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35 断罪

 …何処かでいい匂いがする…


 そう言えばお腹が空いたなぁ。


 …ぐうぅぅー。


 ……。


 パッと目を開けると、柔らかい布団の中で横になっている自分に気が付いた。


 自分のお腹の鳴る音で目が覚めるなんて恥ずかしいにも程がある。


 …誰も聞いていないよね。


 恐る恐る起き上がると、テーブルに食事の用意をしていた侍女と目が合った。


 …やっぱり聞かれたよね。


 恥ずかしさで顔が赤くなる僕に侍女は優しく笑いかけてくれた。


「お目覚めですか? お食事のご用意が出来ておりますので、こちらへどうぞ。ファビアン様からはしばらくはこちらのお部屋で過ごしていただくようにと伝言をことづかっております」


 よく見ると先程の部屋とは違う場所に移動させられたようだ。


 部屋を移った事にも気付かないなんてどれだけ熟睡していたんだろうか?


 僕はベッドから降りると侍女が用意してくれた席へと移動する。


 テーブルの上には温かいスープやパンなど美味しそうな料理が並んでいた。


「いただきます」


 …美味しい!


 流石は王宮の料理人だな。


 僕は心ゆくまでこの美味しい料理を堪能していた。


 同じ頃、別の場所で行われている断罪劇の事など知るよしもなかった。



 ******


 王宮の会議室にはぞろぞろと貴族達が集まっていた。


 誰もがこの王宮で役職に就いている者達ばかりである。


 緊急の会議が行われると通達があったのはほんの数時間前の事だった。


 こんな風に緊急の呼び出しがあることなど滅多にない。


 よほどの事態が起こったのだと誰もが想像に難くなかった。


「…もしや、王の身に何か…」


 そんな会話がヒソヒソと囁かれる中、扉が開いて何故か側妃であるリリアーナが父親である公爵と共に姿を現した。


 彼女の姿を認めた途端、ピタリと噂話がなりをひそめる。


 リリアーナはツンとすました顔で父親の隣に腰を下ろした。


 今度は違う話が会議室に集う貴族達の間で交わされるが、リリアーナは知らん顔で受け流している。


 やがて会議の時間が近付いた頃、再び扉が開いて宰相が顔を現した。


 宰相は既に席に着いている皆を見回すと、コホンと咳払いをして皆を黙らせた。


「本日は緊急の呼び出しにも関わらず、お集まりいただき誠にありがとうございます。本来であれば陛下がお出でになるのですが、体調が思わしくなく、代わりに王妃様とお二人の王子様がご出席なされます」


 宰相の言葉に静まり返っていた場内にまたざわめきが広がった。


「王妃様はともかく、二人の王子が出席だと?」


「どちらに王位を継がせるか発表でもするのか?」


 そんな声が囁かれる中、勝ち誇ったようにリリアーナが真っ赤な口を歪めて笑う。


 まるで自分の息子であるランベールが王位を継ぐのを確信しているような笑いだったが、王妃が姿を現した途端、キッと彼女を睨みつけた。


 王妃はその射るような視線の中、平然とした顔でいつもは国王が座る席に腰を下ろす。


 続いて現れた二人の王子は王妃の隣に並んて腰を下ろした。


 リリアーナは自分の息子であるランベールが王妃達と共にいることを苦々しく思っていたが、この場で口にする事はなかった。


 やがて宰相の進行により会議が始められる。


「本日、集まってもらったのは他でもない。ここにいる公爵とその娘であるリリアーナの罪を暴くためだ」


 宰相の言葉と同時にどこからともなく騎士達が現れ、公爵とリリアーナを取り囲む。


「何をする! 儂が一体何をしたと言うのだ!」


「ちょっと! 触らないでよ! あなたみたいな一介の騎士が触っていいような私じゃないのよ! 大体私は何もしてないわよ!」


「証拠も無しに儂達を拘束など出来ないぞ!」


 公爵とリリアーナが騎士達の手から逃れようと必死になっていると、バン!と音を立てて扉が開いた。


 誰もがそちらに視線を走らせると、そこに現れたのは臥せっているはずの国王だった。


 その姿を目にした途端、リリアーナが悲鳴をあげた。


「ヒィッ! …な、なんで! 何でまだ生きてるのよ!」


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