47 救助
どんどんと森の奥へと走っていくと、徐々に川のせせらぎの音が近づいてきた。
森の木々を抜けていくとやがて川岸へと辿り着く。
思っていたよりも川幅が広くて流れが速い。
この流れの速さならば、子狐の姿の僕が流されてしまうのも頷ける。
「なるほど。これだけの流れがあるのなら、シリルが隣国まで流されるのも仕方がないな。おまけにこの辺りは岩場もないから引っ掛からなかったんだろう」
エリクと共に川の側まで近付いてみたが、割に深い川のようだ。
底の方に水草が生えているのが見えるが、深さがあるので水草にすら引っ掛からなかったようだ。
ついでだとばかりに川の流れに顔を突っ込んで喉の乾きを潤す。
僕が川に落ちた場所は高い崖の上だったので、まだまだ奥へと進まなければならないようだ。
「シリルが崖から落ちたのならば、まだ上流に行かなければいけないようだな。もう出発していいか?」
エリクに問われて僕は狐の姿の体で大きく伸びをする。
「いいよ、さあ、行こう」
僕達は今度は川沿いに沿って走り出した。
この川に沿って行けば必ず僕が住んでいた獣人の里に辿り着けるはずだ。
走りながら僕は胸の高鳴りを抑える事が出来なかった。
後どのくらいかかるのかはわからないが、父さんと母さん、そして兄さん達に会えるのは間違いない。
自然と僕の足が速くなるが、それに伴ってエリクとの距離がどんどんと開いていった。
「おい! 焦る気持ちはわかるが飛ばし過ぎだ! もうちょっと抑えろ!」
後ろからエリクに怒鳴られて僕は少しペースを落として走り続ける。
更に走り続けた所で後ろのエリクから「止まれ!」と声をかけられた。
何かあったのかと思い渋々足を止めると、追いついてきたエリクが人型になって苦笑した。
「一旦飯にしようぜ。シリルもお腹が空いただろう?」
エリクに言われてようやく僕はお腹が空いている事を実感した。
僕も人型に戻りエリクと一緒にジャンヌさんが持たせてくれた食事を取る。
お腹も満たされてそろそろ出発しようかという頃になって何処かで声が聞こえたような気がした。
「ねぇ、エリク。今何か聞こえなかった?」
エリクに問いかけながら耳をそばだてると、やはり悲鳴のようなものが聞こえた。
「あまり面倒に関わりたくはないんだが、聞こえてしまった以上は知らん顔出来ないな。ただし、手に負えないと判断したらすぐに引くぞ」
エリクの言葉に気を引き締めると僕達は獣の姿になって声の聞こえた方へと走っていく。
川から離れて森の奥へと走っていくと、大きな灰色熊に襲われている15~6歳位の女の子の姿が見えた。
女の子の体のあちこちには灰色熊から受けたと見られる傷がいくつもある。
「ウインドカッター!」
灰色熊に目掛けて風魔法を繰り出すと、灰色熊の体に傷を付けることに成功した。
攻撃を受けた灰色熊が女の子から僕達へと目標を定める。
そこへすかさずエリクがファイアボールを灰色熊に命中させる。
ファイアボールが当たった所の毛が燃えて灰色熊はその火を消すのに躍起になっている。
ようやく消し止めた所へまた別のファイアボールをお見舞いされて、灰色熊は一目散に逃げ出した。
灰色熊を追い払って僕とエリクが女の子の元へ近付くと、女の子は僕達を見て更に体を震わせた。
「…い、いや… お願い… 食べないで…」
何故そんなに怯えているのかと訝しげに思っていると、女の子の頭の上にウサギの耳が見えた。
どうやら女の子はウサギの獣人のようだ。
そして僕とエリクは狐と狼の姿のままなので、僕達に食べられると思ったようだ。
僕達は慌てて人型になると彼女を安心させるように声をかけた。
「大丈夫。僕達は君を食べたりしないよ。それより怪我は大丈夫かい」
そう言いながらヒールをかけて彼女の怪我を治してやると、彼女は驚いたように自分の体を見回した。
「嘘。怪我が治ってる。…あの、…ありがとうございます…」
僕達に食べられると誤解したことを申し訳なく思っているのか、彼女は少し顔を赤くしている。
「いいよ。熊の後に狼と狐が現れたんじゃ、そう思っても無理はないさ。ところで君はこの辺りの人?」
彼女が獣人ならば、この近くに獣人の里があるに違いない。
「はい。この先にある獣人の里に住んでいます。お礼をしたいので一緒に来ていただけますか?」
彼女が案内してくれるのならば少しは詳しい話が聞けるかもしれない。
もしかしたら僕が住んでいた所かも…。
そんな淡い期待を抱きながら僕達は彼女に付いて行った。




