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69 王都到着

「思っていたより状況は悪いかもしれないな」 


 二人組が出て行った後、テオがポツリと呟いた。


 あの二人の話が本当ならば、既に飽きられて放置されている者がいるという事だ。


 それが獣人なのか、動物なのかはわからないが、手遅れになる前になんとかして助けてやりたい。


「明日にはパストゥール王国に入るぞ。そこから王都までは最短距離で進もうと思う。エミリーさんには負担が大きいかもしれないが我慢してくれ」


 エミリーさんがちょっと悲愴な面持ちで頷いているけど、あれ以上のスピードで走られたら、振り落とされてしまうかもしれない。


 馬みたいに鞍を付けるわけにもいかないかな…。


 せめて胴体に紐を結んでそれを持ったら少しはエミリーも楽かも。


 そう思いテオとエリクに伝えると渋々と承知してくれた。


 翌朝、宿屋を出発してパストゥール王国を目指す。


 人目のない所でテオが狼に変わると僕はその胴体に紐を結わえ付けた。


 結び目の両横をハムスターになったエミリーさんがギュッと掴んだ。


 これならば結び目が緩んだりして外れても、エミリーさんが掴んでいる限り落ちる事はないだろう。


 エミリーさんもテオの毛を掴むよりは持ちやすいようだ。


 準備が整った所で僕とエリクも獣の姿になり、パストゥール王国を目指して走り出した。


 テオも背中を気にしなくていい分、スピードが増したようで、予定より早く国境門に着いた。


「思ったよりも早かったな。これならば二~三日内には王都に着くかもしれないぞ」


 テオはエミリーさんを降ろすと人型に戻り、胴体に結ばれた紐を解きながら感心していた。


 門番にそれぞれ冒険者カードを提示するが、エミリーさんはテオの妻として申請した。


 エミリーさんはその設定にちょっと照れていたが、実際にそんな事になるかどうかは微妙なところだ。


 異種族間で結婚は出来なくはないがその場合、子供は産まれないらしい。


 何事もなく国境門を超えるとまた王都に向かって走り出した。


 そして三日目にようやく王都へと辿り着いた。


 王都に着くとすぐに僕達は王宮へと足を運んだ。


 ここの王宮は周りを堀で囲まれていて、王宮に続く橋は一本しかかかっていなかった。


 その橋も途中で跳ね橋になっていて夜には王宮への出入りは出来なくなるようだ。


「随分と物々しい警備だね」 


 堀を挟んで王宮を見上げながらテオが呟く。


 橋の前にも騎士が立っていて、出入りする馬車をチェックしている。


 橋を渡ると更に門番が居てそこでも馬車を止められていた。


 今は王宮への門が開かれているが、夜になるとその門も閉ざされるに違いない。


 そのうえで跳ね橋も上げられるのだから厳重に警備されている事になる。


「泳いで渡れなくもないが、堀の中に何が潜んでいるかはわからないな」


 エリクはそう言うが、泳ぐにしても堀への侵入も容易ではない。


 堀の周りは転落防止のための柵がぐるりと囲んでいる。


 その柵も人の背より高く先端は槍のように尖っている。


 橋の所で柵は終わっているが、その代わりに騎士が立っているのだ。


 もしかしたら夜も交代で立っているのかもしれない。


「とりあえず宿を取って夜の警備がどうなっているのかを確認しよう。いざとなれば柵を飛び越えて堀に飛び込むしかないかもな」


 テオに促されて僕達は宿を決めるとまた町の中を見て回った。


 人々は王都での暮らしに不満はないようで、特に悪い話は聞けなかった。


 ただ王女に関してはあまりいい噂は聞かなかった。


「わがままで周りを困らせている」とか「動物好きだけど飽きっぽいらしい」などと言われていた。


「あの調子じゃ嫁ぎ先も決まらないかもしれない」などと言う者までいたくらいだ。


「ここの王と王妃は娘の教育を間違えたようだな」


「いずれ嫁に出すからと甘やかし過ぎたんだろう。そんなのは僕達の知ったこっちゃない。一旦宿に戻って夜の警備に備えよう」 


 僕達は宿に戻り、夜まで仮眠を取る事にした。


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