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High-/-Quality  作者: hime
【第3章:決戦場】
66/81

第65話:Unexpected Favor

_


「改めて、跳躍ブロックに新入生が加入しましたーっ!拍手っ!」


パチパチパチ‼︎っと勢いよく手を叩いて盛り上げる桃木を、少し遠い目で見ながら伍代と若越も渋々手を叩いた。


「…って、2人ともっ!もっと歓迎ムードってもんがあるでしょ!?」


桃木は、テンションの低い伍代と若越を眉間に皺寄せながら睨みつけ、そう言った。

そんな桃木に伍代は呆れながらため息を吐き、若越は苦笑いである。


「…いやいや、新入生引いてるって…。」


「…ま、ぼちぼち頑張りましょ。気張らずに…まあ、あっちは大分熱くなってるみたいですが…。」


伍代と若越は、そう言って1年生を気遣った。


新入生が入部して、初のブロック毎の練習日。

集まった跳躍ブロックの、伍代、若越、睦小路、綺瀬、そしてマネージャーの桃木は、改めて顔合わせをしていた。


桃木が人一倍張り切りながら新入生への歓迎ムードを繕っているのに対し、伍代と若越は比較的冷静であった。


しかし、若越が先程の言葉を告げながら向けた視線の先には、グラウンド中に響き渡る声で話している短距離ブロックの姿があった…。




「…新入生諸君っ!!我々羽瀬高陸上部は、全国大会を目標にしているが故、練習は厳しいものとなるが、着いてくる覚悟はあるかぁぁぁぁ!!」



「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」」


蘭奈が大声で新入生にそう宣言すると、九藤と二重橋はそれに呼応して、拳を上げながらそう叫んだ。


そんな2人を横目に、迷惑そうに耳に小指を入れながら、十橈氣がため息を吐いた。



「…はぁ。勘弁してくださいよ。

陸上部なのに、熱血野球部みたいなテンションでやるんすか?ここは…。」


そう明らかに嫌そうな態度をみせる十橈氣の隣に、音木がやって来て十橈氣の肩に腕を回した。


「…まぁまぁ。蘭奈も悪いヤツじゃないからさ。…アホだけど。

案外悪くないって思う時もあると思う。」


音木のフォロー…のような言葉に、十橈氣は渋々納得したような顔をした。


「…そこっ!今アホって言いましたよね!?誰のこと言ってんすかっ!」


音木は十橈氣にだけ聞こえる声で話していたつもりが、蘭奈の地獄耳に筒抜けであった。

蘭奈がいつも通りの大声で文句を言っていると、七槻が呆れた顔をしながらやって来た。


「…蘭奈ぁ…1年生に変な教育してんじゃねぇぞ?ったく…。

…まあでも、このアホが言う事も間違っちゃねぇ。

俺たちは、全国大会の舞台を目指している。メニューも決して楽ではないかもしれない。

それでも、着いて来れた奴は高みの景色ってやつが見れるかもしれねぇからな。気合い入れてやれよ。」


そう言う七槻は、どこか少し室井のような信頼感と威厳が溢れているようにも見えた。


「…かっけぇっす…!七槻部長っ!それに、蘭奈()()もっ!

…俺、二重橋は必ずや、先輩方に着いていけるように頑張りますっ!」


二重橋が、目を輝かせながら七槻と蘭奈を見て、そう言った。

後輩からの熱い視線に、蘭奈は少し圧倒されながらも、彼の言葉を胸に刻み込んだ。


(…そっか。俺、()()なんだ…。)


蘭奈は、"先輩"と呼ばれた事を何度も思い返しながら、空を仰いだ。


(…負けちゃいられねぇんだな。こっからは。)


その思いを胸に刻み込むと同時に、両手を強く握りしめた。

彼のその目は、僅かに陽の光が反射し、煌めいていた。


「…よぉしっ!そうと決まれば、今日のメニューも一瞬たりとも気を抜くんじゃねぇ!行くぞっ!」



_



各ブロックでの練習がひと段落すると、10分程の休憩に入った。


跳躍ブロックが木陰で休息していると、同じく休憩中の短距離ブロックから、七槻がやってきた。


「…どうだ?拝璃。そっちは。」


木陰に敷いたブルーシートに腰掛けていた伍代は、七槻を見上げると笑みを浮かべた。


「…まあ、ぼちぼちってとこ。

っても、ブロック練で何人もいるってのも、2年ぶりくらいだからな。なんかソワソワするよ。」


伍代がそう言う通り、羽瀬高陸上部はこれまで跳躍ブロック人口は少なかった。

フィールド勢で言えば、室井や三ツ谷といった先輩がいたものの、合わせても精々2、3人である。


それが今となっては、若越をはじめとする後輩たちに囲まれている事に、伍代は何処か落ち着かない様子であった。


「…まあ、それは俺も同じだ。

一時はどうなるかと思ったけどな。部員少なすぎて。

まあでも、こうして少しずつチームは大きくなっていく。

…俺たちが、その先頭に立つなんて、俺も夢にも思ってなかったけどな。」


七槻も、伍代と同じように何処か落ち着かない様子であった。


「…それでも、それも後数ヶ月ってところか。」


改まって言う伍代のその言葉に、七槻は硬直した。

刻々と迫る自分たちの最後の大会を、七槻自身も意識してない訳ではなかったが、伍代が口にした事でそれがより現実となって突き刺さっていた。


「…勝つだけが全てじゃねぇんだよな。もう。

勝って、次に繋げる。…それは、大会としてもそうだし、後輩たち(こいつら)にも、な。」


七槻がそう言うと、2人は揃って空を見上げた。

来る"インターハイ"。3年生にとって、最後の戦い。

その大舞台を2人は改めて意識する事で、神妙な空気になっていた。


その空気を打ち破ったのは、若越であった。


「…伍代先輩、そろそろ休憩終わるんで、俺跳躍練行きますね。」


若越はそう言うと、誰よりも先に立ち上がって、棒高跳びのピットへ向かった。


その背中を、伍代はただ真っ直ぐに見守った。



「…若越(あいつ)、大分いい方向に変わったよな。」


その背中を共に見ていた七槻が、そう呟いた。


「…ああ。変わったというより、あれが()()のあいつ、なんだろ?多分。」


伍代はそう言いながら、若越に対して胸の内で闘志を燃やしていた。


(…あいつと戦える大舞台も、次が最後…。

やっと本気モードになってくれたんだ…全力で、挑むしかねぇ。)



_



次の日、2限目の授業が終わった頃。


暖かい春の気候と、インターハイに向けた気合いの入った部活動によって、若越は大きなあくびをしていた。


「…なぁ。」


あくびの途中で声を掛けられた事で、若越はふがっという情けない声を出した。


「…んだよ三伯、いきなり。」


若越に声を掛けたのは、前の席の三伯であった。

三伯は珍しく、浮かない顔をしている。


「…悪ぃ。いきなりこんな事聞くのもアレなんだけどさ…。」


そんな三伯が歯切れの悪い事を言ってきた事で、若越は少しムッとした表情をした。


「…んだよ。勿体ぶらずに言えよ。」


「…若って…告られた事ある?」


流石の若越も、三伯の唐突なその質問に、一瞬にして目を丸くした。

そして、視線を上に上げながら、記憶を遡る仕草を見せた。


「…はぁ?えっ…んー…無くも無い…?」


「…んだよ、それ。」


中途半端な若越の答えに、今度は三伯がムッとした表情を見せた。


「…何だ?さてはお前、誰かに告られた?…言ってみろよ。俺とお前の仲だろ?」


若越はそんな三伯を他所に、興味津々に三伯に問いただした。


「…まあ、言わねぇって訳じゃねぇけどさ…。

新入生。マネージャーで入ってきた後輩に。」


「…ほぅほぅ、それは青春ですなぁ?三伯くん~。

…んで?付き合ったの?」


気がつけば、若越は頬と口角を上げながら、浮ついた顔でそう言っていた。


「…いや、まあその場は何と無く、やんわり断った。」


「…んだよ。何?可愛くなかったとか?」


「…そうじゃねぇけど…。」


三伯はそう言うと、俯いてしまった。

若越は、何か良く無い事を言ってしまったのかと不安になったが、そうではなかった。


「…だってさ、その子まだ入部してきて数日だろ?

何にも知らないのに、いきなりお付き合いだなんて…イメージ湧かなくって…。」


そう言う三伯に、若越は一気に表情を戻してふぅんと口を尖らせて呟いた。

そして、そう言われたと同時に、若越はふと桃木の事を考えていた。


桃木の事が好きだと気がついたのは、果たしていつからだっただろう…。

しかし、若越自身も彼女と付き合うといった事は、考えた事が無かった。

若越にとって、それはまだ果てしなく先の事だと思っていたからであった…。


「…確かに、それは一理あるな。

んで、お前が俺にその事を言ってきたって事は、なんか悩んでる事でもあるのか?」


若越は気を取り直して、話の方向性を三伯が求めている方向へと戻した。


「…まあな。」


そう言うと、三伯は周囲の目線を気にしながら、慎重に若越の耳元に顔を寄せた。

そして、若越の耳元に小声で言った。


「…やっぱ、先輩にフラれるってしんどいか?付き合った方がいいのか?」


三伯の言葉に、若越は思わず吹き出してしまった。


「…いや、何でそんな事俺に聞くんだよ。」


「えっ、だって…若の好きな人って、あの陸部の先輩マネージャーだろ?」


三伯がそう言うと、若越の顔が一気に赤く火照った。

何故その事を彼が知っているのか、若越は理解に追いつかず混乱した。


「…はっ、なっ…!何言ってんだよっ!」


思わず、若越の声が大きくなる。


「…いやまあ、何となく?…っていうか、そう思いはじめたのは、新歓でお前が跳んだ時かな。

お前、気づいてないかもしれないけど、あの先輩の事ずっと見てたように、俺には見えてたから…。」


若越は更に混乱した。

部活動紹介の時、若越自身は全くその気は無かったのだが、どうやら知らず知らずのうちに、桃木に視線を送ってしまっていたようだ。


未踏の5mへの不安と、SNSのメッセージで貰った桃木の言葉を思い返していた若越自身、何処を見ていたかなどという事は全く考えていなかった。


一頻り慌てたものの、若越は堪忍したように両手を上げて言った。


「…俺の負け。その通りだよ。」


そう言う若越は、大きなため息を吐いた。


「…大丈夫。俺とお前の仲、だろ?言いふらしたりなんか絶対しないから安心して。

…ってか、若は告らないの?あの先輩に。」


気がつけば、三伯の質問が若越の話しにすり替わっていた。

しかし、動揺している若越がその事に気がつく事はなかった。


「…今のまま、桃さんに気持ち伝えても、勝てる気がしねぇんだよ。

…勝たなきゃいけない相手がいるんだ。その人に勝ったら、俺は桃さんに気持ちを伝えようと思う。」



キーンコーンカーンコーン…♪



若越がそう言った時、次の授業の予鈴が鳴った。

三伯はふぅんと言うと、若越に向けていた姿勢を前に戻した。

そして、顔だけ振り返って最後に一言だけ告げる。


「…そっか。届くといいな、その気持ち。

俺も向き合ってみるよ。その子の気持ちに。」


三伯にそう言われた若越は、机に突っ伏してしまった。

そして、顔を窓の外に向け、青い春の空を飛ぶ数羽の白い鳥を眺めていた…。



_



一方、同じ頃。

1年生の教室では…。


「…はぁ~っ。茉子ちゃぁぁん。」


情けない声を出しながら机に突っ伏す弓ヶ屋に、前の席の睦小路は優しく声を掛けた。


「どうしたの~?千聖。悩み事?」


睦小路はそう言うと、弓ヶ屋の頭にポンポンと軽く触れた。


「…うーん…。」


歯切れの悪い答えの弓ヶ屋に、睦小路は呆れた顔をした。


「…何よそれ~。どっちなの?」


「…乙女の悩み?ってやつ…?」


弓ヶ屋の中途半端な回答に、睦小路は更に呆れてため息を吐いた。


「乙女って自分で言うかね…まあ、千聖は可愛いけどさ。…んで、その乙女の悩みって何なの?さては若越先輩の事?」


睦小路がその名を出した時、弓ヶ屋はビクッと反応した。そして、彼女の顔はみるみるうちに赤く火照ってしまった。


「…ねぇっ!何で?なんで分かるの!?」


興奮して少し大きくなる弓ヶ屋の声に、睦小路はやっぱりかと再びため息を吐いた。


「…バレバレよ。少なくとも私にはね。

陸部入ったのも、私がいるからだけじゃ無いでしょ?」


全てを理解しているかのような睦小路の態度に、弓ヶ屋は益々恥ずかしくなっていた。


「…う、うん…ごめん…。」


弓ヶ屋は少し涙目になりながらそう言った。


「…なんで謝るのよ。別にいいじゃん。千聖が入りたくて入ったんでしょ?

まあ、その動機が若越先輩ってのは、ちょっと面白いけど。」


「…面白くないよぉ…。」


弓ヶ屋は今にも泣き出しそうであった。

焦った睦小路は、慌てて弓ヶ屋を宥めた。


「…まあまあ。それで?好きなんだ、若越先輩の事。」


「…う、うん…。」


「…いつから?」


「…歓迎会で、跳んだ時…一目惚れ…。」


泣きそうな声でそう答える弓ヶ屋に、睦小路は今にも吹き出してしまいそうなのを我慢しながら、首を大きく縦に振った。


「…そうかそうか…千聖にも、春が来た。ってやつだねぇ…。」



キーンコーンカーンコーン…♪



睦小路がそう言うと、次の授業の予鈴が鳴った。


「…誰にも言っちゃダメだよ?茉子ちゃん…。」


弓ヶ屋は、心配そうにそう念押しした。

睦小路は弓ヶ屋に顔を近づけながら、口元に人差し指を付けながら言った。


「…言う訳ないでしょ。私と千聖の仲でしょ?」



睦小路はそう言うと、前を向いてしまった。

はぁ。とため息を吐いて、弓ヶ屋が窓の外を見ると、そこには青い春の空を飛ぶ、数羽の白い鳥の姿があった…。



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