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High-/-Quality  作者: hime
【第4章:新時代】
96/99

第95話:Four by One Hundred Meter Relay

_



支部予選まで残り3日。


各ブロックの練習を終えた後、蘭奈、紀良、九藤、二重橋の4人は、グラウンドに残って"4継"の練習に取り組んでいた。



先に練習を終えた若越が部室へ帰ろうとした時、グラウンドに残る4人を見守る巴月の姿が目に入った。

そのまま若越は、何気なく巴月に近づいた。



「…結局、言わなかったんだ。あいつらに。」


その声で、巴月は若越が近くに来たことに気がついて、少し驚いた。


「…まあね。今じゃないかなぁとは、思った。」


巴月はそう言うと、視線を若越に移した。


「…でも何で、跳哉くんはあのオーダーが良いと思ったの?」


巴月の問いに、若越は何度もバトンパスの練習をする4人の姿を見ながら、答えた。


「…そういや、この前言ってなかったね。

あのオーダーの理由を一言で説明するなら、"相乗効果"を狙ってってところかな。

陸が光季を、光季が陸を。2年が1年を、1年が2年を。

それぞれお互い、学べる事があるんじゃねぇかなって思ってね。」


そう語る若越の目の前で、九藤と蘭奈がバトンパスの練習を行なっていた。

まだまだどこかぎこちなく、どこか九藤が蘭奈の様子を伺いながらの状態であった。


「…多分九藤と二重橋は、まだどこか陸と光季に対して躊躇がある。

先輩後輩としてそうなのかもしれないけど、躊躇してるうちは"4継"が上手くいくことはないかもな。

…あとは、どこまで陸と光季が2人をリード出来るか。

互いに歩み寄って、隙間がより埋まって噛み合う事さえ出来れば、可能性は十分にあり得るかなって思ったんだ。」


若越はそう言いながら、真っ直ぐ4人の練習の様子を見つめていた。


「…能力的な役割の話をするなら、陸の1走は絶対だと思う。

数字的にも、今うちで1番の走力は陸にある。

あのスピードが、全体のペースを作ってくれる。

…そして、そのスピードを繋ぎつつ上げていくっていう、肝になる2走目には、九藤が適任だと思う。

実力は圧倒的までではないものの、中学から積み上げてきてるものは持っている。

…それに、陸のペースを維持する緊張感はあるものの、それを色んな意味で受け取る事が、九藤の成長の鍵になるはずだ。

3走は、やっぱり十橈氣が適任だとは思うけど、二重橋でもやり切れるとは思ってる。

この2人は、400が出来るのが大きい。

陸、九藤、光季がストレート向きで得意としているのに対して、この2人はカーブが出来る。

…特に、十橈氣のレベルはかなり高い。

俺も何回か練習で一緒に走ってるけど、陸と光季以上だし、何なら先輩たちにすら勝ってる気はする。」


若越はそこまで言うと、大きく息を吐きながら腕を組んで、視線を紀良に送った。


「…アンカーは光季。これは絶対かな。

正直、レベルだけの話をするなら、陸か九藤が妥当で当然なんだ。

…でも、そうじゃない。

アンカーとしての重圧、3人のペースを背負う責任、そして最後の花形。

リレーのアンカーとしての役割全てをこなせるのは、圧倒的に光季なんだよな。

…それに、部長としての矜持が加わった時、あいつは絶対成長するって言い切れるんだよな。何となくだけど。」


若越はそう言い終えると、巴月の顔色を伺った。

巴月はただただ、若越の分析に驚いて目を丸くしていた。


「…凄い…跳哉くん、そこまでみんなの事見てたんだね…。

やっぱり、側から見てるものと内側から見えるものって、結構変わるもんなんだね…。」


巴月がそう言って感心していると、若越は大きなため息を吐きながら、薄暗い秋の夜空を見上げた。


「…俺だって外から見てるから、好き勝手言えるもんだよ。

…俺だって、自分の事は自分じゃちょっとしか分かんない。

もちろん、分かろうとしてるつもりではいるけどね。

…それでも、変わる為には…強くなる為には、自分自身で核心を見つけ出して、変えてくしか近道はない。

俺だって一緒だからな、あいつらと。」




_




新人戦前日。

羽瀬高陸上部の面々は、各々試合前の最終調整を整えて、来る新人戦の開幕に備えていた。



若越、睦小路、綺瀬の3人は、跳躍ブロックとして共に調整メニューを終え、クールダウンに入っていた。


「…高校生になって、初めての公式戦かぁ…。」


ふと、睦小路がそう呟いた。


「茉子っちゃん、緊張してるの?」


不安の表情の睦小路に対して、綺瀬が優しくそう問いかけた。


「…うーん。もちろん、久々の大きな大会は楽しみではあるけど…。」


そう言いながら、難しい表情の睦小路を宥めたのは、若越であった。


「…心配する事ないよ。不安に思う事は、悪い事じゃない。

…2人とも、これまでやってきた事、高校生になって出来るようになった事とか、たくさんあるでしょ?

新人戦は、まずそれを存分に出し切る事が大事なんじゃないか?

上手くいかなくても、心配しなくていい。

そこから見えてくる課題を修正して、また1つ大きくなって、来年のインハイに臨めればいいんだよ。」


若越は、さも当然かのようにサラッとそう言った。

睦小路と綺瀬の2人は、若越の言葉の1つ1つをしっかり脳に刻み込むように、真剣な眼差しで聞いていた。


「…俺は自分の本当の課題に気がつくまでに、ここまで1年半かかった。

それに、最初の公式戦は大失敗してるんだ。

2人は俺程の大失敗は絶対しないから、安心して。」


若越はそう言って、優しく微笑んでみせた。


「…先輩が大失敗だなんて…。でも、先輩がそう仰るなら、安心して精一杯挑めそうです。」


若越の言葉に、綺瀬は自信が湧いてきたのか、彼女の表情にも笑顔が見えた。


「私も、不安な気持ちと楽しみな気持ちはありますが、新人戦、精一杯頑張りますっ!」


睦小路も、そう言って笑顔でガッツポーズをして見せた。




(…なーんか楽しそうだなぁ…茉子ちゃんと秀ちゃん…。)


「…いいなぁ…。」


跳躍ブロックの3人の様子を、少し離れた所で片付けをしながら見ていた弓ヶ屋は、思わずそう呟いた。

弓ヶ屋は、楽しそうに若越と話す睦小路と綺瀬の姿を、羨ましそうに見ながら、不満そうな表情をしている。


「…ん?何が羨ましいの?」


隣で一緒に片付けをしていた平咲が、不思議そうに弓ヶ屋の顔を見てそう言った。


「…えっ…あっ!ううん、何でもないの。

早く片付けちゃお?静ちゃん!」


弓ヶ屋は慌てて平咲にそう釈明しながら、片付けを続けた。

平咲はまだ不思議そうに弓ヶ屋を見ていたが、共に片付けに戻った。


(…私だって…跳哉さんに「応援してますっ!」って話したいのにぃ…。)


弓ヶ屋は、2人への溢れ出そうな嫉妬心を隠しながらも、心の内でそう呟いた。




_



一方、4継チームの蘭奈、紀良、九藤、二重橋も、試合前最後の調整練習を行っていた。


漸く少しずつ、バトンパスでのミスも減り、比較的スムーズな受け渡しが完成しつつあった。



「…いやぁ…何とか形にはなってきたな…。」


4人が集まると、開口一番蘭奈がそう呟いた。


「…まあ、ここまで来たら、あとは明日やってみるだけでしょ。」


険しい表情ではあるものの、チームの努力を肯定するように紀良もそう言った。


「…何とか、先輩方の足を引っ張らないように頑張りますっ!」


少し不安そうな顔をしながらも、力強い声で九藤はそう宣言した。


「…俺も、まだまだ力不足だとは思いますが…やれるだけ全部、出し切ってみせますっ!」


二重橋も大きな声でそう宣言した。


「…まあまあ、そう気負いしなくても。

新たな挑戦でもあるし、何よりまずは個人戦がある。

個人戦に向けてコンディション整えつつ、4継にも余力残して、頑張るしかないよ。」


気合い十分な1年生の2人に、紀良は優しくそう言った。


こうして、短距離ブロックも最終調整を終え、新人戦支部予選前の最後の部活動は終わった。



「みんな、明日からの新人戦、まずは大きな怪我や事故が無いように。

…いいか?特に蘭奈と若越。

まあ兎に角、各自しっかりと整えて、1つ1つ悔いのないようにな。

じゃあ、お疲れ様。また明日。」


「「「「お疲れ様でしたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


渡樫監督が全体への激励を含めて、締めの挨拶を行って、各々解散していった。



「…跳哉先輩、ちょっといいですか?」


その時、そう言って九藤は若越を呼び止めた。


「…ん?俺?」


若越は不思議そうな顔をして、自らの顔を指差しながらそう答えた。


「…ちょっと、お話したい事が…。」


九藤はそう言うと、皆と少し離れた場所に若越を連れて行った。



「…どしたの?急に。」


若越がそう問いかけると、九藤は意を決したようにゆっくりと話し始めた。


「…突然すみません…。

…実は…俺、どうしても不安な気持ちが消えなくて…。

もちろん、高校生としての初めての試合は楽しみですし、先輩方と一緒に出来るのを待ちに待ってたんです。

…それでも、先輩方の足を引っ張らないか、不安で…。」


そう言う九藤は、珍しく泣きそうな程に不安そうな顔をしていた。

普段は明るく一生懸命練習に励んでいた。

それに、中学からやっている事もあり、めちゃくちゃな蘭奈のペースにも食らいつけている姿を、若越もよく知っている。


「…まあ、分からんでもないよ、その気持ち。」


若越がそう呟くと、九藤はえっ…!と驚いた表情で若越の顔を見た。


「…勝馬さんたち、凄かったもんなぁインハイ。

それに、陸とか光季とかも、我が同級生ながら凄いよ、本当。

…プレッシャーだよな。

余計プレッシャーかけるつもりはないけど、多分支部予選で他校の連中とか、都大会とか南関で当たる連中は、少なからず俺たち"羽瀬高"の名前に注目してくるはずだ。

それに、"4継"も。


…でも、不安になる必要はない。

九藤にも、目標はあるだろ?それを叶える為だけ考えて、それだけに必死になればいいんだよ。

…正直、俺だってすげぇ不安ちゃ不安。

何てったって、"インハイ全国1位の直属の後輩"って、おまけのレッテルか付いてるからな。

…でも、そんなの関係ねぇよ。

俺は伍代先輩じゃないし、魔法でも使わない限り、俺は伍代先輩にはなれない。


だから俺は、周りにどう見られようと、何言われようと知ったこっちゃねぇって思ってる。」


若越はそこまで言うと、秋の星空を見上げた。

そして、言葉を続けた。


「…『誰よりも、高い空を跳ぶ。』…俺の目標なんだ。

…これは元々、夢半ばでこの世を去った、俺の1番尊敬して憧れてる人が持ってた目標なんだ。

どんだけ色眼鏡で見られようが、どんだけ周りからとやかく言われようが、俺がこの目標を叶える事は、周りの誰にも変えられない。

…だから、自信を持って自分の目標に向かって行けばいいんだ。


…それに、足引っ張られたなんて思うような陸と光季じゃない。

あいつらもきっと、俺と同じだ。

自分の目標を叶える為に、ずっと必死に頑張ってる奴らだ。

だから、不安に思う事はないよ。」


若越の言葉の1つ1つに、次第に九藤の表情は不安そうな顔から、真剣な眼差しに変わっていた。


「…きっと、伍代先輩ってとんでもない超人の直下の後輩の俺だったから、話してくれたんでしょ?

九藤にとっての陸が、俺にとっての伍代先輩みたいなもんだから。」


若越がそう言うと、九藤は大きく首を縦に振った。


「…やっぱり凄いです、跳哉先輩。

先輩みたいなマインドを持てるようにならないと、俺ももっと、強くはなれないですよね…。

大事な事、今しっかり教わりました。」


九藤が感動しながらそう言うと、若越は睦小路と綺瀬の時と同じ優しい笑顔を見せた。


「…まあ、全然気軽に声かけてくれていいから。

あんまり気負いすぎないで。

九藤だって、素晴らしい力を持ってる。

俺から学ぶ事以上に大事な事、陸や光季の背中だったり、自分の経験からしっかり学んでいけば、九藤はエースになれるよ。」


「…エース…ありがとうございますっ!

俺、陸さんや光季部長みたいになれるように、頑張りますっ!」


若越の言葉をしっかり胸に刻み込み、九藤は元気よく笑顔でそう宣言した。



一方同じ頃。



「…陸さんっ!」


「…んぁ?」


九藤と同じように、二重橋は蘭奈を呼び止めて話をしていた。


「…4継、俺の1走で本当に大丈夫ですかね…?」


常頃、蘭奈のように天真爛漫で元気いっぱいな二重橋は、珍しく弱々しい声で蘭奈にそう言った。

その二重橋の様子を、蘭奈は呆れた顔をしながら見ていた。


「…はぁ?今更何言ってんだよ。前にも言っただろ?

諒太郎のスタート、めっちゃ良いし絶対負けねぇって!

それに、例え諒太郎がしくじっても、光季も柊路がいるし、最後に俺が何とかしてやっから。

安心しろよって。」


蘭奈は自信満々にそう言った。

その姿に、二重橋はいつもの憧れの眼差しを取り戻して、蘭奈を崇敬した。


「…やっぱかっけぇっす!陸さんっ!

俺、自分の400も頑張りますけど、4継めちゃくちゃ頑張りますっ!」


二重橋は目を輝かせながら、蘭奈にそう宣言した。

同一校からの同一種目への出場は3名までという事もあり、短距離ブロック勢は以下の出場編成となっていた。



100m:蘭奈、紀良、九藤

200m:紀良、九藤、十橈氣

400m:十橈氣、二重橋

4×100mR(4継):二重橋/紀良/九藤/蘭奈/(十橈氣)



故に、二重橋は400mと4継への出場となっていた。


「個人でも4継でも、絶対上行くかんなっ!諒太郎っ!

"羽瀬高陸上部"の矜持(プライド)、他校の奴らに見せつけてやろうぜっ!」


蘭奈はそう言って、二重橋に右拳を差し出した。


「もちろんっすっ!やってやりましょうっ!」


二重橋は笑顔と大きな声でそう宣言し、蘭奈の差し出した拳に自らの右拳を差し出して突き合わせた。





室井と泊麻の圧倒的な実力、七槻と音木と伍代の圧倒的な意地と矜持(プライド)

先代から受け継いできた"羽瀬高陸上部"の意思が今、若越と蘭奈と紀良に託され新時代を形成しようとしていた…。

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