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High-/-Quality  作者: hime
【第3章:決戦場】
64/81

第63話:Fresh Breeze

_




新入生歓迎会から1週間程度。

この期間は新入生たちが部活動見学できる期間という事もあり、どの部活も気合を入れて練習に臨んでいた。


陸上部も例外ではない。



「…っしゃぁぁぁ!お前らぁぁぁぁ!

気合い入れていくぞぉぉぉ!!」


「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


騒ぐ七槻に蘭奈が同意する。

その様子を残りの部員たちは呆れたように見ていた。


「…俺たちって、こんな感じの部活なのか?」


「…いや、こいつらが狂ってるだけだ。気にするな。」


伍代が困ったようにそう呟くと、音木は冷静にそう言ってウォーミングアップに向かった。


「…でも、あんな事しなくてもギャラリーは多そうですよ?」


伍代と音木に、紀良がそう言ってグラウンドと校舎棟の間にある桜並木の道路を親指で指した。


そこには恐らく、同じグラウンドで部活動をするサッカー部目当てと思われる新入生の姿もあったが、それにしては数が多い。

男女共に集まった多くの新入生は、陸上部にも視線を向けていた。


「…そりゃまあ、当たり前か。

うちの次期エースのパフォーマンスが良かったんすよ。やっぱり。」


紀良はそう言いながら、若越に視線を送った。

若越は別の事を考えてたのか、特に集まったギャラリーの事を気にはしていなかった。

紀良の視線に気がつき、若越は問いかける。


「…ん?なんか言った?」


若越の純粋な表情に、紀良は少し感心していた。

1年前の若越なら、確実に周囲の状況に影響を受けてしまっていただろう。

新人戦での飛躍や仲間やライバルたちとの出会いが、若越を確実に変化させている。


歓迎会前は頑なにパフォーマンスを断っていた若越も、何だかんだであっさりと引き受けた。

そして、まさかあんなところで自己ベストを更新する"5m"の跳躍を披露するとは、紀良は愚か誰にも予想外であった。


「…何でもねぇよ。若、なんか前より柔らかくなったな。」


紀良にそう言われて、若越は慌てて自分の頬に両手を当てた。


「…えっ、太ってる…?」


若越が頬を潰すようにしながらそう言うと、紀良は呆れた顔をした。


「…素材の話じゃねぇよ。雰囲気、雰囲気。

1年前のお前、ウニばりにツンツンしてたんじゃねぇか?」


紀良の言う通り、1年前、伍代に突っかかっていた若越は、鋭い棘を纏ったウニと言われても仕方がない程であった。


「…そうか?まあ、あの時のことはもういいんだよ。」


若越は既に何処か吹っ切れていた。

インターハイ、新人戦を経て、もう届かないと思っていた伍代。

しかし、若越を更に強くしたのは、森川や青海といった新たなライバルたちの存在。そして、共に更なる高みを目指している蘭奈や紀良、高津といったチームメイト。

そして、自分自身の好意の感情を引き出している、桃木の存在。


彼女の存在は、若越に大きな変化を及ぼしている。

桃木をちゃんと意識し始めてからの若越は、何かと勝利に拘るようになったり、何かと周囲に優しい一面を見せたり、とても1年前と同一人物とは思えない程になっていた。


しかし、それ故に伍代に対するライバル心は日に日に強くなる一方であった。

若越は、年明けから伍代がやけに桃木と仲良く接する姿をよく目にし、その度に悔しい気持ちに溢れていた。


「そうか…。若、今度お前に相談に乗って欲しいことがある。」


紀良は突然、若越にそう切り出した。

若越が何?と聞こうとすると、ウォーミングアップのジョグが始まってしまい、その内容を聞き出せなかった。




_



ジョギングと準備運動を終え、木陰に敷いたブルーシートの上で、各々ストレッチをしていた。


若越は、紀良に近づいて先程の続きを聞き出そうとする。

すると…。


「…ん、光季、飲む?」


若越が声を掛けるよりも先に、シートの外から高津がしゃがみ込んで紀良にスポーツドリンクを渡した。

その光景に、若越は少し違和感を覚えた。


「…俺には?」


若越が自分を指さしながら、高津にそう言うと、


「…ほら、あんたは自分で取りに行きなさいよ。ギャラリーが大勢、あんたを待ってるよ。」


そう言って、高津はグラウンドの外から見ている新入生の一連帯を指さしながら、そう言った。


「…えー、それならいいや…。」


若越は悲しそうにそう言った。

それにしても、高津は蘭奈や自分にはそのように接する割に、紀良とは仲良く話している。

若越は違和感の正体の一歩手前まで近づくも、その答えが出ず仕舞いであった。



「んじゃこの後はアップして、200m×3のインターバル走、その後は各自1時間くらい自主練の時間にしよう。」



その時、七槻がそう皆に指示を出した。

若越はモヤモヤした疑問を抱えながら、ゆっくりと立ち上がり水分補給をしに行った。



_



グラウンドを見ている新入生たちは、サッカー部目当て半分、陸上部目当て半分と言ったところか。


その最前列に2人の女子新入生の姿があった。

"茉子(まこ)"と"千聖(ちひろ)"の2人である。


「…千聖?…なんか人多くなってきたし、今日はもう帰らない?明日また見にこようよ。

どの道私は、陸上部入るつもりだから、見学はもう…。」


「…お願い、もうちょっと。せめて走るところまでは見たい。」


「千聖、どうしたの?そんなに陸上好きだったっけ?…私の試合の応援くらいでしょ?来てたの。」


「…うん、好きかも。…陸上。」


2人はそんな会話をしながら、グラウンドに入って部活動の邪魔をしないように、慎重に部活動の様子を見ていた。


「…えっ?そうだったの?じゃあ入っちゃう?

明日から、一緒に。仮入部できるみたいだし。」


"千聖"が真剣に陸上部の様子を見ている事に、"茉子"は驚きながらも、彼女を陸上部の仮入部に誘った。


「…えっ…それは…。」


「えー、どっちよ、それ。私早くまた幅跳びの練習したいからなぁ…。」


"茉子"は"千聖"にそう言うと、"千聖"の視線の先を追った。

彼女の視線の先にいたのは、青いスポーツTシャツに黒のロングスポーツタイツ姿の若越であった。


若越に視線を送る"千聖"の姿に、"茉子"は何かを察した。



(…千聖…もしかして…?)




_



次の日の放課後。

陸上部の部活が始まる前に、七槻は皆を集合させた。


一頻り、七槻から本日のメニューが発表されると、彼は背後を振り向き軽く頭を下げた。

そこへ、1人の男性が現れる。


「…いやぁ、昨年は中々部活を見てあげられなくてすまなかった。今年は担任持ってないし、1年の担当だからしっかり部活も見ていくとするよ。」


そう言うのは、羽瀬高陸上部顧問、渡樫 勇(わたがし いさむ)であった。

彼は42歳で2人の娘を持つ父親の傍ら、羽瀬高では現代社会科の教師として教壇に立つ。


昨年度は3年生のクラス担任でもあったことから、進路担当としての役職も任されていたこともあり、そちらの対応に追われていた。

それにより、日頃の部活動を当時の部長であった室井に一任していた。


「…とは言え、俺だけだと心許ないと思ってね。

昨年度の室井の活躍や伍代の活躍もあって、学校側から外部コーチを手配する許可を得た。」


渡樫はそう言うと、近くにいた1人の男性を呼んだ。

彼は小走りで陸上部員の前に立つと、全員の顔を見渡して、その口を開いた。


「初めまして。有嶋 侑介(ありしま ゆうすけ)と言います。

主に、跳躍ブロックの担当コーチとして、渡樫監督と共に皆さんの指導を行うことになりました。

宜しくお願いします。」


有嶋はそう言うと、深く頭を下げた。

すると、陸上部員一同、有嶋の自己紹介に拍手で応えた。


「それじゃあ改めて、今年度は渡樫監督と有嶋コーチのご指導の元、我々羽瀬高陸上部は『全国大会出場』を目標に活動していく。

…さて、それじゃあ今日も気合い入れていくぞっ!」


七槻がそう言って皆を先導しようとした時、妹の巴月がそれを制止した。


「…ちょ、お兄。まだ紹介してない方がいるでしょ?」


巴月はそう言うと、2人の女子生徒を皆の前に誘導した。


「今日から、仮入部として陸上部に参加する新入生が来てくれました!みんな拍手っ!」


2人の女子生徒を、陸上部員一同再び拍手で迎え入れた。

七槻は「わり、忘れてた。」と言って、仕切り直す。


「じゃあそれぞれ、自己紹介をしてくれ。」


七槻がそう言うと、皆から向かって左側にいる、細身の160cm程の背丈の、少し茶色がかった髪を後ろで1つに縛り上げている女子生徒が元気よく挨拶をした。


「…初めまして!この度、羽瀬高に入学しました、1年の睦小路 茉子(むつこうじ まこ)ですっ!

千歳中(ちとせちゅう)出身で、中学の頃から走り幅跳びを専門にやってます。

高校でも、走り幅跳びをやるつもりです。

羽瀬高陸上部の、高いレベルの環境についていけるよう精一杯頑張りますので、宜しくお願いしますっ!」


睦小路はそう言うと、勢いよく深く頭を下げた。

それにより、彼女の括った髪が大きく鞭打つ。


「…へぇ、走り幅跳びだってよ。後輩じゃん?若。」


紀良はそう言って、隣に座っている若越の脇腹を肘で小突いた。


「…棒高とは違うよ、走り幅跳びは。」


若越は睦小路に視線を向けたまま、小声でそう答えた。


「…ふぅん。そうなのか。」


紀良は若越の想定外の反応に、つまらなそうにそう呟いた。



「ありがとー!…んじゃ続いて…。」


気づけば進行役に成り代わっていた巴月が、そう言って2人目の女子生徒を紹介する。

その女子生徒は、少し恥ずかしそうに俯きながら、皆の前に1歩踏み出した。


「…あっ…わ、私も、新入生の…弓ヶ屋(ゆみがや)…ち、千聖(ちひろ)ですっ!」


睦小路より少し背の低い弓ヶ屋の、肩に着くくらいの栗色の髪の毛先が、ふわっと風に靡いた。

その微かな風を若越も正面から受けると、彼の視線が弓ヶ屋に向かって、真っ直ぐ…。






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