「身体にはいいのに〜。」
トリスタン「動物性タンパク質が足りないって前も言ったでしょうが!」
スカーウ「早く食べないか?」
アーサー「そ、そーだな。」
スカーウのプレートに乗ってるのはボソボソの携帯食料とべチョッとした謎のペースト、紙パックに入った水だ。
アーサー「お前、ホントにそれでいいのか?」
スカーウ「食事の時間を最低限にし、体に吸収されるまでが早い食事を所望した。」
ギャラハッド「変わってんね。」
スカーウ「お前達みたいな食事を取ると食後のパフォーマンスが低下する。」
アーサー「逆にそんなディストピア飯食った方が動けねぇわ。」
ギャラハッド「じゃあ唐揚げあげる!」
スカーウ「好意には感謝する。が、結構だ。」
アーサー「じゃあ俺が貰うぜ。」
ギャラハッド「隊長のカレーにはカツ乗ってるじゃん!」
トリスタン(サラダだけ...。)
4人が楽しく(?)食事をしていると、奥からたいそう偉そうな男がやってきた。
シュラソー「おうおう、これはこれは特機のみなさんじゃねぇか〜。」
アーサー「シュラソー隊長、お疲れ様です。」
シュラソー「ちょっと見ねぇうちに新人でも来たか?」
スカーウは無視しながらモッチャモッチャと口を動かす。
シュラソー「無視なんて寂しいなぁ、良いのはツラだけか?」
スカーウ「えっと、モルドレッド・スカーウだ。用がないなら帰れ。」
シュラソー「つれないねぇ〜、魔人はみんなこうなのか?」
スカーウ「?!」
ギャラハッド「?!」
トリスタン「おっと、サテライト内の監視カメラは警備軍以外には強い閲覧規制があるはずですが、第2機導軍隊長はご存知では?」
おそらくサテライトのありとあらゆる所に設置された監視カメラによって、スカーウがヴァンパイアバッドに魔法を使っていた所をシュラソーに見られていたのだろう。
シュラソー「てめぇ俺があのキングの息子だと知って物申してんのか?」
トリスタン「失言を詫びます...。」
アーサー「お言葉ですが、シュラソー隊長は自身が違反行為を犯したことをキング議長に責任を取って貰おうと、そういう事でしょうか?」
シュラソー「そ、そう意味じゃねぇよ。と、とにかくだ!俺はこのサテライトを守る者として、余所者魔人をここにいさせる訳にはいかねぇ!」
アーサー「以前にも上層部にも提出したと思いますが、彼女の第2特殊機導隊への入隊希望書類は受理されています。第2機導軍隊長でも、1人の権限で他の部隊の隊員を除隊にさせることは出来かねます。」
シュラソー「ふーん、除隊以外ならいいんだろ?」
アーサー「と、言いますと?」
シュラソー「おいテメェ。第4訓練室に来い。」
スカーウ「焦るな、食事中だ。」
シュラソー「不慮の事故、なら仕方ねぇよなぁ?」
ギャラハッド「これは面倒臭い事になっちゃったねぇ〜。」
スカーウ「構わない。が、もし俺が勝ったらどうする?」
シュラソー「なんでも言う事聞いてやるよ。テメェが勝てるなんて事はないだろうがな!なんたって俺は、そこにいる頼りない男よりも強ぇからな!!」
シュラソーは高笑いしながら第4訓練室に向かった。
アーサー「さて、俺達も訓練室に向かうか...。」
スカーウ「あの男は強いのか?」
アーサー「手合わせしてみれば分かるぜ。」
スカーウ「俺を試すつもりか?」
アーサー「試すまでもねぇよ。」
ー第4訓練室ー
かなり広めの部屋で、壁の一面が強化ガラスでできており、向こう側には2階と1階の観客席がある。
室内はハリボテのビルの壁や舗装された地面、街灯やポストなど、サテライトの城下町を模した環境が作られている。
ここ第4訓練室は救命活動や、戦闘訓練などに用いられる施設である。
スカーウ「呼び出した割には随分待たせるじゃねぇか。」
シュラソー「相棒の手入れしてたからよぉ。」
アーサー「第2特殊機導隊隊長アーサー、監督としてこの試合を見届けます。」
シュラソー「手出しはすんなよ。」
アーサー「剣を抜くまでもありませんよ。」
スカーウ「ルールはあるのか?擦り合わせておかないと、あとから不服を申し立てられる。」
シュラソー「お、良い煽り方だな。」
アーサー「時間は30分、先に参ったと言わせた方の勝利。これ以外は何をしても構わない。」
スカーウ「了解した。」
アーサー「では、はじめ!!」