87 首輪の性能
どんよりと落ち込む僕をテオとエリクは食事に連れ出してくれた。
宿屋の主人に何処かおすすめの店を聞くとここを教えくれた。
この王都で人気の店らしく、大勢の客で賑わっている。
どんな話をしても僕達の話に聞き耳を立てるような人物はいなさそうだ。
それぞれメニューをオーダーすると、それほど待たされる事もなく料理が運ばれてきた。
食欲なんてないと思っていてが、いざ料理を目の前にするとお腹の虫が「ぐう」と鳴き出した。
しばらくは食べる事に没頭していたが、やはり考えるのはアーリン兄さんの事だ。
「…もう一つの首輪って誰が着けたのかな?」
食事の手を止めてポツリと呟くと、エリクは肩をすくめるだけで言葉を発しない。
もっともその口の中は大量の食べ物で埋め尽くされている。
「それはやはりベルナールという魔術師の息子だろう。一旦あの首輪を着けた後でそれよりも更に別の効果の首輪を開発したから試しに着けてみたんじゃないのか?」
テオの指摘が一番しっくりきそうだ。
エリクも食べ物を咀嚼しながら、うんうんと頷いている。
だけど、今までの首輪よりも別の効果の首輪ってどんな性能があるんだろう?
そう考えた時になって僕はビリー兄さんの時とは違う違和感を覚えたのを思い出した。
「…そういえばアーリン兄さんは前よりも小さくなったような気がする…」
ポツリと呟いた言葉にテオとエリクは反応する。
「小さくなった? どういう事だ?」
「何々? アーリンもシリルみたいに大きさが変えられるってこと?」
エリクに聞かれて僕はアーリン兄さんの事を思い返してみたが、アーリン兄さんが大きさを変えられるなんて事は出来なかったはずだ。
そうすると首輪の効果でアーリン兄さんの大きさが変えられていると思ったほうがいいだろう。
「違うよ。きっと首輪の効果で体の大きさを変えられているんだと思う。それに一つ目の首輪を外しても、喋ったり人型になれたりしなかったって事はそういう効果も備えているって事だよね」
「二つ目の首輪に全ての性能が備わっているんなら、どうして一つ目の首輪を外さなかったんだ? わざわざ二つも首輪を着ける理由なんてないはずだろ?」
確かにテオの言う通り、もう一つの首輪に全ての性能が備わっているのなら、片方は外せばいいはずだ。
するとエリクがなんでもない事のようにフンと鼻を鳴らした。
「そんなの簡単じゃないか。一つ目の首輪を解除する魔法陣をベルナールの所に置いてきたからだよ。最もそれは今僕達が持っているんだけどな」
言われてみれば確かにそうだ。
どうして魔法陣が一つしかないのかは知らないが、手元になかったから外せなかったのだろう。
だが、問題は首輪の制作者であるベルナールさんの息子が何処にいるかという事だ。
何とかして首輪の制作者を探し出して首輪を解除してもらわないと兄さんを返して貰えない。
「ねぇ、テオ。ベルナールさんの息子を探し出す手立てはないの?」
「それなら心配ない。既にランベール様の命令で魔術師の行方を追っているところだ。居場所がわかり次第連絡して貰える事になっている」
「連絡してもらうのはいいけどさ。それまでこの場所から動けないままって言うのもな…」
エリクが不満げに呟く。
ジリジリとした気分でこのまま持ち続けるのは辛いが、それしか方法がないのであれば仕方がない。
僕達は食事を終えると町中をブラブラと歩きながら宿屋に戻った。
果たしてどれぐらいここで待たされるのだろうか?




