28 レジスタンス
新たに現れた二人の男にリーダーらしき男が立ち上がる。
「シリルが二人だと!? エリク! お前がシリルを迎えに行ったんだろう? どうしてサシャまでもがシリルを連れて来るんだ? 一体どっちが本物なんだ?」
リーダーらしき男の言葉からすると、誰もシリルの顔を知らずに迎えに行ったようだ。
僕は彼等とは面識も無いし、勿論待ち合わせもしていないので、サシャという男が連れてきた方が彼等の探しているシリルだろう。
ここはやはり正直に僕は人違いで連れてこられたと伝えるべきだろうか。
皆の視線が僕と隣に立つもう一人のシリルに注がれる中、リーダーの隣に座っている男が口を開いた。
「そんなの簡単だよ。獣の姿になってもらえればいいのさ。兎の姿になる方が俺等の探しているシリルだ。もう一人は兎の獣人じゃないみたいだな」
僕の方を見ながらニヤニヤとした笑いを顔に浮かべている。
どうやら彼は僕がニセモノであることに気付いているようだ。
彼の言葉を受けてすかさず隣のシリルがサッと行動に移した。
シリルの姿がモヤに包まれたと思うと、そのモヤが晴れた時には既にシリルの姿は真っ白な毛並みの兎になっていた。
…か、かわいい!
モフりたい!
だが今はそれどころではない。
兎の姿になったシリルを見てリーダーらしき男が僕に鋭い視線を向ける。
「どうやらエリクの連れてきたシリルは別人のようだな。お前は一体何者だ?」
周りの皆に詰め寄られて僕はどうすべきか迷っていた。
ここは魔法で攻撃して逃げるべきだろうか?
だけど僕自身が何の被害を受けてもいないのに、彼等を攻撃するわけにもいかない。
それにもしかしたら僕の家族がいる里についての情報も得られるかもしれない。
大体僕を間違えて連れてきたのは彼等の仲間であるエリクだからね。
一番責められるべきなのはエリクだと思うんだよ。
そう考えて僕は彼等に正直に話す事にした。
「僕は狐の獣人です。家族を探すためにこの国に来ました。それでこの町に入った途端、そこにいるエリクさんにいきなりここに連れてこられたんです」
僕の話を聞いたリーダーは僕の隣に立っているエリクを睨みつける。
「おい、エリク! お前一体何処へ迎えに行ったんだ? 俺は北門って言ったよな?」
リーダーに問い詰められたエリクはあまりの剣幕にたじろいでいる。
「え? 北門? 南って言わなかったっけ? あれぇ?」
すると兎のシリルを連れてきたサシャがバシッとエリクの頭をひっぱたいた。
「馬鹿野郎! お前が反対方向に走って行くから呼びかけようとしたけど、悪目立ちしそうだから俺が北門に向かったんだよ。まさか南門にもシリルという人物が現れるとは思っていなかったから、お前はシリルに会えずに戻ってくるとばかり思っていたんだ」
サシャの説明にリーダーの男はガックリと項垂れた。
「やれやれ。どうやらこちらに手違いがあったようだ。狐のシリル、申し訳ない」
リーダーは立ち上がって僕に向かって頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。あの場で確かめればよかったんですが、言う暇がなくて…」
そう言ってエリクをチラリと見れば素知らぬ顔でそっぽを向いている。
その頭をまたサシャがはたいた。
「おい! ちゃんと謝れよ!」
「イテ! …悪かったよ、シリル」
エリクは僕に向かってペコリと頭を下げてきた。
間違えて連れてこられたけれど、特に実害もないので何も問題はない。
「まだ自己紹介をしてなかったな。俺はテオドール。狼の獣人だ。テオでいいよ。…ところで家族を探しに来たと言ったな。良ければ事情を聞かせてくれないか? とりあえず座ってくれ」
テオに促され、僕と兎のシリル、エリクとサシャはテーブルについた。
そこで僕は自分の住んでいた里が襲われて、その際川に転落し隣のマルモンテルまで流された事を話した。
そこで親切な人間に拾われて旅が出来るまでに成長したのでこのガヴエニャック王国に戻ってきた事も伝えた。
話を聞いたテオは少し考え込むとおもむろに口を開いた。
「シリルはこの国の今の現状を知っているか?」
「はい、僕を拾ってくれた人に聞きました。なんでも側妃が獣人を追い出そうとしているとか…」
「そうだ。シリルの里を襲わせたのも多分側妃の息のかかった連中だろう。まったく碌な事をしないな。…シリル、俺達の仲間にならないか? …いや、ぜひ手を貸して欲しい」
突然のテオの申し出に僕は目をパチクリとさせた。
「仲間? 一体何の仲間なんですか?」
テオの真意が分からずに僕は聞き返す。
「俺達は側妃を失脚させるために動いているんだ。どうか一緒に戦ってくれないか!」
側妃を失脚させる?
つまり、ここはレジスタンスの集まりということか?




