65 魔術師
治療院に到着すると、僕達はすぐにそのハムスターを診てもらった。
「これはまた、随分と頑丈な首輪ですね」
ハムスターに付けられた首輪を何とか外そうと試みてくれた魔術師の人は、結局首輪を解除する事が出来なかった。
「普通はここまでの規模の首輪なんて付けないんですけどね。これを開発した魔術師が、たまたまそばに居たこのハムスターに付けちゃったんですかね」
なおも外そうとしてくれたが、首輪には傷一つ付けることが出来ずにお手上げ状態だった。
「申し訳ありませんが、ここでの解除は無理ですね」
魔術師に言われてハムスターはボロボロと涙を溢した。
今のままでは喋る事も出来ないので、このハムスターを何処に送り届ければいいのかもわからない。
「この首輪を外せるような魔術師の人はいないんですか?」
泣いているハムスターを抱き上げながら魔術師の人に問いかけると、彼はしばらく考え込んでいた。
「そうですねぇ…。今も居るかはわかりませんが、この町の何処かに魔術具を作る魔術師がいたはずです。彼ならばもしかしたらこの首輪を外せるかもしれませんね」
僕達はハムスターをつれて魔術師を探すことにしたが、この町に来たばかりの僕達には何処に魔術師がいるのかさっぱりわからない。
「さて。何処に魔術師が住んでいるのか探さないといけないが何処を探すべきかな」
テオが町中をキョロキョロとするが、何処をさがしていいのかもわからない。
「とりあえず魔術具店に行ってみないか。魔術具を作っているのなら、店と取引をしているかもしれないぞ」
エリクの言う事も最もだと思い、先ずは魔術具店に行く事にした。
通りすがりの人に話を聞いて魔術具店が何処にあるかもわかった。
「すぐに首輪を外してあげるからね。それまで我慢してくれよ」
僕が腕の中のハムスターに告げると、ハムスターはコクリと頷いた。
教わったとおりに歩いて行くとすぐに魔術具店に辿り着いた。
「いらっしゃい」
店に入ると奥のカウンターにいる人物から声をかけられた。
「買い物じゃなくて人を探しているんだが…。この町で魔術具を作っている魔術師がいると聞いたんだが、何処に住んでいるか知っているか?」
テオが店の人に聞いている間、僕は店の中に並べられてある魔術具に目を奪われていた。
パッと見だけでは何に使うのかわからないような魔術具が、店内に並べられている。
下手に触る事も出来ないので眺める事しか出来ないのがもどかしい。
「魔術師? それならベルナールの事かな。彼ならばこの裏の通りを行った所に住んでいるよ」
僕達は店主に礼を言うと、教えられたとおりに裏の通りを進んで行った。
やがて店主に告げられたとおりの家が目の前に現れた。
「ここで間違いはないのかな? とりあえず訪ねて見るか?」
テオが扉の横に取り付けられている呼び鈴を押した。
家の中に呼び鈴の鳴り響く音がするのがかすかに聞こえたが、待てど暮らせど扉が開く事はなかった。
再度テオが呼び鈴を鳴らすがやはり誰も出てこない。
「留守かな? 一旦引き上げて時間をおいて出直す方がいいのかも…」
ガチャリ!
エリクの言葉を遮るかのように扉が開き、中から一人の男が顔を出した。
「誰だ? 押し売りなら間に合ってるぞ」
不機嫌そうな表情を隠しもしないで男が僕達に告げる。
老人、と言ってもいいくらいの年老いた風情の男の人だった。
「突然、すみません。ベルナールさんですか?」
名前を呼ばれてベルナールさんは胡散臭そうに僕らを見比べた。
「確かにベルナールだが…。お前ら、何処で儂の話を聞いた?」
そこでテオは魔術具店で店の人からここを教えてもらった事を告げた。
「魔術具店でか。お前ら、儂に作ってもらいたい魔術具でもあるのか?」
そこで僕は抱っこしているハムスターの首輪を見せた。
「いいえ。この首輪を外して貰いたくて来たんです」
「首輪?」
ベルナールさんはハムスターに付けられた首輪を見るなりサッと顔色を変えた。
ベルナールさんはこの首輪の事を知っているのだろうか?




