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93 解除

 兄さんの首輪を解除出来る魔法陣を手に入れた僕は再び公爵に面会を申し込んだ。


 公爵家からの返事には二日後に来るようにと書かれていた。


 手順なんか取っ払って今すぐにでも公爵邸に乗り込みたいけど、それが出来ないのがもどかしい。


 その間にカジミールはベルナールさんを連れて彼の家へと戻って行った。


 もっと早く二人のわだかまりが解ければ良かったのにと思わずにはいられなかった。


 前回と同じように貴族服に身を包んで馬車に揺られて公爵邸に向かう。


 今日こそは兄さんを連れて帰れる。


 期待に胸を膨らませて僕は公爵邸の門をくぐった。


 馬車を降りてこの前と同じ部屋に通される。


 テオ達と一緒に待っているとやがて公爵が姿を現した。


 公爵の後に続いて兄さんを入れた檻が部屋の中に入ってくる。


 檻の中の兄さんは僕を見るなり檻から前足を差し出してくる。


「この狐の首輪を解除する魔法陣を持ってきたらしいね」


 公爵は僕達の向かいに座ると挨拶もそこそこにそう切り出した。


「はい。こちらがその魔法陣です」


 テオが魔法陣が書かれた紙をテーブルの上に広げると、公爵はそれを受け取り側にいた執事に手渡した。


 執事はその紙を受け取ると兄さんが入っている檻の隙間から差し入れる。


 皆が固唾を飲んで見守る中、兄さんはその魔法陣の上に体を乗せていく。


 兄さんの四つ足が魔法陣を上に乗るとピカッと魔法陣が光り、兄さんの首に巻かれた首輪がポトリと落ちた。


「…外れた…」


 今まで喋れなかった兄さんがやっと一声を発した。


「…狐が喋った?」


 公爵を始め、執事や侍女達が兄さんが喋ったのを聞いて驚いている。


「ここから出して! こんな狭い所じゃ人型になれないよ」


 狐の姿では大きめな檻でも、人間が入るような大きさではない。


 体を丸めたら且つ且つ入れるような大きさの檻だ。


 公爵は執事に命じて檻の扉を開けさせた。


 兄さんは檻から出るとすぐに人型に姿を変えた。


 そこにはビリー兄さんと同じくらいの大きさになったアーリン兄さんが立っていた。


「アーリン兄さん!」

 

 人目もはばからずに兄さんに駆け寄ってその体を抱きしめようとすると、サッと避けられた。


「…兄さん?」


 何故避けられたのか理由がわからずに兄さんを見つめると、兄さんは少し戸惑ったような表情で僕を見つめる。


「お前がシリルだとはわかるけど、どうしてそんなに大きくなってるんだ?」


 …アーリン兄さんもか。


 僕はビリー兄さんにしたのと同じ説明をアーリン兄さんに繰り返した。


「…尻尾が五本?」 


 僕の説明を聞いてもアーリン兄さんは信じられないといった表情のままだ。


 流石にこの場では狐の姿にはなれないので後で見せると約束をした。


 兄さんと一緒にテオ達の所に戻るが、兄さんはテオ達にどう接していいかわからないようだった。


 それでも僕が一緒に座るように促すと緊張した面持ちで僕の隣に腰を下ろした。


「…本当に狐の獣人だったんだな。君達の所に返すのは吝かではないが、娘の悲しむ姿を思うと返したくはないな」


 公爵はしばらく考え込んでいたが、おもむろに口を開いた。


「ねぇ、君。アーリンと言ったかな。檻に入れたりはしないから狐の姿のままで娘の側にいてはくれないか?」


 突然の公爵の申し出に僕達は驚きを隠せなかった。


「ちょっと待ってください。どうしてそんな事を仰るんですか?」


 テオが抗議するような口調で問うと、公爵は肩を竦めた。


「私は娘の悲しむ顔は見たくないのでね。場合によっては力づくででも君を引き留めるつもりだ」


 まさか公爵にそんな事を言われるとは思わなかった。


 テオもエリクも険しい表情で公爵を凝視している。


 それなのに兄さんはと言うと何故か頬を赤く染めている。


 一体どういう事だ?


 僕が困惑していると部屋の扉がバン、と開かれた。


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