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49 長老

 新たな情報を得られなくてがっかりしていると、ミリアンが父親に詰め寄った。


「父さん。この人達は私が灰色熊に襲われているところを助けてくれたのよ。そのお礼の為にももっと有益な情報はないの?」


 ミリアンの言葉は嬉しかったが、その話をするとなると、ミリアンが灰色熊に襲われて怪我をしていたということを告げなければいけなくなるのだが、父親に知られても大丈夫なのだろうか?


 案の定、ミリアンの父親はミリアンが灰色熊に襲われた事に反応を示した。


「なんだって! 灰色熊に襲われた? ミリアン! そんな大事な話をどうして最初に言わないんだ!」


 ミリアンの父親は凄い剣幕でミリアンに詰め寄るが、僕達に対して敵意を露わにしていたから仕方がない部分はあると思う。


「だって、父さんがこの人達に警戒するから言えなかったんだもの」


 ミリアンの反論にミリアンの父親は少しバツが悪そうに顔をしかめる。


「…確かにそうだな。それで… 灰色熊に襲われたというが怪我は無かったのか?」


 ミリアンの父親は娘の体に目を走らせ、怪我の有無を確かめる。


「爪で何箇所かやられたわ。倒れて動けなくなっていたところをシリルさんとエリクさんに助けて貰ったの。シリルさんには怪我まで治して貰ったのよ。だからお願い。何かもっとお礼がしたいの」


 ミリアンにねだられてミリアンの父親はしばらく考えていたが、やがてふうっとため息をついた。


「大事な娘の命を助けてもらったんだから、それ相応のお礼をしないといけないな。この里の長老に話を聞きに行こう。但し、有力な情報があるかどうかは定かではないが、それでも構わないか?」


 ミリアンの父親の申し出に僕は一も二も無く頷いた。


「はい、ありがとうございます」


 ミリアンの父親はミリアンに店番を任せると、僕達に付いてくるように言って店を出て先を歩き出した。


 僕達はミリアンに別れを告げて、ミリアンの父親の後を追いかけていく。


 ミリアンの父親は里の奥へと足を進めてやがて一軒の家の前で立ち止まると、くるりと僕らに向き直った。


「いいか? とりあえず君達は黙って私の後ろにいなさい。余計な口をたたかないように… いいね?」


 ミリアンの父親に念を押されて僕達は黙って頷いた。


 ミリアンが扉の前に立って呼び鈴を鳴らすと、「はーい」と言う声と共に扉が小さく開いた。


 僕達からはどんな人が扉の影にいるのかはまったく見えないが、女性の声だったのは間違いない。


「長老にお会いしたいのだが、取り次いでもらえるかな?」


 ミリアンの父親が告げると一旦扉が閉じられ。しばらく待たされた後で再び扉が開いた。


 ミリアンの父親に合図されて、僕達も彼に続いて家の中へと足を踏み入れる。


 中にいた女性は僕達の姿を見て一瞬顔をこわばらせたが、すぐに笑顔を作ると先に立って歩き出した。


 ミリアンの父親と共に彼女の後をついて行くと、とある扉の前で立ち止まるとその扉を開けた、


 そこはサンルームのような造りになっていて、暖かな日差しの降り注ぐ窓際に一人の老人が椅子に座っていた。


 真っ白な長い髪に、同じく真っ白な長いあごひげを蓄えた顔は、まるで仙人のような風貌だった。


「おじい様。お客様をお連れしたわ。…それでは私はこれで…」


 彼女は僕達を部屋の中に招き入れると、扉を閉めて出て行った。


 僕達が老人に近付くと、老人は僕達を見ると目を細めた。


「誰かと思えばロドルフじゃないか。お前が儂に会いに来るなんて珍しいのう」


 老人に話しかけられてロドルフさんは恐縮したように頭を下げる。


「ご無沙汰しております。今日はお話を聞きたくて参りました」


 ロドルフさんの態度を見ると、どうやら頭の上がらない相手のようだ。


「話と言うのはそこにいる狐と狼の獣人に関する事かな?」


 老人は僕達を見据えると僕に向かって指を指した。


「その若さで五本の尻尾を持つ狐か。なかなかの魔法の使い手のようじゃな」


 獣の姿になってもいないのにピタリと言い当てられた。


 このおじいさんは一体何者なんだ?


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