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High-/-Quality  作者: hime
【第3章:決戦場】
91/99

第90話:Change the ERA

_


一夏の激戦を終え、再び迎える世代交代。


伍代の活躍は、羽瀬高陸上部の歴史に大きな1ページを刻み込んだ。

七槻、音木の2人の活躍も、後輩たちへ多大な影響を残した…。



夏休みを終え、2学期が始まった最初の部活動。

そこで、3年生たちの引退式が行われた。


「…改めて俺たち3年生は、今日で引退となります。

引き続き、競技を続ける者もいれば、そうでない者もいます。

この場をお借りして、1人ずつ皆さんにご挨拶をしようと思います。

…まずは、満。宜しく。」


七槻はそう言うと、音木を見た。

音木は大きく息を吸うと、一歩前に出て在校生を見渡した。


「…皆さん、インターハイの応援、本当にありがとうございました。

…不甲斐ない結果に終わってはしまいましたが…しかし、これも"陸上"です。

俺はかつて、ある者にこう言いました。

『いつか、努力が才能に勝てる日が来るかもしれない。』

…でも、俺はそれを証明できなかった。

しかし、それは新たな答えを見つけるきっかけになりました。

それは、『才能なんて他者の評価に過ぎない。努力の大きさが、"才能"という他者の評価に繋がる。』ということです。

…それを俺に教えてくれたのは、勝馬と拝璃です。

人は皆、"平等"であり"不平等"。得手不得手があってこそ、"人"なのです。

…どうか、この先壁にぶつかるような事があれば、この言葉を頭の片隅にでも覚えていてくれたら、救いになるかもしれません。

後輩の皆さんの今後の活躍を、俺も楽しみにしてます。」


音木はそう言うと、深く頭を下げた。

在校生からの温かい拍手。一際大きかったのは、紀良であった。


続けて、隣にいた丑枝が皆の前に立った。


「お疲れ様です。

…私は、本当に"仲間"に恵まれたと思います。

ここにいる、七槻をはじめとする3年生のみんなはもちろん、杏ちゃんや巴月ちゃん、後輩のみんながいてくれたから、ここまで頑張れました。

…特に、男子の3人には、本当に感謝してます。

この3人がいなかったら、上の舞台を目指したいなんて思わなかったかもしれないし、私は支部予選でとっくに引退していました。

…でも、負けちゃったけど…都大会の景色が見れた事、私は一生忘れません。

後輩の皆さんも、隣りにいる仲間と切磋琢磨しながら、怪我をしないように頑張ってください。

応援してます。」


丑枝はそう言い終えると、深く頭を下げた。

丑枝の顔に"後悔"はなかった。その言葉が似合わないくらい、清々しい笑顔で丑枝は皆に挨拶をした。


続けて、伍代が皆の前に出た。


「お疲れ様です。

…まあ、この後七槻部長がありがたい言葉をくれると思うから、俺は短めにしときますわ。」


伍代はそう言うと、七槻の顔をニヤニヤと見た。

七槻は、驚いた顔をしていたが、伍代はそのまま続けた。


「…よく食べ、よく寝て、程よく勉強。

あとは、うっしーと満康も言ってたけど、仲間を大切にする事。

"仲間"であり"ライバル"だから。

…やっぱり、俺はどんな他校の奴らよりも、1番信頼できて1番手強かったのは、"仲間"の存在だったから。

俺は、大学でも競技を続けます。

インターハイで優勝出来たけど、これで終わりじゃないです。

その先、もっと上目指して頑張ります。

みんなの活躍も、もちろん楽しみにしてますね。」


伍代はそう言うと、軽くお辞儀をしてスッと後ろに下がった。

そして、七槻が指示する前に、桃木を皆の前に押し出した。


「…部長は大トリだろ?」


伍代はそう言うと、七槻にニヤリと笑みを見せた。

伍代に押し出された桃木は、戸惑っていたがすぐに意を決した。


「…まずは3年生のみんな、本当にお疲れ様でした。

みんなの姿を見守ってた私からしたら…本当に凄く頑張ってたと思います。

…偉そうな事は言えないけど…本当にみんな凄いです。

だから、後輩のみんなも、必ず凄くなるって信じてます。

…こんなにも、たくさんの仲間がいるから。

拝璃も言ってたけど、"仲間"を大切にしてください。

私は、誰かの役に立てる人になれるように、これからも頑張ります。

ありがとうございました。」


桃木はそう言い終えると、目に涙を浮かべながら深くお辞儀をした。


桃木がスッと列に下がると、大きく息を吐きながら七槻が一歩前に出た。


「…ったく。じゃあ最後に、俺から。

羽瀬高陸上部主将、七槻 勝馬(ななつき しょうま)です。

…俺から言う事は、もうないです。

ここにいる3年生のみんなが、言いたい事は全部言ってくれました。

だから、1つだけ。

"3年生(俺たち)を追うな、3年生(俺たち)を追い越せ。"

…俺は、室さんから引き継いだこの"羽瀬高陸上部"を、先輩たちの期待に応えられるチームに出来たか分かりません。

でも、後輩の君たちには、俺たちを越えて欲しい。

それが俺の期待であり、願いです。

だから、それだけを考えて、これから頑張ってくれればいいです。

部を大きくしようとか、強くしようとか、そうじゃなくていい。

俺たちが、"こりゃ参った。抜かされちゃったな。"って思うくらい、輝く姿を見せてくれるチームになってくれる事を、俺は願ってます。」


七槻は、それだけ言うと深く頭を下げた。

七槻に対しては、誰よりも盛大な拍手が送られた。


「…んじゃあ、そんなチームを引っ張っていって欲しい、次の部長についてなんだけど…。」


七槻はそう言うと、2年生の若越、蘭奈、紀良の前に立った。

そして、3人の顔を見渡すと、それぞれ1人1人に目線を送りながら話を続けた。


「…若越。お前は間違いなく、次期羽瀬高エースだ。

否定はするな。その力を、お前は持っている。

そんなお前に、次期"フィールドブロック長"を任せたい。」


七槻はそう言うと、若越に右手を差し出した。

若越が七槻の右手を掴むと、七槻はそのまま若越を思い切り引っ張り上げた。


「…大丈夫だ、若越。お前は必ず、拝璃より強くなる。」


「…ありがとうございます。」


七槻の真っ直ぐな目を直視できず、若越は少し目線を逸らしながらそう呟いた。


若越としっかり握手を交わすと、七槻は続いて蘭奈の前に出た。


「…蘭奈。お前はまだまだ、未知数だ。

次は必ず、お前の全力を見せてくれ。俺は誰よりもお前に期待している。

…そんなお前に、頼みたい事がある。」


七槻はそう言うと、今度は蘭奈に右手を差し出した。

蘭奈が若越と同じようにその手を掴むと、同じように七槻は蘭奈を引っ張り上げた。


「…"4継"。"4×100mリレー"。

…結局、出来ずに終わってしまった。

お前に是非、"羽瀬高4継"のリーダーを担ってほしい。

…後輩も仲間もいる。"個人"としての活躍はもちろん、"チーム"としての活躍も、意識して頑張って欲しい。」


七槻がそう言うと、蘭奈は目を丸くしながら七槻を見た。

少し間を空けた後、蘭奈はしっかりと七槻の手を握って、宣言した。


「っしゃぁぁぁぁっ!!!!やってやりますよっ!!

"4継"でも、天下取って見せまぁぁぁっすっ!!」


蘭奈は、七槻が引くくらいの大声でそう言った。

言ったというより、叫んだといった方が正しい。


最後に七槻は、紀良の前に立った。


「…紀良。お前は本当に成長した。

…それに、まだまだ成長している。

誰よりも自分と向き合って、誰よりも周りに目を向けられる。

そんなお前こそ、俺は"部長"に相応しいと思う。

…俺は、お前に"部長"を任せたい。

引き受けてくれるか?」


七槻はそう言うと、同じように右手を差し出した。

しかし、紀良は黙って七槻の顔をじっと見ているだけであった。


少しの時間、七槻と紀良が見合うだけの沈黙の時間が流れた。



そして紀良は、ため息混じりに答えた。



「…光栄な事だとは思います。

…でも、少し考えさせてください。」


紀良は、俯きながらそう答えた。

紀良の答えに、七槻はスッと右手を引いた。


「…そうか。まあ、無理する事はない。

若越と蘭奈と、巴月と高津。5人で話し合って決めてくれれば、それでいい。

…俺からは、紀良を推薦しておく…が。」


気まずい空気感が流れる中、七槻が場の空気を変えるかのように、笑顔で最後に皆に言った。


「これからは、お前たちの時代になる。

"羽瀬高陸上部"が、もっと高校陸上界の脅威になっていく未来に、俺は期待してる。

そんな期待をさせてくれるみんなに出会えて、俺は本当に嬉しい。

本当に、ありがとう。」




_



その後、夏休みを明けた部活動が行われた。



「跳哉さん、今のは踏み切り位置10cmくらい前に出てました。

…でも、ポールはしっかり曲がってた気がします。」


マットの上の若越に、弓ヶ屋がそう言った。

若越が持っていたポールは、弓ヶ屋によってしっかりと掴まれていた。


「…うーん、若干流れた気はするんだよなぁ…。」


若越の身体に触れた事で、練習用のゴムバーは大きく揺れ動いていた。

今の跳躍に満足いかなかったのか、若越は首を傾げながら不満そうにマットを降りた。


「若越、ちょっといいか?」


弓ヶ屋からポールを受け取ろうとした若越を、共に練習していた伍代が呼び寄せた。

伍代の手には、伍代が全国大会の最後に使ったポールが握られている。


若越が近づいて来ると、伍代はそのポールを若越に差し出した。


「…今の若越のポールよりは、まだ少し硬くて長いから、すぐには使いこなせないかもしれない。

…でも、どうだ?

このポールを使う事を目標に、少しずつポールを上げてみるのは…。」


伍代の持つそのポールには、伍代が全国大会で使用した時に巻かれていた、赤のテーピングではなく、緑のテーピングが巻かれていた。


それも、伍代が使った時よりも、少し広めにテープが巻いてある。


若越は、そのポールを少しじっくり見渡すと、スッと手を差し出して、そのポールを受け取った。

たった今使っていた、慣れたポールとは少し違う感覚と重さが、若越の腕に伝わる。


「…あと2段階。」


若越は突然、そのポールを見ながらそう呟いた。


「…あと2段階上がれば、このポールになります。

絶対、このポールを使い熟してみせます。」


若越はそう言ってポールを受け取ると、すぐにストックのポールの元に、そのポールを持って行った。


そして、弓ヶ屋が持っていたポールと伍代から渡されたポールとは別の、もう1本のポールを手に持ち、助走路に向かった。


「…弓ヶ屋っ!ポール、1個上げていくからっ!

踏み切り、調整したいから確認お願いします!」


若越はそう言うと、助走路でタンマグを手に取り、十分に両手に馴染ませた。



(…若越、本当に良く変わったよ。

浮地郎さんの事があって、本当は棒高跳びどころか、陸上からも離れたかったはずだよな…。

…なのに、お前は今、こんなにも前向きに、そして大きく羽ばたこうとしている…。)


若越の姿を、助走路の少し後ろから見ていた伍代は、その姿に感心していた。


すると伍代は、目に映る若越の後ろ姿が、かつての記憶と交錯するような感覚を覚えた。


それは、何度も映像を見て、実際に現地で目にした、"若越 浮地郎"の後ろ姿であった。



(…そりゃそうだよな。親子だもんな。

…でも何でだろう。こんなにもハッキリと、若越の後ろ姿に"浮地郎さん"を感じてしまう…。

…こりゃ、来年はとんでもない景色、見せてくれそうだな…。

…いや、来年だけじゃねぇ。

…こいつはいつか…"若越 浮地郎"をも超えてしまう…そんな気がする…。)



伍代は少し目を細めながら、しっかりと若越の後ろ姿を目に焼き付けた。



その記憶がいつか、現実として目の当たりにする、その日まで忘れないように…。



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桜舞う、別れと出会の春。

そして、熱い思いが交錯した夏。


無くなることのない、最初で最後の夏の記憶。


"決戦場"で交わった、"思い"の剣がぶつかり合う火の粉が

"新時代"の幕開けを告げる花火の導火線に、そっと炎を灯して…。



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第3章:決戦場 完結

次回、第4章:新時代 始動


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