70 探索
夜になり僕達は夕食を取るために外に出た。
王宮に近い食堂で食事を済ませると散歩をするフリをして王宮の周りをぶらつく。
橋の柵の所にいた門番の姿はなかったが、跳ね橋はすでに上げられていて王宮へは入れなくなっていた。
「警備がいないのは有り難いが橋は渡れなくなっているからな。やはり跳ぶしかないか?」
警備がいないのをいい事に橋を渡り、跳ね橋が上げられている所まで足を運ぶとテオは王宮を見上げた。
正面には上げられた跳ね橋が行く手を阻むようにそびえているが、両脇には着地出来るそうな場所もあった。
たが、向こう岸に渡ったとしても更に高い城壁がそびえているのだ。
「まあ、あれくらいの高さなら跳べなくもないかな」
エリクが言うように僕にも跳び越せなくはないが、エミリーはそうもいかない。
ここはやはりテオの背中に乗せるべきかな。
流石にまだ人目があるので王宮に忍び込むわけにはいかない。
僕達はまたブラブラと散歩をしているフリをして王宮を後にした。
宿に戻り皆が寝静まる頃をただじっと待っていた。
真夜中を過ぎた頃、宿屋の窓から獣の姿になって外へと飛び出した。
所々に街灯が灯る町中を王宮に向かってひた走る。
緊迫するシーンなのに目の前を背中にハムスターを乗せて走る狼の姿がシュールだ。
王宮に繋がる橋に到着し、跳ね橋の横にある空き地を目掛けて跳ぶ。
堀に落ちる事もなく無事に皆が渡り切って次は城壁だ。
「エミリー、しっかり掴まってろよ」
テオはそう告げると地面を蹴って城壁を飛び越えた。
「ひゃあっ!」
エミリーの口から悲鳴が上がる。
不味い。
誰にも聞かれていなければいいんだが…。
僕とエリクはしばらくじっとしていたが、城壁の向こうで騒ぎは起こっていないようだ。
テオに続いて僕とエリクも城壁を飛び越した。
地面に降り立つとそこは城門を入ってすぐの場所だった。
「王女の居室は王宮の奥にあると思うが愛玩動物達が何処にいるかはわからないな。この王宮の構造がわからないから下手に手分けして探すよりも皆で行動した方がいいだろう」
「いざとなればシリルの幻影魔法で目眩ましをして逃げるからな。シリル、頼んだぞ」
テオとエリクに促されるままに僕達はとりあえず王宮の奥から探る事にした。
何処からか動物の匂いがしないか鼻をひくつかせながら王宮の奥へと進んで行く。
辺りはしんと静まり返っているが、何処かに不寝番がいるかもしれない。
獣の姿だから夜目は効くし、足音を立てずに移動することが出来るのは幸いだ。
更に進んでいると何処からか動物の匂いがかすかにしてきた。
「今、何処からか動物の匂いがしたぞ。もっと奥へ行ってみよう」
足を早めたテオを追いかけるように僕もスピードをあげると、色々な動物の入り混じった匂いが強くなってきた。
何処だ?
何処から匂いがしてくるんだ?
王宮は広すぎて中々匂いのしてくる場所を特定出来ずに奥へと足を運んでいると、前方に小さな建物が見えてきた。
その建物に近付く度に匂いが強くなるような気がするけれど、気の所為だろうか?
いや、気の所為じゃない。
確かにあの建物から色々な動物の匂いがしてくる。
建物の扉の前には誰一人立っていない。
流石にこの扉を見張るほどの人員は割けないようだ。
たかが動物くらい、と軽く思われているようで気分が悪い。
だが、そのおかげで誰にも見咎められずにいるのだから良しとするべきか。
テオは辺りを見回した後、人型になり扉に手をかけた。
幸いな事に扉には鍵がかけられていなかった。
ゆっくりと音を立てずに扉が開かれ、僕達は中へと足を踏み入れた。




