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63 救出

 パストゥール王国に行くには、いくつかの町を抜けていかないと辿り着けない。


 途中の町でも奴隷商の情報を集めながら進む事にした。


 王都の町を出て人目がないのを確認すると、僕達は獣の姿になって森の中を駆け抜けた。


 次の町が見えてくると僕達は何食わぬ顔で人間の姿に戻り、歩いて町を目指した。


 冒険者カードを提示して町の中に入ると、獣人の姿を探して町の中を歩き回った。


 歩きながらも僕は耳をそばだてて辺りの様子をうかがっていた。


 すると、何処かで叫び声のようなものを耳にした。


「何かあったみたいだ」


 僕がそう告げると同じように耳をそばだてていたテオ達も頷いた。


 大通りから路地裏に入り、声がした方へと足を進めると、そこには男に引き摺られるように連れて行かれる少年の姿があった。


 僕達にはすぐにその少年が獣人だと気が付いた。


 どうやら隙を見て逃げ出したものの、男に追いつかれて捕まってしまったのだろう。


「おい! その手を離せ!」


 テオが叫ぶと振り向いた男は「チッ」と舌打ちをした。


「何だ、お前ら? こいつは俺の商品だ。余計な事をせずにさっさと消えろ!」


 そう言うなり胸元からナイフを取り出すと少年の首に押し当てた。


「ほら、さっさと行かないとこいつの喉を掻っ切るぞ! 死体でも獣人を欲しいと言う奴はいくらでもいるんでね」


 男はそう言うとナイフの切っ先を更に少年に押し当てた。


 ナイフの先が少年の喉に食い込み、ツーッと一筋の血が流れ出る。


 男は少年を傷付ける事に何の躊躇いも持っていなかった。


 少年を盾に取られて僕達は身動きが取れなくなってしまった。


 どうにかして男の気を反らせないと…。


 僕は幻影魔法を使って男の目の前に僕の姿を投影させた。


「何だ、お前! いつの間に!」


 男が驚いて怯んだ瞬間、テオは狼の姿に変身しながら男の腕に噛み付いた。


 エリクは男の腕から少年を奪い取ると、すぐに男から距離を取る。


 テオに噛み付かれた男はそのままテオに押し倒され、悲鳴を上げる。


「止めてくれ! 腕が、腕が千切れる!」


 それでもテオは男から離れようとしない。


 少年を僕に預けたエリクはテオから男を引き剥がすと、後ろ手に男を縛り上げた。


 テオは人間の姿に戻ると口元の血を手の甲でグイと拭った。


「ファビアン樣がそれぞれの町の奴隷商を摘発するために騎士団を派遣しているはずだ。その男も騎士団に渡せばいいだろう」


 そこへ騒ぎを聞きつけて現れた騎士団にテオは書状を見せていた。


「ファビアン樣から奴隷商の摘発を要請されている。この男は任せた」


 男は腕の傷を治療される事もなく、騎士団に引っ立てられていく。


 僕は少年の喉にヒールをかけて、血の付いた服も綺麗にしてやった。


「…あの、…ありがとう」


 助かったのに少年はまだ少し震えていた。


 まだ恐怖から抜け出せないのか、テオが狼になった事を怖がっているのかはわからない。


「あの男の店は何処だ? 他にも捕まっている獣人はいるのか?」


 テオに問われた少年はハッとして僕に訴えた。


「他にも獣人がいるんです。皆を助けてあげてください」 


 僕達は騎士団と共に少年の後を付いて行った。


 さして遠くない場所にその店はあった。


 店は男が一人で切り盛りしていたようだ。


 その為、ほんの一瞬の隙を付いて逃げ出したのだと言う。


 店に入るとカウンターがあり、その横に奥に通じる入り口にカーテンがかかっていた。


 そこから奥へと入って行くと、檻が置かれた部屋が現れた。


 ここに閉じ込められている獣人も、殆どが痩せていて元気がなかった。


「ったく! 自分はブクブクと太っているのに、獣人にはろくに食事も与えないなんて! あの男にも食事抜きの罰を与えてやりたいよ」


 エリクが文句を言いながら檻を開けて中にいる獣人達を開放していく。


 僕はここにいる獣人達にヒールをかけてあげた。


 全快とまではいかないけれど、自分で動けるくらいには回復出来たようだ。


 ここの獣人達も一旦治療院に保護されて、元の場所なり新たな居場所へと移って行くのだろう。


 ふと気付くと最初に助けた少年が僕をじっと見つめている。


「あの…。他にも助けて欲しい子がいるんだ」


 少年によると小さな籠に閉じ込められた獣を連れた男が、この店に立ち寄ったのだと言う。


 ここの奴隷商と二人でその獣を眺めてニヤニヤしていたそうだ。


 ここでもやはり、『王女に献上』と言っていたらしい。


 まさか、王都で取り逃がした奴隷商だろうか?


「あいつかもしれないな。すぐに追いかけよう」 


 僕達は後始末を騎士団に任せると、次の町へと向かった。

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