56 再び商会へ
目を覚ました僕はしばらく自分が何処にいるのかわからなかった。
顔を上げると何やら柔らかい物にぶつかった。
ん? 何だ、これ?
すると、ヒョイと首根っこを掴まれて持ち上げられたと思うと、目の前にエリクの顔があった。
「シリル~、ジャンヌの胸を触るなんていい度胸をしているな」
エリクの地を這うような声に今触ったのがジャンヌさんの胸で、僕自身は子狐の姿になっている事を理解した。
「エリクったら! シリルは私に顔がぶつかっただけよ! ちゃんと下へ下ろしてあげて!」
ジャンヌさんに怒られてエリクは渋々と僕をソファーの上に下ろした。
僕は人間の姿に戻るとジャンヌさんに謝罪した。
「すみません、ジャンヌさん。すっかり膝の上で寝てしまったみたいです」
ジャンヌさんに泣きついた後でそのまま寝てしまったとは…。
エリクの怒りを買っても仕方ないよね。
「気にしないでいいのよ。あれくらいで文句を言うエリクが悪いんだから」
ジャンヌさんにピシャリと言われてエリクは少し口を尖らせている。
「シリルが寝ている間にエリクとも話したんだが、とりあえず商会長の所に行ってみようか。何か手がかりがあるかもしれない」
テオに言われて僕は一も二も無く同意した。
何でもいいから家族に関する情報が欲しい。
僕はまたテオとエリクと伴って前回訪れた商会長の所へと足を運んだ。
商会に着くとアリスさんが受付に座っていたが、僕達を見て他の人に受付を任せて出て行った。
しばらくして戻って来たアリスさんは僕達の所にやってきた。
「商会長がお会いになるそうですのでこちらへどうぞ」
アリスさんに連れられて前回と同じく商会長がいる部屋の前に立つ。
「商会長。テオドール樣方をお連れしました」
アリスさんが扉を開けて僕達を部屋の中へと通してくれた。
商会長は僕達をまたソファーへと座らせると、その向かいに腰を下ろした。
「その顔を見ると、シリルは家族に会えなかったみたいだな」
獣人の里を探しに行ったはずの僕が、こうやってまた商会長と対面するなんて事態を見れば容易に察せられる。
「ご覧のとおりだよ。どうやらシリルの兄達はハンターに攫われたみたいなんだ。ハンターもしくは売人の情報があれば教えてほしいんだが、何か掴んでいないか?」
商会長は少し声をひそめると王宮の騎士団の動きについて教えてくれた。
「まだ正式な話は聞いていないんだが、どうやら売人のアジトらしき場所を掴んだらしい。ファビアン様は動けないのでランベール様が指揮を取って摘発をするそうだ。ランベール様に言えば同行させてもらえるんじゃないのか?」
売人のアジト?
もしかしたらそこに行けば兄さん達と会えるかもしれない。
僕は期待に満ちた目で商会長の次の言葉を待った。
「ランベール様が指揮を取られるって? 僕の所にはそんな情報はまだ来ていないんだけどな…」
テオが訝しげに首をひねっている。
ファビアン樣とは親しいようだったけれど、ランベール様とはあまり交流はないのだろうか?
「そこにいるシリルが先日の事に協力したのならば、そのうち何かしらの連絡があるんじゃないのか? 流石に知らん顔はしないと思うけどな」
商会長の言うとおりならば、直にテオの所に王宮から連絡が入るのだろうか?
「まあ、確かにあの転移陣を使えるのはファビアン樣だけだからな。ファビアン樣が動けない以上、ランベール様は別の方法でこちらと連絡を取るつもりなのかも知れないな」
テオが少し納得したように頷いている。
「商会長、ありがとう。僕達は一度アジトに行ってみるよ。あれからまだアジトへは顔を出していないから、向こうも僕達を待っているのかもしれないからな」
僕達は商会長に別れを告げて、一旦下町のアジトへ向かう事にした。




