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42 商会長との対面

 テオ達の後について下町の通りを抜けて大通りへと足を進める。


 王宮での出来事など知らないままでいつもの日常がそこにはあった。


 テオ達はやがて一軒の大きな商会の建物の中へと入って行った。


 僕もテオ達の後に続いてその商会に足を踏み入れると、入ってすぐのカウンターに若い女性が座っていた。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 (この人も獣人だ)


 にこやかに微笑む女性が獣人であることはすぐに分かったし、彼女にしても僕達が獣人なのは百も承知だろう。


「商会長に会いたいんだが、取り次いでもらえるか? テオドールが来たと、言って貰えればすぐにわかると思うんだが…」


 テオの言葉に受付の女性は少し眉をひそめた。


 どうやらアポ無しで会いに来たようだ。


 普通ならば断られる場面だろうが、お互いが獣人だとわかっているから、訪問の重要性を理解しているらしく、女性はにっこりと微笑んだ。


「商会長に確認して参りますので少々お待ちください」


 そう僕達に告げると別の女性に受付を任せて彼女は奥の扉から出て行った。


 しばらくして戻って来た彼女はカウンター脇の通路から僕達の所にやってきた。


「お待たせいたしました。ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」


 僕達を先導して先程の奥の扉へと向かう彼女の後をついて行った。


 扉を抜けると廊下があり、少し先の扉の前で止まると彼女はその扉をノックした。


「失礼いたします。テオ様をお連れしました」


 彼女はそう声をかけると扉を開けて、僕達に部屋に入るように促した。


 テオ、エリク、僕の順番で部屋の中に入ると、奥の重厚な執務机に向かっている一人の男性が目に入った。


 もしかしたら、とは思っていたが、やはりこの商会長も獣人だった。


「アリス。もう戻っていいぞ。しばらくこの部屋には誰も近付けないでくれ」


 商会長の呼びかけにアリスさんは軽く頷くと扉を締めて出て行った。


 アリスさんの足音が遠ざかっていき、扉の開閉音が聞こえた事を確認すると、商会長は僕達を来客用のソファーへと案内する。


 三人がけのソファーに先にテオが腰掛けて隣にエリクが座るかと思ったが、エリクは反対の端に腰掛けた。


 そうすると、自然に僕が真ん中に座るようになる。


「…それで、どうしたんだ? 王宮の件は既に片付いたんだろう? もしかしてそこにいる新入りの獣人についてか?」


 商会長も僕達の向かい側に座りながら、テオ達に訪問の用件を尋ねてくる。


「話が早くて助かるよ。彼はシリルと言って昨日エリクが間違えて連れて来たんだ。だけどその後に訪れたファビアン様と一緒に王宮に向かってファビアン樣達に協力したらしい。だからファビアン樣からシリルの事を手伝ってやって欲しいとお願いされたんだ」


 テオ達がここへ来たのはファビアン樣から頼まれたからのようだ。


 テオの説明を聞いた商会長は興味深そうに僕を見つめた。


「へぇ、ファビアン樣から、ねぇ。一体どんな協力をしたのか気にはなるが、余計な関わりは持たないほうが良さそうだ。…それで、どんな手伝いをすればいいんだ?」


 商会長はまっすぐに僕を見つめてくるし、テオは僕に説明するようにと、肘で小突いてくる。


 確かに僕自身の事だから僕から説明しなければいけないだろう。


「はじめまして、シリルと言います。実は僕は家族とはぐれてしまったんです。それで僕の家族が何処の獣人の里にいるか、知っていたら教えてほしいんです」


 僕の説明に商会長はキョトンとした顔になる。


「家族とはぐれた? 一体何があったんだ?」


 そこで僕は自分が住んでいた獣人の里が襲われて囮になって逃げている時に崖から落ちて川に流された事を話した。


「…なるほど。川に流されて隣のマルモンテル王国まで行ってしまったのか。だけど、シリル位の年ならば自分が住んでいた里がどの辺りにあったのか、知っているんじゃないのか?」


 商会長が訝しげに僕の姿を見ながら首をかしげる。


 今は青年の姿をしているから、そんなふうに思われるのは当然だろう。


「実は、僕はまだ生まれて一年も経っていないんです。だから本当の姿はこの大きさなんです」


 僕がその場で元の赤ん坊の姿に戻って見せると、商会長は目を見開いた。


「…一年も経っていないのに成人になれるって、シリルは何の獣人なんだ?」


「狐です」 


 そう告げて狐の姿になってみせると、商会長は目をパチクリとさせている。


 隣に座るエリクが僕を抱き上げようとするのを全力で拒否をして、成人の姿に戻る。


 すると商会長は考え込むようにポツリと呟いた。


「この国に狐の獣人が住む里なんてあったかな?」

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