75 報告
堀から上がると人型に戻り僕と兄さんの体を魔法で乾かした。
「兄さん。一旦宿屋に戻ろう。そこで兄さんの首輪を解除するよ」
頷いた兄さんを再び抱き上げるとテオ達が待っている宿屋に急ぐ。
宿屋に到着すると表で待っていたテオが「こっちだ」と手招きをした。
テオの後をついていくと宿屋の裏口から中へと入っていく。
部屋に入ると先に戻っていた獣人達が獣の姿で寛いでいた。
女性達はエミリーの部屋に集まっているようだ。
「人型のままだと狭すぎるからな。この姿なら床に寝ても問題ないだろ」
確かにこんな真夜中に何人も押しかけて部屋を借りると怪しまれるだろう。
僕は兄さんを下ろすと首輪を解除する魔法陣を広げた。
「ビリー兄さん。この上に乗ってみて」
ビリー兄さんはちょっと小首をかしげたが、そっと魔法陣の上に足を乗せた。
魔法陣がピカッと光りビリー兄さんの首輪がポトリと床に落ちた。
「…首輪が、外れた?」
ビリー兄さんの口からようやく言葉が発せられた。
「喋れる! どんなに大声を出したつもりでも何も話せなかったのに…」
ああ、良かった…。
これでゆっくり兄さんと話ができる。
「ビリー兄さん、良かった…」
思わず兄さんを抱きしめようとしたら、それよりも早く兄さんは人型に戻ると僕の抱擁を押し留めた。
「ちょっと待て! お前、本当にシリルか? あんなに小さかったのにどうして俺より大きくなっているんだ? しかもそんな青年の姿なんて!」
そういう兄さんは最後に別れた時よりは大きくなっているが、十歳くらいの少年の姿だ。
それに反して今の僕はそれよりも年上の青年の姿だ。
赤ちゃんだった僕の姿しか知らない兄さんが驚くのも当然だ。
王女の部屋で会った時も口をパクパクしていたのは、これを言っていたのだろう。
「あの日、家を飛び出した後、ヘルドッグに追われて崖から落ちたんだ。川に流されて隣の国に辿り着いた。そこで拾われて魔法を使ったりしているうちに尻尾が増えて大きくなれるようになったんだ。それよりアーリン兄さんはどうしたの?」
僕は青年の姿から兄さんと同じくらいの歳の子供へと姿を変えてみせた。
この方がお互いに落ち着いて話せると思ったんだ。
案の定、ビリー兄さんは少しホッとしたような表情を見せてくれた。
本当はあの頃と同じくらいの大きさになってもいいんだけど、そうするとテオとエリクが僕を構いたそうにするんだよな。
「あの日、シリルが出て行ってから俺とアーリン兄さんは父さん達の所に行こうとしたんだ。そうしたら家を出た所でハンターに捕まって俺とアーリン兄さんは奴隷商の所に連れて行かれた。そこで俺はその首輪を付けられてここの王女に献上された。だからアーリン兄さんがあの後どうなったかはわからないんだ」
それだけを一気に話すとビリー兄さんは悔しそうに顔を歪めた。
二人一緒にいて欲しかったのにそうは上手く話は進まないようだ。
「父さんも母さんも僕達が居なくなって心配しているだろうな。早く戻って少しは父さん達を安心させてあげたいよ」
兄さんにそう言われて僕は背中に冷水を浴びせられたような気分になった。
兄さんは父さん達があのまま、あの家で暮らしていると思っているのだろう。
そんな兄さんに現実を突きつけるのは気が進まない。
だけど隠し通せるものでもない事は確かだ。
それにもしかしたら一旦家に戻っているかもしれないし…。
「兄さん。実は僕、この間家に帰ったんだ。そしたら父さん達は僕達を探しに里を出ていたんだ」
そう告げるとビリー兄さんは驚いて僕の肩をガシッと掴んだ。
「嘘だろ? 父さん達がいない? あの王女の所から逃げられてやっと父さん達に会えると思っていたのに…」
目に涙を浮かべて兄さんは僕に詰め寄ってくるけれど、僕にはそれ以上何も言えなかった。




