88 ランベール様からの情報
ランベール様からの情報を待つ間に僕達なりにこの町に住む魔術師を探る事にした。
この町にも魔術師の店は数件あったがベルナールさんの息子の店はなかった。
またベルナールさんの息子について知っているかと尋ねたが、誰からも情報は得られなかった。
だいいち息子の名前を知らないのだから聞かれた方も返答に困っただろう。
雲をつかむような話で焦りが生じていた頃、ようやくランベール様から情報がもたらされた。
その日の朝、テオ達と魔術師の店を探す範囲を確認していた頃、ふとテオが顔を上げた。
「ようやく来たみたいだな」
すると、エリクも少し鼻をひくつかせて安堵したようにため息をつく。
「やっと来たかー。有益な情報だといいんだが…」
二人の態度に僕も鼻をひくつかせるが、誰が来たのかさっぱりわからない。
首をひねっていると誰かが廊下を走ってくる足音が聞こえて、扉がノックされた。
こちらが返事をするより先に扉が開かれ、一人の男の人が入ってきた。
あれ? この人は…。
僕が人違いをされてエリクに連れて行かれた時にもう一人のシリルを連れてきた人だ。
確か名前はサシャって言ったかな?
サシャはドカドカと部屋に入ってくるなり、ベッドにバタリとうつ伏せに倒れ込んだ。
「…あー、疲れた! 水くれ、水!」
そう言われるのを予想していたらしく、エリクがサッとコップに水を注いでサシャに差し出した。
「ほら、水だよ」
サシャは起き上がるとエリクからコップを受け取り一気に飲み干した。
「あー、生き返った! まったくランベール様も人使いが荒いよ!」
コップをエリクに突き返すと今度は仰向けにベッドに寝転んだ。
「疲れてるのはわかるが、さっさとランベール様からの情報を渡してくれ」
テオに促されてサシャは懐から一枚の紙を取り出すと寝転んだままこちらに突き出してくる。
エリクが受け取りテオに渡すとテオは素早くその紙を広げた。
僕も横からそれを覗き込むと、ベルナールさんの息子の名前と店の場所が記されていた。
ランベール様からの情報によればベルナールさんの息子の名前はカジミールでこの王都の隣の町に住んているようだ。
「てっきりこの王都にいると思っていたが、どうやら違ったみたいだな。今から行ってみるか。隣町だから今日中には戻って来れるだろう」
僕は一も二も無く賛成した。
今日中にカジミールに会って兄さんの首輪を解除する方法を教えてもらいたい。
僕達が出かける準備をしているのに対してサシャは相変わらず寝転んだままだ。
「サシャ。僕達は出かけるが留守番を頼めるか?」
「一緒に来いと言われてもお断りだね。僕はこのまま休んでいるから行ってきていいよ」
そう言うなりサシャは獣の姿になり丸くなった。
サシャの正体はチーターだった。
確かに走るのは速いからランベール様がお使いを頼むのには最適だな。
サシャを一人部屋に残すと僕達は隣町に向けて出発した。
王都から隣町へはさして距離はなかった。
最も僕達は獣の姿になって走るからその分時間が短縮されるせいもある。
隣町に着いてすぐに僕達はカジミールの店を目指した。
「地図によればこの辺りのはずなんたが…」
テオが辺りをキョロキョロするが、店の看板らしき物は見あたらない。
「…道は間違えてないよな」
エリクもあちこち見渡すが、それらしき店はまったく見つからない。
「…ガセネタじゃないよな」
テオの言葉が僕の胸に突き刺さる。
そんな事だけはあってほしくない。
ふと、今通り過ぎた家に何か違和感を感じた僕はその家の呼び鈴を鳴らした。
「シリル、どうした?」
テオが尋ねて来たがそれに答えるよりも早く、その家の扉が開かれた。
「…誰だ?」
扉を開けた中に立っていたのは、ベルナールさんによく似た顔立ちをしていた。
もしかしてこの人がカジミール?




