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紅腕の白魔女  作者:
15/16

ep.15 人間の住める世界

10年前 ーサテライト城壁内南部ー


馬車に乗った男「行くぞラモラック〜。」

ラモラック「あぁ。」


汚いレンガ造りの家が並ぶここはサテライト城壁内でも貧民の集う集合住宅街だ。


ラモラック「父さん。やっぱりどこの家も石炭を欲しがってる。」

アルラ「サテライト内の気温調節も年々悪くなっている。じきに外界と変わらぬ気温になるだろう。」

ラモラック「急いで仕入れに行かないと。」


ラモラックと父アルラは街と街を渡る行商人だった。

街で仕入れた物を売る時もあれば、城からの配給品を売る時もある。


ラモラック「馬車も買い換えないと。」

アルラ「そんな高価な物は買えない。乗り換えるのはまだ先の話だ。」


無論商売は上手く行ってる訳もなく、毎日がギリギリの生活だった。


アルラ「ここから近くの街は、南東の炭鉱街か、石炭はいくらか買えるだろう。向こうで不足しているのは、」

ラモラック「綺麗な水だと思う。食料は東の街からの行商で何とかなってるだろうし、この寒さだと川も凍って洗濯も出来ていないと思う。樽を横にして揺らしながら運べば水を凍らせずに運べる。」

アルラ「お前の頭の良さは母親譲りだな。」


2人は街を出る前に4つほど水の入った大きな樽を買い馬車に乗せた。

街を出て暫くは問題なかったが、2時間ほど進むと急に寒波が押し寄せた。


アルラ「えらく寒いな。ラモラック、荷台から毛皮を取ってくれ。」

ラモラック「見て、父さん。雪が積もってる。」

アルラ「おかしいな。まだスプリンクラーの日では無いはず、前回のスプリンクラーの日から溶けずに残っていたのか?この寒さなら有り得なくも無いな。」

ラモラック「どうしよう。馬も寒さと雪で足取りが悪くなってるよ。」

アルラ「仕方ない。今夜は野宿しよう。荷台にテントを張ろう。近くで杭を打って馬を留めて、焚き火に当ててやれば明日にはまた走れるはずだ。」


2人は道中で一晩明かすことを決めてから馬に負担をかけないようにゆっくり進んだ。やがて天井の液晶は日を落とし、夜空を映し出す頃には既に馬車を止め、テントの設営も完了していた。

今日の夕飯は野ウサギのヤギのバターソテーだ。

サテライト外では魔獣の肉を食べているところもあるらしいが、サテライト内には普通の野生動物が生息しているので、捕まえたウサギと先程の南部の街で買ったヤギのバターを使ってソテーにする。

そもそもサテライト内での農業はかなり難しく、穀物は貴重である故にパン等が市場に出回ることは珍しい。動物の肉をバターで焼くかミルクでシチューにするのが一般的だ。


ラモラック「父さんの分だよ。」

アルラ「ありがとう。飯にしようか。」

ラモラック「何を作ってたの?」

アルラ「あまりにも寒いから馬に雪避けの藁小屋をな。」

ラモラック「今日はおかしいね。」

アルラ「あぁ、こんなに寒い事は滅多にないな。明日の朝には出発して、早く南東の街で宿を取ろう。風呂にでも入りたいな。」


2人は馬車の上で食事を済ませすぐに寝袋を出して就寝した。しかしラモラックは寒さのせいか、なかなか寝付けずにいた。


ラモラック(どうしてこんなに寒いんだろう...。雪が降った訳でもないのに...。何か城の方であったのかな。でも暫くは城まで戻る予定もないし原因究明はまだ先になりそうだ。次に城に行く時は馬車を買い換える時かな。左の車輪の調子が悪い。雪道に隠れた岩を轢きたくないし、明日は雪を避けて通るように父さんに頼んでみるか。それにしてももう少し気温を上げてくれないとこっちも商売にならないし、サテライトも何とかしてくれないかな。それともこのままどんどん寒くなるのかな。サテライトの外の大雪、いつか止むといいな。)


ークチャ...クチャ...ー


ラモラック(...っ。寝ちゃってた...。まだ暗い、3時か5時くらいか。)


ークチャー


ラモラック(なんの音だ?動物が外に置いた荷袋の食べ物でも漁ってるのか?)


ラモラックは荷台からひょいと顔を出した。


ラモラック「っ?!」


馬車の隣には人型で上半身が異様に大きく、顔は犬におぞましい角が生えた様なシルエット、四足歩行で手足が極端に細く長い動物がいた。ラモラックは驚き、すぐに荷台で体勢を低くし隠れた。


ラモラック(魔獣?!どうしてサテライト内に?!もしかしてどこかのサテライトの壁を壊して入ってきたのか!って事はこの寒さも雪も、外から入ってきたものか!どうにかして追い払わないと...)


ラモラックがもう一度覗くと、そこに魔獣の姿は無く、魔獣の食べ残しがあった。人間の腕と、下半身。それはここにいた人間の物で間違いないだろう。


ラモラック「父さ...」


父親の安否を確認しようと振り向くと、先程の魔獣が荷台に乗り込み、背後からラモラックの事を観察していた。


ラモラック「ひっ...


顔が冷たい。いや、冷たい物に当たってる。

次第に取り戻した平衡感覚は自身が地面に倒れている事を感じさせた。体の上に乗っている破壊された荷車の木屑と血の染みた赤い雪。

先程まで居た場所からは15mほど離れている。

あの魔獣が不思議そうに、まるで初めて見る物に警戒しつつも興味本位で近付いてくる猫の様にこちらにゆっくり歩み寄ってくる。


ラモラック「う、うわぁぁぁぁぁっ!!」


立ち上がろうとするが足に力が入らない。

恐らく吹き飛ばされた拍子に折れたのだろう。

這いずる様に逃げ惑うが既に背後まで来ていた魔獣が長い前足を折れた足の上に置く。

徐々に圧力を加え、ラモラックの足はミシミシと耳でも聞こえるように音を立てる。


ラモラック「っづあああぁぁぁ!!!」


ラモラック(痛い痛い痛い痛いッ!!死ぬ、死にたくないっ!!)


ラモラック「...誰...か...。」


ちぎれそうな声で顔を上げると、すぐそこに人影があった。

その人影は黒いコートを羽織っており長い杖の先にランタンを吊るしている。


ラモラック「た...助ッ!!」


ラモラックが助けを乞うと魔獣が更に力を入れる。


???「君は...人間か。」


その男はラモラックの前に屈み込み囁いた。


???「残念ながら私は君を助ける事ができない。欠損した肉体、汚い装備、若い脳くらいか...そんな物で私を買うことは出来ないよ。」


ラモラック「お...お願い...します...」


???「言葉を変えよう。君を助ける価値が無いのだよ。では魔獣が君に興味を無くさないうちにここを離れるよ。」


その男は冷たい言葉を吐き捨てこの場を離れようとした時、


ラモラック「全部だ...」


???「今なんと?」


ラモラック「僕の全部をお前にくれてやる!!僕がお前の力を買うんじゃない!お前が僕を買うんだ!!」


ラモラック(こんな理不尽な世界、変えてやる!!人を喰う魔獣も許さない!!他人に無関心、飢えと寒さに苦しまない世界を!!何としても僕が作ってやる!!!)


ラモラック「お前が強い奴なら僕はお前に買われて付き従う!お前の手駒となって、この世界を人間が苦しまずに住める世界にしてやる!!」


???「人間の住める世界...か。」


黒いコートの男は再び背中を向けた。

見捨てられたと思ったラモラックが絶望し、地面に視線をおとすと、ドスンっと大きな音を立てあの魔獣の首が隣に落ちた。断面は焼け焦げ異臭がした。


ボスンッ


魔獣の首に視線を奪われていたが、黒いコートの男が目の前に本を投げ落とした時、身体の痛みが一気に無くなった。


???「着いてこい。後悔させてくれよう。」


ラモラック「こんな世界に産まれた事が唯一の後悔さ。」


ep.14で「サテライト内では雨は降らない。」と言いましたが、厳密には雨を降らせるシステムはあります。ただあまりの寒さに天井のスプリンクラーから放出される水は途中で凍り雪または雹になって降ってきます。農民はその雪解け水で農業をする訳です。物知りマーリンが教えてくれました。ー織姫後日談ー

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