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High-/-Quality  作者: hime
【第2章:推進】
60/80

第59話:Reinforcement Training

_


「…あれ?伍代じゃん。久しぶり。」



ここは、静岡県下田市のとある海岸。

年末を目前に控えた頃、羽瀬高陸上部は"冬の合同合宿"に参加していた。


羽瀬高陸上部メンバーが到着すると、そう声を掛けたのは、黒地にピンク色の文字で"東洋台北(とうようだいきた)"と書かれたTシャツ姿の、少し細身で色黒の好青年であった。


「…おお!森川っ!会えるの楽しみにしてたぜっ!」


伍代は馴染みの青年にそう言って答えた。

若越も、彼の姿を見てすぐにその人物が誰なのか分かった。


インターハイ全国大会、4m95cmの記録で7位入賞をした静岡は東洋台北高の、森川 雄晴(もりかわ たけはる)であった。


「…お前、足大丈夫なの?肉離れやらかしたんだら?」


「…ああ、まあ大したことはないよ。まだ本調子ではないけど、ぼちぼちやってるよ。」


伍代の怪我の事は、森川も知っているようであった。


「…それよりさ、伍代。隣の彼が例の子?」


森川はそう言って、若越に視線を移した。

若越は、緊張からかビクッと反応した。


「…若越…跳哉です。」


「ははっ、知ってるよ。君の事を知らない奴は、棒高跳び選手の中では少ないんじゃない?君の事も、君のお父さんの事も俺は知ってるよ。なぁ?青海。」


森川は、そう言って彼の少し後ろにいた部員に声を掛けた。

彼は、若越と同じくらいの体型で目に掛かるくらいの天然パーマの黒髪の少年であった。


「紹介するよ。俺の後輩、青海 弧玉(おうみ こだま)。1年生だ。」


森川がそう紹介すると、青海は軽く頭を下げた。


「…青海です。棒高の実力は、森川先輩に到底及びませんが…。以後お見知り置きを。」


青海は人見知りなのか、軽くそう挨拶をしただけで、後は黙って伍代と若越の姿を眺めていた…。




_




"冬の合同合宿"では、全国各地から集まった陸上強豪校が一同に会し、次のシーズンに向けた強化トレーニングを行う最早名物イベントとして語り継がれていた。


羽瀬高は、中でも少ない部員数ではあったものの、先代顧問のコネクションもあって毎年この合宿に参加していた。



「…まだまだぁぁぁぁ!!51本目、行くぞっ!!」


「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」


強豪校の部員が声を上げ、参加部員がそれに応えるように声を出した。


初日にも関わらず、序盤から砂浜100m往復走100本のメニューが与えられていた。



「…っしゃぁぁぁぁ!!!!やってやるぜぇぇぇぇぇ!!!!」


強豪校の部員に負けじと、蘭奈がそう叫んだ。

既に短いインターバルの中、50本も100mの砂浜を走っているにも関わらず、蘭奈はいつも通りのハイテンションをキープしていた。


足場の悪い砂浜を駆ける事で、選手部員たちは普段の土やタータン製の競技場のトラックを走る時に比べて、比にならない程の体力消費と足腰の力を必要とされる。


既に半数以上の部員たちは今にも倒れそうな程、フラフラであった。



(…っクソッ…。足の力が思うように入らねぇ…。)


51本目の1組目が走り出している頃、全体の中盤辺りにいた若越もその1人であった。

両膝に手をついて、肩で大きく息をしながら疲労感を覚える両足に意識を向けていた。



パンッ!



ふと、その若越の背中に誰かの手が触れた。

若越は驚いて顔を上げると、そこには青海がいた。


「…まだだよ、若越くん。ここで負けてちゃ、俺らは森川先輩(あの人)たちには追いつけない…。」


そう言う青海も、既に額から大量の汗を流しながら、肩を上下に揺らして大きく呼吸をしていた。


若越は、そんな青海の姿に感銘を受けた。


(…こいつ…。)



「…ああ、そうだな。」


若越はそう言うと、大きく深呼吸をして体勢を立て直した。




「…ラストぉぉぉぉぉぉ!!!!気合い入れていくぞっ!!!!」



「っしゃぁぁぁぁ!!!!かかってこいやぁぁぁぁぁ!!!!!」



部員たちを先導していた、強豪校の部員の掛け声のすぐ後に、蘭奈が声を上げた。



「…行こうぜ、青海っ!」


「…もちろん、若越っ!」


若越と青海の2人は、激しい呼吸をしながらも、互いの肩を支え合いながら、100m先のゴールに視線を送って互いを刺激しあった。




_



その後も初日のトレーニングは続き、日が暮れた頃に漸く初日の全てのメニューが終わった。



各校、別の宿舎への宿泊となっており、羽瀬高陸上部も宿舎へと向かう準備をしていた。



「…若越。」



荷物をまとめていた若越にそう声をかけたのは、青海であった。


「…青海…。初日、お疲れ様。」


「若越もな。…なぁ、良かったら、連絡先交換しないか?

俺はまだまだ、跳躍も大したもんじゃないけど…アドバイスとか貰いたい。」


青海はそう言うと、手に持ったスマートフォンを差し出した。

若越にとって、高校生になって初めての出来事に、少し戸惑っていたものの、青海の提案を快く引き受けた。


互いに連絡先を送り合うと、青海は礼を言って東洋台北の宿舎に帰ろうとした。



「…ありがと、若越。あと3日間、大変だけど頑張ろうぜ。」


「…ああ、もちろん。」




_



2日目、午前中は基礎トレーニングがメインとなった。

午後からは、専門種目毎に分かれて、より専門分野に特化したトレーニングを行った。



3日目、一同は2日目までの海岸を少し離れ、別の海岸に集合した。



そこで、一同が目にしたのは…。



「…何なんだよ…これ…。」


その光景に、紀良が思わずそう口にした。

流石の蘭奈も、目の前の光景に空いた口が塞がってはいなかった。

若越も、険しい表情を見せている…。


「…これはな、この合宿のメインイベントと言っても過言ではない…。

その名も…"サンドスキー・ラン"だ。」


後輩たちにそう説明する七槻も、その光景に苦い顔をしていた。


冬の強い季節風によって砂が吹き上げられて、自然と作り上げられたという"サンドスキー場"。

幅約100m、長さ45m、傾斜30度の"砂の斜面"が、一同の前に広がっていた。



「今からここを1()0()0()()()()()()()

インターバルは15分の()3()()()()。」




_



3セット目の90本を越えた頃、流石の部員たちの勢いもかなり衰えていた。


「91本目ーっ!!!」


他校のマネージャーが、そう叫びながら手を叩いた。

1組目の部員たちが走り出すも、スタートはバラバラ。もう足を前に出す事も精一杯の様子であった。


その姿を見上げながら、2組目には蘭奈、若越、青海、伍代、森川、七槻らの姿があった。

全員、スタートの合図に耳を傾けているものの、気を抜けば今にも倒れそうな程になっていた。



その時…。



「…まだまだぁぁぁぁ!!!!行くぞぉぉぉぉぉぉっ!!!!」



そう声を上げたのは、若越であった。

肉体はもちろん、精神的にもかなり追い込まれていた筈であったが、その声には確かな勢いがあった。


「…っしゃぁぁぁぁ!!!!負けねぇ!!!!」


その声に釣られて、蘭奈も叫んだ。


「…かかってこいやぁぁぁぁ!!!」


蘭奈の声に続き、青海も声を上げた。


「…後輩っちに、負けてらんねぇ!!!!」


青海に続けて、森川もそう叫んだ。


「「…っしゃぁぁぁぁ!!!行くぞっ!!!!」」


最後に、七槻と伍代が声を合わせてそう叫ぶと、スタートの合図が出された。


ここまで既に、かなりの本数を走ってきたにも関わらず、彼らはスタートの合図を寸分たりともズラさずに、互いに負けじと全力で走り出した。





ラスト1本、最後の1組が砂坂を駆け上がると、殆どの部員がその場に座り込んで、全く動けずにいた。



「…お前ら、よくやったっ!午前のメニューはこれで終わり。

午後からは、各校宿舎にてストレッチ等、体のメンテナンスを行うようにっ!」



部員たちを労うように、代表顧問がそう言った。



「…お疲れ、青海。」


大の字でその場に寝転がり、大きく全身で呼吸をしていた青海に、いち早く立ち上がっていた若越が、手を差し伸べてそう言った。


青海はその声に気がつくと、スッと手を差し出した。

若越はその腕を強く引き上げ、青海を立ち上がらせた。


「…サンキュー、若越。」


そこへ、伍代がやって来た。


「…いやぁ、中々しぶとく着いてきたなぁ。流石、森川の後輩なだけあるな!」


伍代がそう言うと、そこへ森川も合流した。


「…それを言うなら、若越くんもだよ。

あの声出し、痺れたぜ。…こりゃ、次のインハイも一筋縄じゃ行かなそうだなぁ…!」


森川がそう言うと、4人は互いに顔を見合わせて笑い合った。


冬晴れの清々しい日差しが、砂と汗で汚れた4人の姿を、輝かしく照らしていた…。




_



その日の夜、夕食を終えてひと時の自由時間を過ごしていた若越のスマートフォンに、メッセージが届いた。




「…お疲れ様、若越くん。」


羽瀬高の宿舎の玄関先に座って待っていた若越の元に、桃木が現れた。


「…お疲れ様です、桃さん。」


若越が桃木の姿に気づき、慌てて立ちあがろうとすると、彼女は「座ってて。」と言って、若越えの隣に腰掛けた。


「…どう?合宿。流石にここまで来るとかなり疲れたでしょ?」


宿舎の玄関先の、小さな街頭に照らされた桃木の顔を見て、若越は自らの頬の赤らみが気になった。


「…そうっすね。これは結構キますね。」


若越は、咄嗟に自分の顔を隠すように、両手で両足の脹脛(ふくらはぎ)を叩いてみせた。


「明日で最後だから、無理せず…って言いたいところだけど。

最後まで気を抜かずに、頑張ってね。

今日の若越くんの姿見てたらね…私、若越くんならきっと凄い景色を見せてくれるんだろうなって、改めてそう思っちゃった。」


「…えっ…?」


「…若越くんが入部して、まだ9ヶ月くらいしか経ってないのに、なんかもう凄い成長力だなぁって。

日々、見る度に進化していく若越くんの成長が、私凄い楽しいの。

…まるで、ずっと隠されていた大きな翼が、少しずつその姿を見せていく?みたいな?」


桃木の言葉を間に受けて、若越は思わず両手を背中に回して、肩甲骨辺りを手で(さす)った。


「…ふふっ、例えばの話し。

でも、何だろうね。若越くんの成長の仕方、拝璃とは全然違って…って、当たり前なんだけどね。

ずっと、拝璃が強くなっていく姿ばっかり見てきたからか、今こうして、別の子が成長していく姿を目の前で見られるのが、私の楽しみでもあるの。

…ありがとう、陸上部に入ってくれて。

棒高跳び、続けてくれて。」


桃木がそう言うと、若越は大きく手を振って答えた。


「…いやいやいや、そんなそんなそんな、お礼を頂くことじゃないです。

俺自身が勝手に決めて、勝手にやってる事なんで…。

…でも、ありがとうはこちらこそです。


棒高やってる時、どうしても、頭の片隅には父親の事が離れずにあります。

片隅というか、もはや奥底にあって…これはもう何しても変わらないし、変えられない事なんだなって。

今、そう思えるようになったのは、羽瀬高陸上部に入ったからなのかもしれません。


先輩たちに出会えた事、仲間たちに出会えた事…そして、ライバルたちに出会えた事。

あの日、一瞬でも父親の事を忘れて、あの時の勝負に全力で勝ちに行ってたら、今の、今までの経験は出来なかったって思ったら、今思えばちょっと勿体無かったかなって、そう思ってます。


…あんな最初だったのに、俺を受け入れてくれた羽瀬高陸上部に、もう感謝の気持ちでいっぱいです。」


若越はそう言うと、唐突に立ち上がった。

そして、行く数多の星が輝く夜空に手を伸ばした。


「…だからこそ、もう負けられない。

強くなって、勝って、この感謝を形にしなきゃいけない。

あと俺が出来てない経験は、"勝利"です。

…青海や森川さんみたいな、全国のライバルたち。

それに、宙一さん、皇次、江國…そして、伍代先輩。

…今度こそ、彼らに"勝利"する。

『誰よりも、高い空を跳ぶ。』って目標、必ず叶えてみせます。」


若越はそう言うと、ふと我に返って桃木の方に振り向いた。


桃木は、優しい笑顔で若越を見ていた。


「…信じてるよ。若越くんが、目標を"超える"のを。」





_



4日目、最後のメニューは砂浜100m走を10本5セット。

そして、最終メニューは、"全力400m走"1本。



部員たちは、最後の力を振り絞り、己の限界のその先目掛けて走り出した。



3泊4日の全てのメニューを終えると、各校はそれぞれの地へと帰っていった。



「…次会うのは、インターハイ全国大会の舞台で。

約束な?」


青海は、若越との別れ際にそう挨拶した。


「もちろん。次会う時はライバルだ。」


若越はそう言って、新たな仲間(ライバル)に別れを告げた。


「…楽しみにしてるぜ。()()()()()。」


2人の会話を聞いていた森川はそう言った。


「…ん?待ってる…?」


森川の言葉に、伍代は不思議そうな顔をした。


「…なんだ、知らないのか?来年のインハイ、全国の舞台はここ、静岡だ。

…エコパの舞台で、全員揃って勝負しようぜ。」



森川はそう言うと、青海と共に帰って行った。




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― 新着の感想 ―
若越くんが大きく成長していく… スポーツって技術的を磨くことも勿論とても大切ですが、精神的なところを如何に鍛えていくか、安定させていくか、みたいなものが重要なのだなとしみじみ思います…
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