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巨神学園の劣等生  作者: K
EP 0
1/3

パンデモニウムへ I

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

桜舞う季節が好きだと、彼女は言う。

桜の花びらが舞い落ちる瞬間が一番好きだと、彼女は言う。

縁起が良いねと。

幕張新都心。

実は桜の下をゆっくり歩いて帰宅したかったが、時計の針が深夜の1時を回った今ではそのような贅沢は言ってられないのだ。

黒い車体に白い外殻、淡い蒼色のステッカーのバイクから降りる銀色の髪の彼女は「篠原結鶴(しのはらゆづる)」、年にして十九歳の少女である。

ヘルメットを好まない彼女の耳には白いブルートゥースイヤホン。音楽を聞きながら風を感じるのが好きだからだ。所持品は白を愛用する彼女だが、着ている服はだいたい黒である。例えば今のように、黒のヘルメッとト黒のジャケットに黒のインナー、黒のショートパンツに黒いパンプス、まさに黒尽くめである。

「冒険者」という異能者である彼女は夜道を恐れることはないはずだが、バイト先のお兄さんたちは念の為と言って無理矢理彼女をバイクの上に乗らせた。

バイクを駐車場に停め、ヘルメットを外し、バイクから黒色のショルダーバッグを取り出し、彼女は向こうに見える建物、つまりは彼女の住む場所に向かう。

彼女が一人で住むマンションは海辺の高層マンションである。人気(ひとけ)の少ないのところをあえて選んでいるのだが、海風に当たられるのは意外な収穫である。

エレベーターに上がった途端、結鶴はスマホを上着のポケットから取り出し使い込んだチャットアプリでで心配性のお兄さんたちに「今帰った」と報告した。するとすぐ「よかった」などの返事が飛び込み、逆に「早く寝れば?」と怒りたくなる。

彼女がバイトしているのは「Accordare(アッコルダーレ)」というカフェだ。もちろん、カフェでのバイトの収入ではこのような高級なマンションに住める訳もなく、冒険者としての収入があってこその財力である。

エレベーターのカウントが14に止まり、彼女は白いスマホをジャケットのポケットに納め、静かに降りる。

彼女は基本的に口数が少ない。話す必要性を感じないからだと本人が述べている。彼女もまた、孤独を享受するタイプの人間なのだろう。

37年前に、この世界は「ゲーム」に変わった。

もちろん、世界自体が一つのゲームになったわけではない。今では「エクストラワールド」と呼ばれる異世界から現実世界に侵攻する「モンスター」と呼ばれる怪物と、それに対抗できる、今では「冒険者」と呼ばれる年端の行かない超能力者たちが現れるようになった、というのが的確である。

「ゲーム」と称されるのは確かにいささか不謹慎なのだが、張本人たちがこう呼んでいる以外にも、一応理由がある。

超能力者はゲームのようなインタフェースが見え、そして操作できる、からである。まるで「オー◯ナル・スケール」のようなARゲームをプレイしているような、という感覚である。ちなみにインタフェースは普通の人にも見えるけど、操作はできない。

この異常な状況に「絶対裏がある」と結鶴を含む多くの冒険者が思っていても、皆揃って疑問を口にせず、密やかに現状を守っている。

廊下を曲がった突き当りに彼女が住む部屋がある。

が、深夜ゆえの静寂であるはずの廊下に人影が見える。

しかも自分の部屋の扉の前でビール缶で膨らむビニール袋を抱えながら胡坐をかいている。

「酔っぱらいが…」

眉間にシワを寄せながら結鶴は大きくため息を伸ばした。

「おお、結鶴だー」

同じ銀色の髪の女性は足音がする方へと視線を投げると、ため息をする結鶴が目に入った。すると女性は大きく手を振り、結鶴の帰還を歓迎した。

「いよっ、まってましたー」

「私の帰りを待つつもりなら部屋の中でしたらどう?キー渡したでしょ」

「結鶴が直々に扉を開けて私を招き入れるのを待ってたのよ」

いかにも酔いに酔った者が発する言葉を聞かなかったことにして、結鶴はカード仕様の暗号キーを自動ロックに当てる。本当は虹彩認証あたりが流行っているのだが、結鶴は「格好いいから」と暗号キーにこだわっている。

女性の品のない「てへへ」の笑い声を聞き流しながら結鶴は「近所迷惑だから早く上がって」と三つ上の女性、御園生リベラを催促した。

ドアが開けるとともに柔らかいライトが自動的につけられ、一人で住むにはやや広い原木色の2LDKが目に入る。1メートルくらいの高さの丸くて可愛いお手伝いロボットがドアまで迎えに来て、わざと設定した機械めいた「おかえりなさい」の挨拶が流れる。結鶴のマンションは清潔というより、殺風景とか空虚のほうが正しいかもしれない。清掃と整頓が気になるならお手伝いロボットに任せばいいだけの話だし、事実結鶴はそうしている。家事全般なんでもできる結鶴がゆいつ嫌っているのが整理整頓なのだ。それでも清潔さを感じられるのははやり、物が少ないからだろう。装飾といい、収納といい、ほぼ最低限の家具しか置いていない部屋なら、どこでも同じような感じがするのであろう。その上結鶴の私物も少なく、ホテルの部屋にすら感じてしまう。

「酒の匂いが移るから」と、家に上がるなり結鶴はリベラを風呂に押し入れた。結鶴は肩に掛けているまたも黒色のショルダーバッグをソファーに投げ捨て、リベラが持ち込んだビニール袋いっぱいのビールを冷蔵庫に入れ、部屋に戻り白とピンク色のうさみみ付きのルームウェアに着替えた。もふもふでふわふわの生地が好きだから選んだ服だが、小動物が好きなところはやはり年頃の少女なのである。結鶴が住むマンションではペットを飼うことができるため、「そんなに好きなら一匹飼ったらどうだ?」とよく周りに言われているが、結鶴はずっと「飼う気はないから」と断り続けている。

着替え終わった結鶴はまたキッチンに戻り、冷蔵庫から食材を取り出し、調理にかかった。

今夜のメニューはバターコーンとハムカツ。夜食を作るのではなく、リベラのおつまみを作るもつりでいたが、どうせ夜ふかしになると思い、結鶴は作り置きのポテサラと卵焼きのサンドを冷蔵庫から取り出しオープンに入れた。

ちょうど調理を終えた頃、ルームウェアに着替え終わったリベラが顔を見せた。

リベラは結鶴と同じ短い銀色の髪を持っているにも関わらず、二人に血縁関係などない。むしろ天涯孤独の結鶴とは正反対に、リベラの方が妹を一人持っている。

「おお、つまみだ!分かってるんじゃないの~」

結鶴が箸を渡すのを待たずにリベラはきっちり一口大に切られたハムカツを一個つまみ食いした。

「…はあ」

お行儀が悪いと怒る気すらなれない結鶴は冷蔵庫からすでにひんやり冷えたビールを持ち出し、テーブルの上に並ぶ。

大急ぎでビール缶に指を伸ばしたリベラは即刻「うひょうおお冷たっ」と奇声をあげた。なぜならビールはすでに0度近く冷えているのだ。

「あれれ~どうしてかな~」

風呂に入るわずかの間でここまで冷えたビールに、リベラはわざと結鶴を問いかけた。

すると、「しれたことを」と呆気ない返事が返された。

そして結鶴は再び冷蔵庫に戻り、結鶴は自分が飲む炭酸ドリンクを取り出した。いつもなら家に帰った時最初に飲んだはずの炭酸ドリンクだが、今日はリベラのことがあってお預け食らっている。「スキルの無断使用は禁止事項よ」の奇声を背後に、「バレなきゃ問題ないでしょ」と吐き捨てた。

結鶴の炭酸ドリンクの貯蔵はとんでもない数で、味もバラバラだ。いつでも好きなだけ飲めるようにしているからだろう。こういう趣味がある分、結鶴はつね体重にコンプレックスを抱いているが、やめられないのも現実だ。

スキルとは、一括りに冒険者が戦闘で行使する異能力の総称である。

現在、「冒険者管理条約」によってスキルの日常的な使用は固く禁じられている。

「ちくろうか」

リベラからうす汚い笑みが浮かび上がった。

「やれるものならやってみなよ」

結鶴はレモンティー味のドリンクを飲む間から言葉をこぼす。

「あなたの魅惑、私に通じないことをお忘れなく」

ちょうど、一缶を飲み終えたところで、結鶴は冷蔵庫違う色の炭酸ドリンクをもう一缶取り出した。

「あ、これローズとローズベリーのダブルローズ味だ。いい香り」

と、自分の炭酸コレクションへの感嘆を挟んだ。

「やん~結鶴が可愛かったからからかいたかっただけよ」

ハムカツで頬を膨らませながらリベラは嬌声を上げた。

「あっそ」

結鶴は清々しい顔でリベラから最後の一個のハムカツを取り上げ食べた。

「これで私と間接キスだ」

「口にすらつけていないくせによくいう」

「間接的に指にキスしたのも間接キスだ」

「酔っ払いが」

結鶴は今日、二度目の抗議をあげた。

リベラは何かと喋りたがる。特に飲酒後は口数を抑えられない。

それに比べ結鶴はいつも会話を拒みたがっている。社交が疲れるからと本人は言っているが、ここだけの話…

おっとこれ以上ネタバレしたらめったに怒らない結鶴に本気で怒られそうなのでやめておこう。

とにかくリベラがおちついたのを見て、結鶴は「ゆっくりしてて」とサンドイッチの皿とドリンク缶を持って向こうの部屋に向かった。

「おお~って残業?」

酔いで頭が回らないリベラは成り行きで応じたが、すぐ結鶴の向かう先に気づいた。

「杖のメンテ。明日使うから」

そう言い残しつつ、結鶴は工房と名のづく部屋にこもった。

「立派な残業じゃん…」

一人で飲んでも仕方がないと思い、リベラも転びかけるもビール缶と共に急いで隣の部屋に向かったが、バッグの中にあるCADキャスティングアシスタントデバイス、通称「魔導器」を取りに行った結鶴と入れ違ったのだった。

冒険者ネーム: 篠原結鶴

168cm/A型/ただでさえ体重を気にしているのにそれを聞くの?/19歳/冒険者育成高校「巨神学園」三年生

スタイル:Forward Guardian

メイン武器:CADキャスティングアシスタントデバイス

攻撃属性:物理10% 魔法90%

ランク:SS


学生冒険者チーム「アヴァロンの清き風(ReBOAn)」のリーダー。

学校では男子の制服を身に着けている。私服でもスカートの類はめったにない。

去年の舞闘祭でドレスを着たことを未だに根に持っているらしい。


冒険者ネーム: 御園生リベラ

176cm/65kg/22歳/某大学冒険者科二年生

スタイル:Paladin

メイン武器:片手剣と盾

攻撃属性:物理70% 魔法30%

ランク:SS


学生冒険者チーム「アヴァロンの清き風(ReBOAn)」のOGにして、結鶴の先輩。

長身の美女というキャラ設定に満足している。ただし蓋を開ければただの酒のお化けである。

なにかと結鶴の面倒見る側でいたがるが、実は結鶴から魔法のノーホーを教わっている。

結鶴とは同じ学校に通う前からの縁だが、本人たちは聞かれてものらりくらりと回答を誑かす。

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