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54 王都に帰還

 王都に戻るという明確な目標があるので、帰りは最短距離で進む事になった。


 行きは川沿いに沿って進んでいたので、蛇行している箇所もあったが、王都に戻るだけなので進みやすい。


 狐と狼の姿で進むので森の中限定ではあるが、行きに比べればなんという事もない。


 時折休憩を挟みつつ僕達は森の中を駆け抜けていった。


 王都に続く街道に出る前に人型になった僕達は、王都を目指してひたすらに歩いた。


 日も暮れて夜になり始めた頃、ようやく王都に辿り着いたが、既に王都に入る門は閉ざされていた。


「あー、チクショー! 間に合わなかったか!」


 がっくりとしたエリクが項垂れて、かなり落ち込んでいる。


 どうやらジャンヌさんに会いたい一心で駆けて来たようだ。


 下手に声をかけると噛みつかれそうなので、息も絶え絶えで声も出せないふりをする。


「仕方がない。そこの森の中で野宿でもするか。行くぞ、シリル」


 エリクの後について森の中に入ると、少し開けた場所に出た。


 どうやら門限に間に合わなかった旅人達が過ごす為の野営地のようだ。


 枯れ木を集めて焚き火を起こし、エリクと向かい合って腰を下ろす。


 膝を抱えてパチパチと爆ぜる火を見つめているうちに、不意に涙が溢れてきた。


 僕達が住んでいた里が見つかったのに、肝心の家族がいないなんて…


 もう泣かないつもりだったのに、どうしてこんなに涙が出るんだろう。


 溢れる涙をゴシゴシと袖口で拭っていると、エリクが優しく話しかけてきた。


「シリル。泣きたい時は思いっきり泣いた方がいいぞ。それに今ここには僕とシリルの二人しかいないんだから、遠慮せずに泣いておけ」


 王都に入ったら大勢の人に囲まれるのはわかっているから、今のうちに泣いておけと言うのだろう。


 僕は抱えた膝に顔を埋めるようにして、はらはらと涙を零しながら、いつの間にか眠っていた。



 鳥のさえずりにパチっと目を開けると、敷物の上に横になっているのに気付いた。


 ガバっと身を起こすと、ハラリと掛けられていた布が足元に落ちる。


「やぁ、目が覚めたか?」


 エリクが焚き火の始末をしながら、僕に話しかけてきた。


 もしかして寝ないで不寝番をしていてくれたんだろうか?


「ごめん、エリク。僕寝ちゃってた?」


 ワタワタしている僕を見てエリクがプッと吹き出す。


「気にするな。お前はまだまだ子供で親に甘えていて当たり前なんだ。大人である僕達をもっと頼っていいんだよ」


 エリクは火の始末を終えると立ち上がって大きく伸びをした。


「さて、そろそろ門も開放される頃だな。さっさと王都に入ってジャンヌの手料理を食べようぜ」


 門を入るとエリクは「こっちだ」と言って僕の手を引っ張って歩き出した。


 どうやらエリクの家とは違う場所に行くみたいだから、おそらくジャンヌさんの実家に向かうのだろう。


 やがてとある家の前に着くと、エリクは呼び鈴を鳴らした。


「はーい」


 というジャンヌさんの声が聞こえてすぐに扉が開いた。


「ジャンヌ! 会いたかったよ~」 


 扉の影に現れたジャンヌさんに抱きつこうとしたエリクの前にぬっと強面の男性が立ちはだかる。


 両手を広げたままピシッと固まるエリクにその男性が不機嫌そうに口を尖らせた。


「なんだ? もう帰って来たのか? あとひと月くらい出掛けていてもいいんだぞ」


 どうやらジャンヌさんのお父さんらしいけど、いくらなんでも新婚さんにそれはないよね。


「お義父さん、いくらなんでもそれはないですよ。ジャンヌ、迎えに来たよ。早く帰ろう」


 仏頂面をするジャンヌさんのお父さんを尻目にジャンヌさんは手早く帰り支度をして出てきた。


 どうやらジャンヌさんもエリクの帰りを待ちわびていたらしい。


 まあ、わからないでもないけどね。


 僕は目の前でいちゃつきながら歩くエリクとジャンヌさんの後に続いてエリクの家を目指した。


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