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80 別れ

 僕は青年に姿を変えると兄さんと一緒に門を目指した。


 兄さんは不満顔だけど、子供だけで門の外には出して貰えないからね。


 弟を連れている(てい)で門を抜けるとすぐに人目のない場所で狐に姿を変える。


 そのまま一気に里に向かって走り出す。


 兄さんも頑張って走ったけれど、流石に子狐の姿では思うようにスピードが出なかった。


 それでも何とか夜になる頃には里に辿り着いた。


 夜になって現れた僕達に門番は一瞬警戒をしたが、僕だと知ってすぐに警戒を解いた。


「シリルか? また帰って来たのか? …って一緒にいるのはビリーか?」


「やったじゃないか。兄さんを見つける事が出来たんだな」


 門番の人に労われて僕達は里の中へと入って行った。


 家の鍵を預けた狐の夫婦の家を訪ねる。


「あら、シリル? こんなに遅くにどうしたの?」


 僕を出迎えてくれた狐のおばさんは僕と一緒にいるビリー兄さんに目を見張った。


「まあ! ビリーなの? 良かった… 見つかったのね」


 ビリー兄さんを見て喜んでくれたけれど、その後にも何か言いたそうだった。


 おそらくアーリン兄さんはどうしたのかと聞きたかったのだろう。


 だが、それは口には出さずに僕達を家に招き入れてくれた。


「家に帰るんでしょ。もう今日は遅いからうちに泊まっていきなさい」


 鍵を預かってくれたおばさんは定期的に掃除をしてくれているらしいが、それでも今すぐに使える状態ではないようだ。


 僕達も走りっぱなしで疲れていたので有り難く申し出を受け入れた。


 この家で一晩厄介になった後で、翌朝僕達の家に帰った。


 あまり期待はしていなかったが、やはり父さん達は里には帰っていなかった。


 鍵を開けて家の中に入ると、誰も居ないガランとした空間が広がっている。


「…父さん、母さん…」 


 ビリー兄さんがポツリと呟く。


「…せっかく帰って来れたのに…」


 その声に涙が混じっているのに気がついたが、知らないふりをした。


 家の中で追いかけっこをして怒られた事や、喧嘩をして叱られた事を思い出す。


 ビリー兄さんはズズッと鼻をすすると袖でグイッと涙を拭いた。


「シリル。俺はここに残る!」


 ビリー兄さんは固く決意したように僕を見据えた。


「シリルと一緒にアーリン兄さんや父さん達を探そうかと思ったが、ここに来るまでの道程で俺は足手まといになるとわかった。だからここに残って父さん達が帰るのを待ってるよ。そしてシリルがアーリン兄さんを探しに行っている事を伝えるんだ」


 確かに僕は体の大きさを変えられるけど、ビリー兄さんにはそれが出来ない。


 ここまで来る途中で僕より走るのが遅いのを気にしているのは伝わっていた。


 それに、ここに兄さんがいてくれたら、父さん達とすれ違わずに済むだろう。


「兄さんがそれでいいなら僕は何も言うことはないよ」


 兄さんと一緒に旅をしたい気持ちはあるけれど、危険が迫った時に兄さんを守りきれるか自信はない。


 僕と旅をするよりはここにいたほうが安全だろう。


「それじゃ、手分けして家の中の掃除をしようか」


 僕とビリー兄さんは家の中を掃除して回った後で、狐のおばさんにビリー兄さんがここに残る事を伝えに行った。


 その夜、僕はビリー兄さんと一緒に床についた。


「…王都に戻ったら何か情報が入っていればいいな」


 兄さんの声を聞きながら僕は眠りについた。


 翌朝、僕はビリー兄さんと狐のおばさんに見送られて里の門に来ていた。


「ビリーの事は心配しないで。私がちゃんと面倒を見るわ」


「シリルに押し付けるようで悪いけど、アーリン兄さんの事は頼んだよ」 


 ビリー兄さんに抱きしめられて僕も兄さんを抱きしめ返す。


「絶対にアーリン兄さんを見つけるからね。ビリー兄さんも父さん達に会ったらよろしく言っといてね」


 せっかく兄さんに会えたのにまた離れ離れになるのは寂しいけれど、ここに帰れば兄さんがいるとわかっているだけでも以前よりはマシだ。


 僕は二人に別れを告げると王都に向かって走り出した。

 

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