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53 決意

 ひとしきり泣いた後で、僕はようやく落ち着きを取り戻す事が出来た。


 泣き止んだ僕の肩をエリクが優しく叩く。


「シリル、落ち着いたか? とりあえずこれからどうするのか話さないか?」


 エリクに言われて僕はノロノロと立ち上がると、すぐ近くにある扉を開けて部屋の中に入った。


 そこはリビングで、キッチンとも繋がっていて、家族でよく過ごしていた場所だ。


 あの日もいつものようにここで食事をして、いつもと変わらない一日を過ごしていたのに…


 またもや涙が滲みそうになり、僕はブルっと頭を振って気持ちを切り替えた。


 ダイニングテーブルを挟んで僕とエリクは椅子に腰を下ろした。


 お茶でも入れようかと、腰を浮かしかけるとエリクに「気を使うな」と苦笑されたのでまた座りなおす。


 エリクはざっと部屋の中を見回して、不思議そうに首を傾げた。


「君の兄さん達が攫われたらしいけど、この部屋はそんなに争った跡は見られないな。抵抗する間もなく連れ去られたって事か?」


 エリクに問われて僕はあの時の事を思い返す。


 兄さん達はこの部屋に残っていたはずだけど、僕が玄関から飛び出した後で部屋から出てしまったのかもしれない。


 たとえ人間の姿になっていたとしても子供の姿では大人に対抗出来ないだろう。


 それにここに住んでいるのは獣人だけだから、子供の姿をしていてもやはり連れ去られたに違いない。


「多分そうでしょう。最初から入り口の襲撃は囮で、そこに大人を惹き付けて結界を破って入り込んで来たんでしょう。結界が破られるはずがないと思い込んでいたでしょうからね」


 戦えない獣人もいたはずだが、その人達は家に残っていたはずだけど、皆無事だったのだろうか?


 酷い有り様だったと言っていたから、何かしらの被害はあったのだろう。


「それで? シリルはこれからどうするんだ?」


 改めてエリクに問われて、僕はどうしようかと考えた。


 この獣人の里にさえ帰れれば、今までどおり、家族と暮らせると思っていたのに、まさか誰もいないとは思わなかった。


 このままこの家で一人で皆の帰りを待つ?


 いつ帰るともわからないのに、一日千秋の思いでこの家で待っているなんてとても耐えられそうにない。


「エリク。僕はやっぱり家族を探しに行きたい。このままここで待っているなんて耐えられないよ」


 僕が訴えるとエリクは満足そうな顔をしてみせる。


「シリルならばそう言うと思っていたよ。だけど探すあてはあるのかい?」


 エリクに聞かれて僕は答えに窮した。


 この里に戻って来るのには川沿いに沿って来れば良かったけれど、今度はそうはいかない。


 答えに詰まった僕にエリクが一つの提案をしてきた。


「とりあえず王都に戻らないか? あそこでなら売人の情報が入ると思うんだ。ファビアン様も何かしら手助けしてくれるんじゃないかと思うんだよね」


 そういえば下町に移動してそのままファビアン様には何も告げずに出発したんだっけ。


 王宮のゴタゴタを片付けた報酬代わりと言っては何だけど、何かしらの情報が得られるのであればそれに越した事はない。


 出発する前に一応家の中をチェックして回る事にした。


 何かしらの痕跡がないかと思ったが、連れ去った人間達や、父さん達の行き先の手がかりもなくがっかりするしかなかった。


 あちこち見て回る度に、色々な思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。


 まだ二月も経っていないのに随分と昔のように感じてしまう。


 家を出る前にまた子供の姿になってエリクに抱き上げられる。


 青年の姿の事を根掘り葉掘り聞かれるのが煩わしいからだ。


 エリクに抱っこされるのはちょっと不本意だけどね。


 見つけた鍵で玄関を施錠すると、先程の狐の夫婦の家を訪ねて鍵を託した。


「そう。やっぱり家族を探しに行くのね。気を付けて行ってらっしゃい」


 狐の夫婦に別れを告げて僕達は獣人の里を後にした。


 ここがゴールじゃなかったなんて…


 絶対にみんなを見つけてやる!


 僕は決意を固くするとエリクの腕からスルリと降りると狐の姿になって走り出した。

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