96 帰郷
アーリン兄さんは馬車に乗ってもしばらく泣いていたが、やがてゴシゴシと涙を拭うと僕をじっと見つめてくる。
「シリル。さっき尻尾が五本あるって言ってたよな? 早く見せてくれよ!」
兄さんに請われて僕は狐の姿になってみせるとアーリン兄さんは僕の尻尾をしばらくモフモフしていた。
「凄いや! ほんとに尻尾が五本もある! これだけあったら布団代わりになるな」
アーリン兄さんてば、僕の尻尾を布団代わりにするつもりかな?
先程から僕達のやり取りをニヤニヤと笑いながら見ていたテオとエリクは大爆笑をしている。
アーリン兄さんはテオ達が狼の獣人だと知ってちょっと萎縮していたが、すぐに打ち解けた。
そのうちに馬車は宿屋へと到着した。
部屋に戻って貴族服を脱ぐとようやくホッとした。
やはりこの貴族服を着るのは慣れないな。
アーリン兄さんは久しぶりの人型でさして広くもない部屋の中をウロウロしている。
「さて、無事にシリルの兄も連れ戻せたが、シリルはこれからどうするんだ?」
貴族服を着替えたテオがソファーにドカリと座りながら僕に聞いてくる。
僕としてはすぐに僕達が住んでいた里に戻ってビリー兄さんにアーリン兄さんを会わせたい。
「僕はすぐにでも里に帰りたいけど、アーリン兄さんはどう? 少し休んでいく?」
「里? 里ってもしかして僕達が住んでいた所か? シリルはそれが何処にあるのか知ってるのか?」
あれ?
そういえばまだ、アーリン兄さんには説明していなかったっけ?
「実はビリー兄さんが里で待っているんだよ」
僕はビリー兄さんを見つけた事と、一緒に里に帰った時にビリー兄さんが里に残ると言った事を伝えた。
そして、いなくなった僕達を探すために父さん達が里を出たきり戻っていない事も。
「父さん達がいない? …そんな…」
アーリン兄さんもやはり父さん達が里にいない事に衝撃を受けていた。
僕だって、ビリー兄さんだって、家に帰ればいてくれるはずの両親がいない事がものすごくショックだった。
しばらく落ち込んでいたアーリン兄さんだったが、ブルリと頭を振ると僕に向かって笑いかける。
「僕はすぐにでも帰りたいよ。ビリーも待っているだろうし、もしかしたら父さん達が帰っているかもしれないだろう?」
いつ、父さん達が戻ってくるかわからないから、ビリー兄さんが里に残ると決めたんだしね。
「それじゃ今から行こうか」
僕とアーリン兄さんが立ち上がると、テオ達も出発の準備を始めた。
「俺達は一足先にランベール樣の所に行っているからな。なるべく早く戻って来いよ」
テオ達と別れて僕とアーリン兄さんは里に向けて歩き出す。
「ランベール樣って誰だ?」
歩きながらアーリン兄さんが尋ねてくる。
「この国の第一王子だよ。テオ達と知り合ったお陰でランベール樣達とも知り合えて、兄さん達の情報を教えてもらえたんだ。他にも捕まっている獣人を解放するためにまた王都へ行くつもりだよ」
青年の姿の僕よりも小さい兄さんを見下ろすように視線を向けると、アーリン兄さんはプウと頬を膨らませた。
「あんなに小さかったシリルにこんな風に見下ろされるなんて思わなかったな。あーあ、俺も早く大きくなりたいよ」
ぼやいている兄さんと一緒に町の門を抜けて街道を歩いていく。
人目がないのを確認して街道脇に入り、狐の姿になって走り出す。
アーリン兄さんもやはり檻に入れられていた時間が長かったせいか、体力が続かないようだった。
何度か休憩を挟み、野宿をしてようやく僕達の里に辿り着いた。




