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41 下町へ

 翌朝、目が覚めると何故かベッドの中にいて布団がかけられていた。


 ベッドの上で寝転がっている僕を見つけて侍女達が布団の中に入れてくれたようだ。


 またも他人の手を煩わせてしまったことに頭を抱えつつもベッドに起き上がると、天幕の向こうから声をかけられた。


「シリル樣。お目覚めでございますか? お顔を洗うお湯をお持ちしてもよろしいでしょうか?」


 そんな事を聞かれて僕は慌てた。


 今までは起きたら自分でお風呂場に行って顔を洗っていたのに、ここではお湯の方が僕の所に来るらしい。


「お願いします」と声をかけると天幕が開け放たれ、侍女の一人がお湯の入った桶をベッド脇のテーブルの上に置いた。


 僕はベッドから降りてテーブルの側に腰を下ろして顔を洗った。


 すかさず侍女が僕にタオルを差し出してくる。


 柔らかくてふわふわのタオルで顔の水気を拭うと別の侍女が話しかけてきた。


「朝食までお時間がございますが、お風呂に入られますか? それともクリーン魔法で軽く洗浄いたしましょうか?」


 …お風呂?


 ここでお風呂に入ると言ったら一人では入れないような気がする。


 侍女達にかしずかれてお風呂に入るなんて僕には耐えられないよ。


 自分でやると言っても却下されそうだから、ここは大人しくお願いしておこう。


「クリーン魔法でお願いします」


 そうお願いすると、ベッドから離れた場所に立たされて軽くクリーン魔法をかけられた。


 服のままで寝ていたので少し汗ばんでいたが、すっかり綺麗になりこざっぱりした。


 僕の体が綺麗になり落ち着いた頃を見計らって朝食が部屋に届けられた。


 静かな空間の中、僕がカトラリーを使う音だけが部屋の中に響く。


 そろそろ王宮での滞在は勘弁してほしいな。


 僕にはこんな生活は耐えられないよ。


 食事を終えてしばらくすると、ファビアン樣の使いが来て僕を部屋の外に連れ出した。


 …何処かで騒がしい声が聞こえるけれど何かあったのかな?


 後で知った事だが、国王が退位を表明して王宮の中は大騒ぎだったらしい。


 そんな事はつゆ知らず、僕はファビアン樣のお部屋へと通された。


「やぁ、シリル。良く眠れたかい? 今から下町へ行くから一緒に行こう」


 どうやら昨日の場所に転移するようだ。


 部屋の片隅にある魔法陣に僕とファビアン様とその護衛騎士の三人で立つと、ファビアン様が魔力を流しだした。


 魔法陣が光り、景色が揺らぐ。


 次の瞬間、昨日の小屋の一室に立っていた。


 ファビアン様が先に扉を開けて隣の部屋に移動すると、そこにはテオとエリクの姿があった。


「おはようございます、ファビアン樣。無事に事が終わったようで何よりです」


 どこから情報を得ているのかは分からないが、昨日、側妃と公爵が断罪された事は既に耳に入っているようだ。


「ありがとう。皆の協力のおかげだ。それよりシリルのいた獣人の里の情報は掴めたのか?」


 ファビアン樣の問いかけにはエリクが答えた。


「まだ掴めていません。他の獣人にも当たっているので、何かしら情報は入ってくると思います」


 ファビアン樣は満足そうに頷くと僕に向き直った。


「シリルには情報が集まるまで王宮に居てもらおうかと思っていたが、私には色々とやらなければならない事があるので、シリルの相手をしていられない。それにシリルは王宮は居心地が悪そうだから、下町のほうが滞在しやすいだろう。申し訳ないがこちらに居てもらえるか?」


 ファビアン樣は申し訳無さそうに言うが、僕には願ったり叶ったりだ。


 あのまま王宮にいたらどんどん食事が喉を通らなくなりそうだからね。


「問題ありません。僕の方こそ気を使って頂いてありがとうございます」


 ファビアン樣は軽く頷くとテオとエリクに念を押した。


「それでは私はこれで戻る。シリルの事をよろしく頼むぞ」


 ファビアン樣はそれだけ告げるとまた護衛騎士を連れて隣の部屋に入って行った。


 すぐに扉の隙間から光が漏れてきて、ファビアン樣達が王宮に戻って行った事がわかる。


 ホッとため息をつくとエリクがプッと吹き出した。


「何をそんなにため息をついてるんだよ。よっぽど王宮の居心地が悪かったのか?」


 そんな人聞きの悪い事は言わないでほしい。


「そんな事はありません。むしろ居心地が良すぎて落ち着かないんですよ。侍女の方達に世話を焼かれるなんて、何だか申し訳なくって…」


「確かにな。俺達庶民には王宮での生活は似合わないな。ところで、これから知り合いの獣人の所に話を聞きに行くんだが、シリルも一緒に来るか?」 


 テオの申し出に僕は一も二もなく飛びついた。


 他の獣人達だけに任せておくのは申し訳なかったので、自分でも聞きに行けるのならばそれに越した事はない。


「ぜひ、お願いします」


 僕はテオとエリクと一緒に町の中へと向かった。



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