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紅腕の白魔女  作者:
胎動
20/22

ep.20 沢山お肉が入ったやつ


???「おじさん、何してるの?」


ー8年前、サテライト外西部よりはるか遠くー

現状、この星で人類の住まうコロニーとしての役割を果たしているサテライトは1箇所のみである。

生き残っている全ての人間がサテライトに永住できる訳ではない。サテライトでの居住権を持たない人間はサテライトの外壁周辺に街を作り、サテライトから多少の物資の配給はありつつも、殆どは自給自足で生活している。

この極寒の中では農作も上手くいくとは限らない。木炭にする為の木を集める森、魚を釣ることが出来る数少ない釣り堀等、少ない資源を奪い合うよに人々は日々鎬を削っていた。

そのような状況から脱すべく、一部の人々はサテライトより遠く離れた地で生活することもある。

勿論、配給を受けることも出来ず魔獣が出た場合は自分達で対処しなければならないのである。


ーポリオンス西山群麓 ニューポトロアンスの街ー


サテライトからおおよそ4000km

天候の良い日にはサテライトからでも目視が可能な程の巨大なポリオンス西山群がサテライト西部には広がっている。

ポリオンス西山群は今でこそ雪山地帯ではあるが約2000年前から地球を白く染め上げた【白嵐】以降は氷山と化している。ポリオンス西山群周辺には魔力が満ちており、生息する魔物も強く多い。

麓には、山を越える行商人や、サテライト間の物資の移動を行う馬車を連れる商人等が利用するニューポトロアンスの街がある。サテライトの恩恵を受けることは出来ないため、街灯などはオイルランタンなどが使われておりレンガ造りの家が並ぶ街並も他の小規模な村とは一風異なる。

街は酒場を心臓とし、宿屋、居住区が周りを囲み街の外側にちらほら畑がある。


???「ねぇおじさん、何してるのって。」


雪に埋もれ、見るからに不作な畑を眺めながらスキットルで何かを飲む男性がいた。

いや、酒臭さとスキットルからして酒を飲んでいるのは間違いない。

そんな昼間から仕事もせず酒を飲む男性に話しかけているのは幼い少年だった。


???「んん?やぁ少年。君こそこんな所で一体何を?」

ホーアム「少年じゃないよ。ホーアムだよ。」

???「ホーアム?あぁ、君の名前か。」

ホーアム「それでおじさんは何してるの?」

???「おじさんって...まだ若い方だよ。それと、今は下見みたいなものかな。」

ホーアム「下見?」

???「そうだよ。久しぶりの大仕事なんだ。」

ホーアム「仕事前にお酒飲むのは良くないってお母さんが言ってたよ。」

???「初めて知ったよ。僕の親は仕事の効率が上がるなら好きにしてもいいよって教えてくれたからね。」

ホーアム「悪性遺伝ってやつだ!」

???「ちょっと意味は違うけど言いたい事は分かるよ。だとしても失礼だね。」

ホーアム「おじさん何の仕事してるの?」

???「んー、まぁ駆除業者みたいなものさ。」

ホーアム「お父さんも駆除業者だったよ。」

???「だった?」

ホーアム「少し前にね。僕風邪を引いたんだ。最初に倒れてから1ヶ月くらい寝込んでたんだって。そんな僕に、ユキウサギのシチューを食べさせようって張り切ってお父さんは山へ魔獣駆除に行ったんだ。僕は少し寝れば治るからって言ったんだけど、お父さんは早く元気になって欲しかったみたい。」

???「それで、ユキウサギのシチューの感想は?」


少年は首を横に振る。


ホーアム「食べれてないよ。お父さんはその日から帰ってきてないんだ。」


少しの間沈黙が続いた。

10秒程ではあるが、2人の空気感では1分ほどの気まづい沈黙だ。


???「ホーアム君だよね?君はいくつなのかな?」

ホーアム「8だよ。」

???「そうか...。」


その男は年齢を聞くと、街の方を少し眺め、ホーアムの頭をワシャワシャと撫でた後、山の方へと歩き出した。


???「ありがとう少年。少しは楽しめたよ。」

ホーアム「少年じゃないよ。ホーアムだよ。」

???「ホーアム君、また会おう。」


男が畑道を抜けたあたりから急に雪が降り始めた。

すぐに後ろ姿は見えなくなり、ホーアムも身体を温めるために家に帰った。


ホーアム(また会おうって言ってたけど、次もお酒飲んでそう...。)


ホーアムが向かったのは酒場の裏、羊を飼っている小屋だ。

この小屋は酒場が所有しており、厳密には10数頭の羊と2頭の牛を飼育している。動物の所有者は街に数人いる富裕層の一人で、羊の毛を売り、牛の乳を酒場で提供している。酒場で飼育している理由としては、主に防犯である。万が一動物に危害が加えられた際、酒場を後ろ盾として利用する為に酒場を通して商売をしている。

ホーアムは酒場の路地を通り、小屋の裏側から塀を登り、屋根に飛び乗ると素早く屋根板の1枚を外した。

そこから中に入り、すぐ内側から屋根板を戻す。

彼の家とはこの小屋の二階部分、板を数枚乗せ足場を増やしたような場所である。


グゥゥ


ホーアム「お腹すいたなぁ...。」


ホーアムはポケットを探ると数枚の銅貨を取り出した。

1枚1枚丁寧に数えるが、何度数えても枚数は8枚だ。

この枚数では1切れのパンすら買えない。


ホーアム「お父さんが残してくれたお金、もう残ってない。」


数えた銅貨を大切にポケットにしまうと、ゴロンと仰向けになり、汚い麻袋を布団のように被った。


ホーアム「どうやって生きればいいの?お父さん。」


ホーアムはゆっくり目を閉じた。


『可哀想よね。息子さんの首が座る前にお嫁さんに先立たれたんですって。』

『旦那さん1人の稼ぎで3人はやっぱり厳しかったのよ。』

『幼い息子さんの世話しながらこれからどうやって生活するのかしら。』

『あの人最近また窶れてきてない?』

『相当無理してるのよきっと。』

『これじゃ息子さんかあの人、次にどっちかが倒れるのも時間の問題よ。』

『お嫁さんが居なくなってから人が変わったわよね。』

『目が虚ろというか。』


『ホーアム。今日は少し帰りが遅くなる。でも大丈夫。父さんが帰ったら、シチューを食べに行こう。ホーアムが好きなユキウサギのシチューだ。沢山お肉の入ってるやつ。』

ホーアム『いいよお父さん。もう体調も良くなってきてるし、それに帰りが遅くなるくらいなら、仕事行かないで隣にいてよ。』

『そういう訳にも行かないんだ。だから待っててくれ。留守番、ちゃんとするんだぞ?』


ホーアム「...お父さん。」


目を覚ました時には外は真っ暗だった。

気付かないうちにて寝しまっていたようだ。

悪夢のようだったが、父を近くで感じられたようで、少し嬉しかった。


ホーアム「帰ってきたら、一緒にシチュー食べようね。沢山お肉が入ったやつを。」


ホーアムは顔を洗おうと屋根板を外し外に出ようとする。

カコンッと外れる音がし、外側に押し出すと、巨大な眼球がその穴からホーアムを覗いていた。


ホーアム「ひっ」


その眼球は粘液のようなものを纏っており、ホーアムの頬にトロッと滴る。不気味なほど冷たかった。


ンモォォッ!


突如牛の悲鳴が響く。

小屋の入口から関節がいつくもある長い腕のようなものが伸び、牛の足に噛み付いていた。


ホーアム「魔獣?!」


ウゥゥゥーーッ!


少し遅れて街の警報が鳴った。

その警報に反応し、眼球は違う方向へと向かっていった。

入口から入っていた腕も外へと出ていった。

ホーアムもすぐに屋根から外に出たが、そこで初めて魔獣の全貌が明らかになる。

細長く、まるで骨のような巨大な人間だ。

全長が約8mほど、胴が短く、手足が長い。両腕の先は手ではなく人間の口のようなものが着いており、首がない。そして首の代わりに巨大な眼球が付いているのである。


機導兵「囲め!」

機導兵「背中を攻撃しろ!」


到着した機導兵が周囲を取り囲み、銃を構える。

背中側に立っている機導兵が攻撃すると、それに反応しそちら側を向くが、今度は逆に背中を見せた方から攻撃される。


「ィ、イダ、イァ...。」


機導兵「こ、こいつ今なんて?」

機導兵「気にするな!攻撃を続けろ!」


ホーアム「間違いない、今、言葉を...。」


その魔獣は長い腕で、関節の多さを活かして1人の機導兵を巻き付くように掴んだ。

先の口で腕に噛み付くと、今度は機導兵の悲鳴が響いた。


機導兵「うわあぁぁぁ!!」


魔獣は掴んだ機導兵をおもちゃのように振り回し、付近の建物や地面にぶつけた。


機導兵「撃て!撃て!!」

機導兵「し、しかし今撃つと...」


掴まれている機導兵は虫の息だが、最後の力を振り絞り自由が効く右手で肩に付いている手榴弾のピンを引き抜いた。


機導兵「く、くたばりやがれ!!」


ズドッ!!


眩い閃光と共に付近に肉片が散乱する。

魔獣は吹き飛んだ腕を押え、命乞いをするように泣き叫ぶ。


「イヤ...メ、タィ、イァイイタイイタイ!!」


魔獣が叫ぶと突如地響きが始まる。


機導兵「な、なんだ?!」

機導兵「新種だ!新種の魔獣だ!それも大量の!!」


魔獣の叫び声に反応したかのように何頭もの魔獣が街に現れる。

現場はまるで地獄絵図だ。


機導兵「この魔獣が呼んだんだ!コイツを先に殺せ!!」


何人もの機導兵が人型の魔獣を射撃する。

魔獣も最初こそ応戦するが、次第に身体を丸め、うずくまってしまった。激しい戦闘の中、投げ込まれた手榴弾が、屋根の上から戦闘を見ていたホーアムの方へと飛んでいってしまう。魔獣は血相を変え、何故かホーアムに襲いかかった。


機導兵「民間人を襲うつもりだ!」

機導兵「そうはさせない!!」


機導兵の1人が銃を構えるが、オオカミのような魔獣に襲われ腕を噛みちぎられた。

残った1人の機導兵は魔獣の足に、ナイフを突き立て足止めする。

もう人型の魔獣には泣き叫ぶほどの体力も残っておらず、それでもしぶとくホーアムの方へと向かう。

ホーアムは恐怖で足がすくみ、その場から動くことが出来ない。

魔獣が腕を伸ばし、ホーアムに掴みかかろうとした時その口は噛みつかず、逆に口から何かを吐き出した。

白い毛の塊のようだが、見覚えのある形、ポリオンス西山群の麓の森によく居るあのユキウサギだ。


ホーアム「ユキウサギ...お父さ


パァンッ


ホーアムを見つめていた巨大な眼球は、背後からの銃撃により、ホーアムの目の前で破裂した。


機導兵「やった...やったぞ!そこの君、すぐここから離れなさ


ズチュッ!!


人型の魔獣を狩った機導兵がホーアムに近付こうとした時、象のような大型の魔獣に踏み潰された。

襲われる民間人と機導兵、際限なく湧き続ける魔獣、地獄のようなこの街で、ホーアムは全てを失った虚無感に襲われる。


ホーアム「お父さん、もういいよね。俺もそっちへ行くよ。」


ホーアムは屋根から降りると、機導兵が持っていたナイフを自分の首へと突き立てる。


???「まるで動物園だね。」

ホーアム「...おじさん。」

???「また会ったね。」

ホーアム「おじさん...俺...。」


今にも泣き出しそうなホーアムの頭をワシャワシャと撫でる。


ホーアム「おじさん、俺、お父さんに会えたよ。」

???「...どうだった?」

ホーアム「やっと、死ぬ勇気が出たよ。」


ズッ


ホーアムそういうと一思いにナイフを自身の首へ突き刺した。

流れる血が暖かく、久しぶりに入った風呂のようだ。


心地よく、暖かく、寒く、冷たく、痛く、暗く、


ホーアムは深い闇へと落ちてゆく。


『お父さん。今から会いに行くからね。』

『ずっと寂しかった。』

『俺は、お父さんが隣に居てくれるなら、シチューなんていらないんだ。』

『ただ寂しかった。』

『いなくなりそうで怖かった。』

『心のどこかではお父さんは死んでるんだって、分かってた。』

『1人になるのが怖くて受け入れられなかった。』

『でもお父さんは魔獣になっても会いに来てくれた。』

『どんな姿でもお父さんはお父さんだよ。』

『ありがとう。』

『お父さん。』


深く、底へと沈んでいく中で、父が手を差し出し、ホーアムを引き上げる。


ホーアム「...っは!」


目が覚めると、そこは檻の中だ。


ーサテライト西部地下 にてー


懐かしく、その記憶は長い夢のようだった。

首輪に着いた鎖を指でなぞる。

その首輪の下にはかつて自身が刃を刺し、何者かに治療を施された跡がある。


ホーアム「...どうして死なせてくれなかったんだろう。」


ガシャンッ!


???「着いたぞ!立て!」


スーツに身を包む男がホーアムの檻を蹴る。

鎖を引っ張りホーアムを檻の外へと引きずり出す。


スーツの男「ここが今日からお前が働く場所だ。お前を買った分、きちんと稼いで貰うからな!」

管理従業員「おい奴隷。お前にはこれからこのタマハガネ採掘場で働いてもらう。」

ホーアム(僕を生かしたのはきっとあの時のおじさんだ。)

管理従業員「聞いているのか奴隷!」

ホーアム「聞いてるよ。」

管理従業員「生意気な奴隷だな。名前はあるのか?」

ホーアム「ホーアムです...。」

ホーアム(僕は、ここを抜け出して、あのおじさんに聞かなくちゃいけない。)

管理従業員「奴隷の分際でもちゃんと名前はあるんだな。まぁせいぜい長生きするんだな。」

ホーアム(僕を生かした理由を...!)

機導兵「魔獣?」

機導兵「魔人だろ。」

機導兵「人の域を超えてるって。」

機導兵「じゃあ魔獣か。」


ズチュッ

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