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32 王宮へ

 その後はファビアン様から側妃を断罪する日程についての話があった。


 証拠固めはほぼ完了したようで、次の王宮での会議の時に側妃の罪を暴く予定らしい。


 側妃だけでなく、実家である公爵家についての悪事も同時に暴いてそれに連なる貴族達も一網打尽にするようだ。


 公爵家が一体何をやらかしたのかは知らないけどね。


 大体において利権が絡んだり、金儲けに走ったりと相場は決まっているけどね。


 今この国では獣人達は人間とは別の集落で生活をしているが、ファビアン様はいずれ同じ集落に住めるように改革を勧めていくつもりのようだ。


 口で言うのは簡単だけれど、獣人達がすぐに人間に受け入れられるかどうかはわからない。


「すぐには無理かもしれないけれど、獣人を忌避しない人達もいるんだから、少しずつ改革を勧めていくつもりだ」 


 ファビアン様の決意に満ちた目はキラキラと輝いている。


 理想を口にするだけでなく、それに向かって突き進んでいくファビアン様には人を惹き付ける何かがあるようだ。


 こういうのをカリスマ性って言うのかな。


 テオ達との話し合いを終えてファビアン様は王宮に戻られるようだが、僕もそれに付いていく事になった。


 テオが先立って先程ファビアン様が出てきた部屋のドアを開ける。


 ファビアン様と護衛騎士の後に続いてその部屋に入ると、そこには床に大きな魔法陣が描かれていた。


「…もしかして転移陣ですか?」


 初めて見る本物の魔法陣に僕のテンションは上がりまくりだ。


 前世での小説やアニメなどで「魔法陣がどうたら…」という描写はあったけれど、こうして実際に魔法陣を目にするなんて思わなかった。


「そうだよ。よく知ってるね」


 ファビアン様が意外そうに僕を見てくるが、ここで前世の話をするわけにもいかない。


「父さん達にチラッとそんな話を聞いた事があるんです。これは何処に繋がっているんですか?」


 ファビアン様はそれ以上僕に突っ込んで来ることもなく、淡々と説明してくれる。


「これは王宮の僕の自室に繋がっているんだ。僕の魔法でしか作動しないし、僕の自室も僕の魔法でしか開かないようになっているんだ」


 転移した先でいきなり狙われるような事がないように対処してあるようだ。


 ファビアン様に促されて僕も転移陣の上に立つ。


「ファビアン様。本日はありがとうございました。どうかお気をつけて」


 テオがファビアン様に向かってお辞儀をすると、ファビアン様は軽く手を上げてそれに応える。


「ああ。君達も十分に注意してくれ。まだ奴隷商の動きが抑えられていないからな。こちらの動きを読んで最後にもう一儲けと企んで来るかもしれない」


「はい、気を付けます」


 ファビアン様は軽く頷くと魔法陣の中心に向かって手をかざした。


 徐々に魔法陣が光を帯びてきたかと思うと、急にピカッと眩い光を放った。


 あまりの眩しさに思わず目を閉じると、ふわりとした浮遊感を感じた。


 目を開けた時には、先程の部屋ではなく絢爛豪華な部屋の片隅に立っていた。


 そのいかにも高貴な人物の部屋であるという佇まいにこんな庶民の僕が居ていいものかとちょっと気後れしてしまう。


 そんな僕の気持ちを知らずにファビアン様とその護衛騎士はさっさと魔法陣を降りて部屋の中央にあるソファーへと移動する。


 少し遅れて僕も魔法陣を離れて彼等の後を追った。


 ファビアン様が一人がけのソファーに腰を下ろすと護衛騎士はサッとその後ろに立った。


 僕はどうすべきか少し迷った挙げ句、護衛騎士の隣に立とうとしたら、ファビアン様に止められた。


「シリルはそちらに座ってくれ」


 ファビアン様に指し示されたのはファビアン様の向かいのソファーだった。


 …こんな綺麗なソファーになんて座れないよ。


 断ろうにもそれはそれで問題だと気付いて恐る恐るソファーに腰を下ろす。


 なるべく汚さないようにと浅く腰をかけたらファビアン様に笑われてしまった。


「ハハハッ! 遠慮せずに腰かけたまえ。今お茶を入れさせるよ」


 ファビアン様がテーブルの上にあったベルを鳴らすと扉が開いて使用人らしき人物が顔を出した。


「お呼びでしょうか、ファビアン様」


「お茶を入れてくれ。客人の分も頼むよ」


 ファビアン様の言葉に使用人はすぐに頭を下げて一旦部屋を退出したが、すぐにティーセットを持って現れた。


 ファビアン様と僕の前にカップを置くとすぐに退出していく。


 この世界でこんな風にお茶を飲むなんて初めてだな。


 カップソーサーからカップを取り口元へ運ぶと、お茶のいい香りが鼻をくすぐった。


 しばしお茶を堪能したあとでファビアン様に僕をここに連れてきた理由を聞こうとすると扉がノックされて一人の男性が入ってきた。


「ファビアン、戻ったのか? …おや? お客様かい?」


 その人物を見て僕は驚いた。


 入ってきた人物はファビアン様にそっくりな顔立ちをしている。


 違うのは髪の色だけだった。


 もしかして、第一王子?

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