57王宮の騎士団
商会を出て大通りから下町の細い道へと入ると、やがて最初に訪れたレジスタンスのアジトが見えてきた。
テオが手をかざして魔力を流すと扉の鍵がカチャリと外れた音がした。
しばらく誰も訪れていないらしく、寒々とした空気が流れている。
灯りを点けるとテーブルの上に手紙が置いてあるのが目に入った。
テオが手紙を取り上げると封蝋に王家の紋章が押してあった。
「お忙しいはずなのにわざわざ手紙を届けてくださったらしいな」
隣の部屋にある転移陣はファビアン樣しか使えないという話だったから、ファビアン樣自ら足を運ばれたのだろう。
テオが丁寧に封蝋を剥がして手紙を出して目を通し始めた。
「なになに…。奴隷商の店を摘発するので、参加出来るならば来て欲しい、か。
日にちは…って今日じゃないか! 時間は… まだ間に合うな!」
テオは素早く手紙を封筒にしまうと、上着の内ポケットに押し込んだ。
「ランベール様が指揮を取って奴隷商の店を摘発するそうだ。急いで王宮の騎士団詰め所に向かうぞ!」
そう言うなり僕とエリクの体を押してアジトの外へと押しやる。
急な展開に思考が追いつかない僕達と一緒に外に出ると扉を施錠して王宮に向かって歩き出した。
騎士団詰め所に向かうのにこんな普段着でいいのかと思ったが、僕自身鎧兜なんて持っていないので黙ってテオ達の後を付いて歩く。
ファビアン樣に連れられて王宮には行ったが、転移陣を使っての移動なのでこうして王宮を外から見るのは初めてだ。
テオ達は王宮の端にある門の方に向かっているようだ。
正門に比べると少し小さい門ではあったが、それでも馬車が通れるくらいの広さがある。
門番が近付いてきた僕達に警戒して槍を突き付けてくる。
「何者だ? ここへは何の用で来た?」
僕はいきなり槍を突き付けられてギョッとしたけれど、テオとエリクは平然とした顔付きのままだ。
「ランベール様に呼ばれて来ました。テオドールと言えばご存知だと思うのですが?」
それを聞いた門番はサッと僕達に突き付けていた槍を下ろした。
「ああ。ランベール樣から聞いている。案内してくるから後は頼んだぞ」
門番の一人が若い方に後を任せて僕達を先導してくれた。
彼の後について歩いて行くと、やがて騎士団の詰め所が見えてきた。
詰め所の入り口に立っている門番に僕達を引き渡すと、その門番は急ぎ足で元の配置に戻って行った。
詰め所の中に通されて長い廊下を進むと、とある部屋の前に到着した。
「ランベール樣。テオドール達が到着しました」
そこには貴族服ではなく、下町の庶民が身につけるような質素な服を着たランベール樣が座っていた。
「…ランベール樣? その格好は?」
目を丸くしている僕達を見てランベール樣は可笑しそうに笑った。
「似合うかい? 下町にある店だからいつもの格好だと目立ってしまうだろう。万が一を考えて簡易鎧を服の下に着けているけどね。君達も用心の為に簡易鎧を着けてくれ」
ランベール樣の合図で僕達にも簡易鎧が渡される。
決して軽くはないそれを身に着けて貰いながら、僕は気が昂るのを抑えられなかった。
奴隷商の店…。
そこには捕らえられている獣人がいるんだろうか?
それとも取引をした獣人達の記録が残っているんだろうか?
何でもいいから兄さん達の手がかりが欲しい。
僕達以外にも質素な服を身に着けた騎士団員達の準備が整うと、軽く奴隷商の店についての情報が知らされた。
「店には男が一人でいるそうだ。裏口もあるのでテオ達はそちらを見張ってくれ。シリルは私と一緒に店に入るぞ」
店の辺りの地図が示され、それぞれの騎士達の配置が決められた。
僕とランベール樣は客を装って店に入ると聞かされる。
僕達とは別に騎士団もすぐに駆けつけられるように待機するらしい。
打ち合わせが終わると僕達は下町に向けて馬車に乗って移動する。
目立たない馬車に揺られ、僕ははやる気持ちを抑えられなかった。
どうか、兄さん達に会えますように…。




