ep.22 新人類だ
???「おっとすまない。まずは自己紹介からだね。」
男はネズミを無視し、スタスタとホーアムの目の前まで歩いてきた。
ネズミも最初こそは警戒していたが、男へ噛み付こうと飛びかかってきた。
ホーアム「危ない!」
ガギッ!!
男は腕を後ろへ回し、ネズミの飛びかかりを受けた。
その腕の機導はキィィィィッ!と高い金属音を立てると、装甲がバゴッ!と一瞬で開き、とてつもない衝撃波でネズミを吹き飛ばした。
ホーアム(腕が開いた?!)
プシューッ...
男が手をホーアムへ差し出し、その腕は蒸気を排出しカチャンッと閉じた。
???「僕はニュクス。ニュクス・クロリス・へメラだ。大丈夫かい少年?いや、ホーアム。」
ホーアム「あなたは...あの時の...。」
ニュクスの手を掴み、立ち上がろうとするが、右足の激痛に耐えかねよろめく。
それを見ていたニュクスが自身の杖をホーアムの足へと当てる。
杖はガチャガチャと形を変え、ホーアムの右足を覆う。
痛みはありつつも、ほんの少しの力で足が思うように動く。
ニュクス「君の神経信号を感じ取り動く。力を込めなくても思うように動くさ。さてと...。」
ニュクスはくるりと振り向き、ネズミをランタンで照らす。
ニュクス「感動の再会を邪魔されるのは少し迷惑でね。退場願うよ。」
ニュクスは両方の拳を目の前でガチンとぶつけ、片方の拳を後ろに向けると、先程見せた衝撃波を噴射した。
その衝撃波を利用し、ネズミの目の前までワンステップで高速移動すると、反対の拳をネズミの頭へ優しく当てる。
衝撃波がネズミの頭へと噴射されると、ネズミはその場でのたうち回る。
ニュクス「衝撃波を脳に当てた。軽い脳震盪だ。しばらくすれば元に戻るさ。」
ニュクスはネズミに背を向けホーアムの背中を優しく押した。
ニュクス「出口はこっちだよ。さ、積もる話もあるだろう。昼食でも如何かな?」
ホーアム「は、はい。」
ーサテライト外西部地上 タマハガネ採掘場地上拠点ー
地下は採掘場であり、地上は他の街と変わらず行商や酒場のある街だ。そんな酒場の隅で、自身の追い求めた真相を握る男がユキウサギのシチューをガツガツと食べている。
ニュクス「実は恥ずかしい話、君に話を聞いてからこのユキウサギのシチューが大好物でね。これを食べないと仕事が出来ない程だ。」
ホーアム「あの...お酒は...?」
ニュクス「お酒は夜さ。」
ホーアム「そ、そうなんですね...。」
ニュクス「少年はなぜあそこに?」
ホーアム「売られてたんです。奴隷として。今まで色んなところを転々としてきました。家畜の飼育員や畑作業、今回は炭鉱夫です。」
ニュクス「それは災難だったね。」
ホーアム「ニュクスさんは機導兵なんですか?」
ニュクス「あまりその団体の名は口にしない方がいい。ここでは特にね。」
ニュクスは周りを見るように仕草する。
機導兵はサテライト外では最悪の評価だ。もちろん治安維持や魔獣駆除の為にサテライト外で働く機導兵もいるが、自分達だけぬくぬくとサテライトの中で生活する富裕層と、そんな富裕層の為に働く機導兵は一般常識としてあまり良くない評判である。
また、機導兵にも問題があり、一部の第一機導軍等はサテライト外では横柄な態度で配給の一部を私用したり、不当な徴収を行う場合もある。
ニュクス「この腕の事だろう?僕は生まれつき腕が無くてね。仕方なく機導を使っている。普段はこのコートで隠しているんだ。」
彼がコートと呼んだそれはどう見ても汚いボロ布だ。
ニュクス「浮かない顔だね?」
ホーアム「あなたは...何のために僕を生かしたんですか?」
ニュクス「単刀直入だね。」
当たり前の質問である。
幼くしてこの厳しい世界をひとりで生きることを余儀なくされ、生きる希望でもあった父親が魔獣となって帰ってきた。
全てを諦め、もう生きたくないと死を選択した自分をなぜ生かしたのかと。その真実を知る事が彼が今生きている理由なのだから。
ニュクス「話せば長くなる。それに、ここで話すには少し危険だ。どうだい?僕の家でゆっくり話そう。」
ホーアムは少し悩んだが、どうせ行く宛てもない。ここにいればいづれ採掘場の従業員が自分を探しに来る。
ホーアム「分かりました。ついて行きます。」
スカーウが心配だが、今はこうするしかない。
酒場を出てしばらく西へ、2人は路地を通り人目を避けながら移動する。
ホーアム「なんでこんなに暗い道を通るんですか?」
ニュクス「ん?いや、癖でね。」
ホーアム(癖?)
ホーアムは辺りを見回す。
乱雑に置かれた樽や木箱、隣に座り込む生気のない物乞い。
そんな物乞いには一切興味を示さないゴロツキなど、治安が良くないのは見てわかる。
ふと、ホーアムの頭をよぎる人身売買の可能性。
ホーアム「あなたの家ってどこに?」
ホーアムがそう言った瞬間、突如頭上を巨大な影が通る。
路地を吹き抜ける強烈な風に人々はすぐ屋内へと身を隠した。
ホーアム「な、何?!」
ニュクス「僕がいる限り君の安全は保証されている。ひとつだけ約束してくれ。何があっても驚かないで。」
ズドドドッ!!
とてつもない地響きと爆発音、昼間であるにも関わらず闇夜を街灯が照らすように立ち上る爆炎。
路地を覗き込むようにその正体が現れる。
ゴアァァァァッ!!
長い首に大きな翼、細く長くしなる尾に巨大な鉤爪。
それはワイバーン種に似た姿だが、決定的に違うものがある。身体を支える後ろ足と、路地を押し広げるように建物を鷲掴みにする前足。ワイバーン種とは違い4本足に翼があるのだ。
ニュクス「フレアドラゴンだ。さぁ掴まって!」
ホーアム「ええぇぇっ?!」
フレアドラゴンの前足に2人が捕まると、大きな翼を広げ勢いよく上空へと飛び上がる。
ホーアム「まままま待って!!!」
ニュクス「さぁ我が家へ直行だ!」
ゴアァァァァッ!!
フレアドラゴンの咆哮を残し、一行は西へと移動を開始する。
ーサテライト外西部よりはるか遠く ポリオンス西山群ー
フレアドラゴンは空中で2人を頭上へと乱雑に投げる。
それに合わせ身体をくるりと翻し、2人を背中へと乗せた。
ホーアム「こんなの聞いてないですよ!!」
ニュクス「驚かないでくれって約束したじゃないか。」
ホーアム「してないよっ!!」
2人が愉快に会話をしている時、ふとニュクスが下を見る。
ニュクス「ご覧。」
不満げな顔つきでホーアムは地上を見るが、その顔は懐かしさと過去の悲しい思い出に、落ち着きを取り戻した。
ホーアム「ニューポトロアンス...」
ニュクス「あれから8年も経ったんだよ。」
ホーアムはギロッとニュクスに視線を戻す。
ニュクス「まぁ待て。話は家に着いてから、だろ?」
ホーアム(なんで頑なに話さないんだろう...)
ニュクス「お、そろそろ着くよ。」
フレアドラゴンは身体を傾け高度を落とす。
ニュクスが家と言った場所はポリオンス西山群の中で最も標高の高い山、その山壁にある洞窟だった。
ニュクス「何故僕をそんな目で見るんだい?まさか、魔獣を使役しているからって僕の事も魔獣だと思ってるんじゃないだろうな?」
ホーアム「そうじゃないと洞窟になんて住みませんよ。」
ズズッン...
巨大な身体が洞窟の入口に着地した。
ニュクスはスッと軽々しく降りるが、ホーアムは降り方が悪く転んでしまう。
2人を降ろしたフレアドラゴンは再び飛び上がると姿を消してしまった。
ホーアム「どうやって魔獣を?」
ニュクス「簡単な話さ、僕が親だって事。」
ホーアム「親...?」
薄々感じてはいたが、考えたくもない事実。
ニュクス「ここが僕の家、魔導師のアトリエ。そして紹介しよう。彼らが僕の家族、旧人類に取って代わる新たな生態系の頂点、新人類だ。」
洞窟の奥、暗闇の中には6人の人物が居た。
3人は身体の一部が機導であり、残りの3人は角が生えていたり、身体の一部が欠損している。
間違いない。魔人だ。
ホーアムが行動を共にした人物は人々を襲う魔獣を作った男であり、彼らの仲間は魔人だったのだ。
そしてホーアムはその巣穴へと何も知らずに着いてきたのである。
魔導師のアトリエのメンバーは2人が到着するまで洞窟の明かりを消して待ってました
お留守番できてエラい




