30 第二王子
この場に現れたのがこの国の第二王子だと知って僕も慌ててお辞儀をする。
どうやら国王は表立って動けないため、第二王子であるファビアン様がテオ達レジスタンスの指揮を取っているようだ。
ファビアン様の後ろを従者らしき男性が一人、付いてきていた。
僕はこの国の王族の事は何も知らないけれど、二人の王子は国王に顔立ちがそっくりなのだそうだ。
従って二人とも母親が違うのに双子のようによく似ているらしい。
ただ違う点は二人ともそれぞれの母親と同じ髪の色をしていると言う。
第一王子のランベール様は真っ赤な髪の色らしいが、今ここにいるファビアン様は青い髪の色をしている。
テオは自分が座っていた席をファビアン様に譲り、自分は真横の席に位置をずらした。
ファビアン様はゆっくりと部屋の中を進み、優雅にその席に腰を下ろす。
その流れるような洗練された動作に僕は思わずため息をつきそうになった。
ファビアン様が腰を下ろしたのを皮切りに僕達も席に付く。
まだ仲間になるとも何とも言っていないのにこの場に僕がいてもいいのだろうか?
そうは思ったが今更この場を出て行くわけにもいかず、黙って座る事にした。
他の皆も誰も僕の事を指摘する者はいなかった。
皆が腰を下ろしたのを確認するとファビアン様は軽く微笑んだ。
「皆の者、協力を感謝する。シリルも無事に合流出来たようで何よりだ」
ファビアン様は王族特有のアイスブルーの瞳で、皆の顔を一人ずつ見回していったが、僕を見るとピタリと視線を止めた。
「おや、見慣れない顔がいるな。彼は何者だい?」
僕から視線を外す事無く、真横に座るテオに問いかけた。言葉は優しいが嘘は許さないと言う響きが感じ取られた。
ファビアン様の視線に縫い留められたように僕の体は動かなくなる。
何だ、これ?
金縛りに合ったように動けなくなった事に驚愕しつつも、ファビアン様のアイスブルーの瞳から視線を逸らせなかった。
「申し訳ありません、ファビアン様。エリクにシリルを迎えに行かせたのですが、間違えて別人を連れてきてしまったのです」
テオが必死に説明するのに同調してエリクも声を上げる。
「ファビアン様、すみません。僕が待ち合わせ場所を間違えてしまったんです。慌てていたのでこのシリルの言い分も聞かずに連れてきてしまいました。だから彼は巻き込まれただけなんです」
テオとエリクの説明にファビアン様は「くっ」と笑い声を漏らした。
そのアイスブルーの瞳がスッと細められると同時に僕の体から強張りが消えて、ふにゃりと力が抜けたようになる。
「それは申し訳ない事をした。何しろシリルの顔はここにいる皆は誰も知らなかったからな。だからこそ白髪のシリルだと伝えておいたんだが、まさか同じ名前の獣人が現れるとは予想外だったな」
ファビアン様の言葉にこの場にいる誰もがホッとしたように表情を緩ませた。
どうやら皆もそれなりに緊張していたようだ。
特に間違えて僕を連れてきたエリクは気が気ではなかったようだ。
一旦和んだ空気の中、ファビアン様がまたも僕に視線を留めた。
「君もシリルと言うのか。いきなりこんな場所に連れてこられて驚いただろう。…君も白髪? …いや、違うな。ちょっと獣の姿になって貰えるか?」
ファビアン様の口調は優しいけれど、逆らえない何かがある。
僕もファビアン様に敵対するつもりはないので軽く頷いて体を狐へと変化させた。
僕の体をモヤが包み込み、それが薄れると椅子の上に銀色の毛並みの狐の姿が現れる。
ファビアン様も驚いたように目をみはって僕の姿を見つめている。
「これは、白狐? …いや、銀狐か? 噂には聞いていたが、まさか本当に居るとは思わなかったな。それに尻尾が4本だと? 尻尾の数が多いほど魔力が強いと聞いたが、シリルもそうなのか?」
ファビアン様に問われたけれど、狐の獣人の事を何もわかっていない僕には答えようがない。
「すみません、ファビアン様。僕は家族とはぐれてしまったので、狐の獣人がどういうものかよくわかっていないんです」
そこで僕はファビアン様にもこれまでの経緯を説明した。
僕の話を聞いたファビアン様は苦々しい顔を隠さない。
「こんな所にも側妃の振る舞いを放置したツケが回っているとは…。シリル、すまない。国王に代わって謝罪させてもらう」
ファビアン様に頭を下げられて僕は慌てた。
まさか王族に頭を下げられるなんて思ってもみなかった。
「ファビアン様、頭を上げてください。ファビアン様のせいじゃありませんから」
これ以上王族に頭を下げられたら、僕の寿命が縮まりそうだよ。
何とかファビアン様に頭を上げてもらって僕はホッとため息をつく。
頭を上げたファビアン様は僕ににっこりと若いかけた。
「シリル。君の魔力で僕達に協力してくれないか」
……!
とうとう王族からも勧誘されちゃったよ。




