82 呼び出し
王宮から連絡が入ったのは、テオの家に滞在してから3日後の事だった。
テオと一緒に町を散策して戻るとテオのお母さんから書簡を差し出された。
「さっき王宮の使いの方が届けてくれたわ」
テオが受け取って開封すると、書簡はランベール様からのもので知らせたい事があるのでエリクと三人で来て欲しいと書かれていた。
「日時は記されていないから今からでもいいという事だろう。エリクの所に寄って行くか」
僕達は腰を落ち着ける間もなく外に出るとエリクの家に向かった。
「何かあったのかな?」
「さあな? もしかしたら奴隷商が口を割ったのかもしれないぞ」
奴隷商か…。
僕達が捕まえてからこの王都に送られたが、なかなかしぶとい奴で尋問にものらりくらりと躱していたらしい。
どんな手を使ったのかは怖くて聞けないが、奴隷商が何か喋ったのならアーリン兄さんについての話があったのかもしれない。
そんな期待を抱きつつも僕達はエリクの家を訪ねた。
呼び鈴を押すとすぐにジャンヌさんの返事が聞こえて扉が開いた。
「あら、兄さんにシリル、どうしたの? エリクに用事? どうぞ入って」
そう言うジャンヌさんの首筋に赤くなった箇所を発見して、それが何を意味するのかを察して視線を彷徨わせた。
テオもそれを見つけたらしく妙に険しい顔付きになる。
頼むからそれくらいで喧嘩なんてしないで欲しいな。
家の中に入るとソファーに座ったエリクが脳天気に手を上げた。
「よう、どうした? …えっと…」
テオの視線が険しい事に気付いたエリクが戸惑ったように、上げた手をそっと下ろす。
「ランベール様から呼び出しだ。すぐに出かけるぞ」
テオは有無を言わさずにエリクの耳を引っ張り上げる。
「痛い! 痛い! 自分で立てるから引っ張るのはやめてくれよ!」
ジャンヌさんは呆れたように二人を見ているだけで止めもしない。
きっと付き合っている頃からこんな状態なんだろう。
「シリル。あの二人は放っといていいからね。下手に仲裁に入ると巻き込まれるだけだから損するわよ」
ジャンヌさんの忠告は有り難く受け取っておこう。
じゃれ合っている(?)二人と連れ立って王宮に向かい、以前と同じ門に着いた。
「テオドールか。ランベール様から伺っている。案内しよう」
以前対応してくれた騎士が僕達を先導してくれる。
以前と同じ場所だったが、あちこちうろつかれても困るのでこうして案内してくれるのは監視の目的もあるのだろう。
騎士団の詰め所の入り口にいた騎士が僕達の案内を引き継ぎ、中へと入って行く。
今回案内された場所は会議室のようだった。
「しばらく待っていてくれ。ランベール様に取り次いでくる」
騎士はそう言い残すと僕達を置いて会議室を出て行った。
流石に上座に座るわけにもいかないので、扉に近い末席に三人で腰を下ろしランベール様の到着を待った。
それほど待たされる事もなく、ドヤドヤと足音が近付いて来て会議室の扉が開かれてランベール様が入ってくる。
護衛騎士は中には入らずに扉の前で待機するようだ。
ランベール様は僕達に向かい合う場所に腰掛けると、バサリと手に持っていた書類を置いた。
「いきなり呼び出して済まない。昨夜ようやく奴隷商が話をしてくれてね。…まったく、強情な奴だったよ」
ランベール様はかなり疲れたような顔をしているから、それだけ手こずったという事だろう。
「これが奴隷商が売った獣人達の購入先だ。違法とはいえ買った方もそれなりの金を出しているからな。只で解放しろとも言えない。奴隷商の財産は差し押さえたのでそれを使って彼等を解放してやってくれ」
ランベール様から渡された書類に目を通すと獣人の種類やそれを売った先が記入してあった。
僕は真っ先に狐の獣人の項目を探したがなかなか見つからない。
一番最後に二つの「狐」の文字を見つけた。
そのうちの一つはビリー兄さんのものだろう。
そうしたら、後の一つはアーリン兄さん?
僕はゆっくりとその文字を読んでいった。




