59奴隷商の行方
「ランベール樣、大丈夫ですか?」
腕に傷を負ったランベール樣の元に駆けつけると、ランベール樣は自らの魔法で治癒と服の修復を行っていた。
「大丈夫。大した傷じゃなかったからな。あの奴隷商も私が魔法を使える事を知っている筈だから、端から私を殺すつもりはなかったのだろう。ちょっとした意趣返し程度だな」
確かに奴隷商はリリアーナ様の名前を上げていたので、彼なりにランベール様に対して思う所があったのだろう。
僕達をここに閉じ込めたのだって、あわよくば程度の事に違いない。
「それにしても私達の後に続いて入ってくる筈だった連中はどうしたんだ?」
ランベール樣は柵をどうにかして持ち上げようとしているが、びくともしないようだ。
柵、というよりはこの場所事態が大きな檻のようだ。
その時、焦げた匂いが漂う中に、またもや兄さん達の匂いを嗅いだような気がした。
そうだ!
兄さん達を探さないと!
この場所には処分しようと思っていた獣人がいると、言っていた。
まさか、兄さん達も衰弱しているのだろうか。
僕は檻の中を一つ一つ確認して回った。
半分近くは空の檻だが、中に閉じ込められている獣人はぐったりとして、僕が近付いても声をあげる事すら出来ないようだ。
とりあえず、この状態をどうにかしてあげないと…。
一人ずつヒールをかけて回るよりは、この部屋の中全体にヒールをかけることが出来ないかな?
僕はこの部屋の中に広がるようなイメージでヒールをかけてみる。
すると、息も絶え絶えだった人の呼吸が穏やかになり、座り込んでいた人も立ち上がって檻の柵に近付けるようになっていた。
兄さん達は何処だ?
残りの檻の中を確認するが、何処にも兄さん達の姿はなかった。
しかし、一つの檻の前で僕は足を止めた。
この檻の中から兄さん達の匂いがするのに、中はもぬけの殻だった。
「どうして!? どうして兄さん達がいないんだ!」
檻の柵に手をかけて叫ぶ僕に、おずおずとした声が聞こえた。
「…そこにいたのはあなたの兄弟なの?」
声をした方に目をやると、向かいの檻の中にいる獣人が僕を見ていた。
「この檻の中にいた獣人はどうしたんですか? 何処に行ったんですか?」
僕に呼びかけてきた獣人の檻の前に行くと、その獣人の女の人は気の毒そうな顔をした。
「そこにいた二匹の狐の子は人間の姿になれないような首輪を着けられていたわ。あいつはここを逃げ出すと決めると真っ先に二匹を連れ出したの。きっと愛玩動物として高く売り飛ばすつもりなのよ」
その女の人の言葉に僕は愕然とした。
人間の姿になれない首輪って…。
それじゃ兄さん達はその首輪を外さない限り、ずっと狐の姿のままと言う事か。
するとそこへドヤドヤと人が押し寄せてくる足音が聞こえてきた。
「ランベール樣、ご無事ですか?」
どうやらようやく騎士達が店内に入って来たようだ。
奴隷商は無事に捕まえる事が出来たのだろうか?
「ランベール樣、どうしてそんな所に? 奴隷商はどちらですか?」
「何だと! 奴隷商は私達をここに閉じ込めると何処かへ消えてしまった。店から外へ出たんじゃないのか? 大体、どうしてお前達はすぐに店に入って来なかったんだ?」
ランベール樣の問い掛けに騎士の一人が報告した。
「我々もすぐに店に入ろうとしたのですが、どうやっても扉が開かなかったのです。扉を叩いても何の反応もしなかったのです。そのうちに焦げ臭い匂いがしてきて再度扉を開けようと試みていると、いきなり何事もなかったかのように扉が開いたのです」
何か罠が仕掛けられているかもと、慎重に中に進んでようやくこの部屋に辿り着いたらしい。
「何処かにスイッチがないか? この柵が降りてくる時にカチッという音がしたような気がしたが…」
ランベール樣の言葉を受けて騎士達が柵の周りを調べると、壁の模様に紛れるように蓋があり、そこを開くとスイッチが出てきた。
騎士がそれを押すとガラガラと音を立てて柵が上に上がる。
「助かった。それで奴隷商はどうした。無事に拘束出来たか?」
ランベール樣が問うと騎士達はポカンとした顔になる。
「いいえ。私達は奴隷商の姿を見ていません。奴隷商はいなかったのではないんですか?」
裏口に回った騎士達も同じように店の中に入れず、表口の騎士達と同じくらいに店内に入ることが出来たようだ。
「店の何処かに潜んでいる可能性がある。徹底的に調べろ!」
ランベール樣の命で騎士達が店内を探し回るが、何処にも奴隷商の姿がなかった。
「ランベール樣、こちらに魔法陣のような物が!」
一人の騎士が別の部屋の中で魔法陣を見つけたようだ。
ランベール樣と僕が駆けつけると、確かに薄っすらと魔法陣が床に書かれているようだ。
ランベール樣がしゃがみこんで魔法陣に魔力を流すが、何の反応もしなかった。
「あの奴隷商でしか動かせないと言う事か…」
せっかく兄さん達を見つける事が出来ると思ったのに…。
僕はがっくりとその場に膝をついた。




