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27 人違い

 ガヴエニャック王国に入ってから最初の町が見えてきた。


 門番にギルドカードを提示すると、しげしげとカードと僕を見比べられた。


「マルモンテルから来たのか。冒険者になったばかりなんだな。この国には割りと強い魔獣がいるから気を付けろよ。…通っていいぞ」


 門番からギルドカードを返されて僕はそれを受け取って町の中に入って行った。


 町並みは他の町と比べても特に変わりは無いが、あちらこちらで獣人の気配を感じた。


 傍目には普通の人間に見えるけれど、獣人同士にはお互いが獣人である事を感じ取っている。


 だが、敢えてそれを指摘する者は誰もいない。


 普通の人間として生活しているのをお互い干渉しない事は暗黙の了解なのだ。


 それに今、この国では獣人に対して理解を示している国王が病に倒れて臥せっている以上、迂闊に獣人だとは公表出来なくなっている。


 したがって僕も獣人の気配を感じつつも素知らぬ顔をしてやり過ごす。


 とりあえずは冒険者ギルドへ行こうと思い、辺りをキョロキョロと見回していると、ふと一人の男性と目があった。


 …この人も獣人だ。


 そう直感した僕は、彼と目が合ったことなど気付かぬフリをしてやり過ごそうとした。


 しかし、僕が動くより早く彼は僕に歩み寄ってきた。


「やあ、君がシリル?」


 初対面の人間(獣人?)にいきなり名前を呼ばれて僕は面食らった。


「え? …そう…だけど、君は?」


 そう訪ねたが彼はそれには答えずに僕の肩にガシッと腕を回して自分に引き寄せた。


「いやぁー、探したよ。時間になっても現れないからどうしたのかと心配してたんだよ。みんなが待ってるから行こうぜ」


 早口でまくしたてると僕の返事も待たずに僕の腕を引っ張ってずんずんと先に歩いて行く。


 僕は彼に腕を引っ張られながらも訳が分からずにただ付いて歩いて行くだけだった。


 (どうして彼は僕の名前を知っていたんだろう)


 (僕の来るのを待っていた?)


 (僕が今日、ここに来る事を知っていた?)


 (みんなって誰? まさか僕の家族が待っている?)


 色んな考えがぐるぐると頭の中をよぎるが明確な答えを見いだせないまま、彼の後を付いて歩く。


 しばらく大通りを歩いていたが、やがて路地に入るとそこから更に細い道を歩き出した。


 俗に言う“スラム街”と呼ばれるような雰囲気が漂っているような場所だ。


 それだけでこの人物がまともではないと言っているようなものだ。


 手を振りほどこうにも僕よりも体格のいい彼の力は強く、とても抗えそうになかった。


 彼も僕が獣人だと気付いているはずだから、もしかしたらこのまま売られてしまうのかもしれない。


 そんな不安な思いを抱えて歩いているとやがて一軒の家の前に着いた。


 彼は扉を開けて先に僕を中へ押し込みながら言った。


「ただいまー。やっとシリルを連れてきたよ」


 そこは家と言うよりは小屋に近かった。


 扉を入るとすぐに中央にテーブルを置いただけの簡素な部屋の中に数人の男達が座っていた。


 奥の正面に座っていた男がリーダーらしく、僕を連れてきた男を一喝した。


「遅いぞ、エリク! たかだか迎えにどれだけ時間をかけるんだ! さっさと席に付け!」


 リーダーらしき男に怒鳴られて、エリクと呼ばれた男は首をすくめた。


「そんな事を言ったってシリルがなかなか待ち合わせ場所に現れなかったんだから仕方がないだろう。…ほら、シリルも空いてる席に座れよ」


 …待ち合わせ場所?


 ちょっと、待って!


 そもそも僕は彼等と知り合いではないし、待ち合わせをした覚えもない。


 …と、言う事は僕は誰かと間違えられたということだ。


 …ヤバい…


 僕が別人だとわかったらどうなるんだろう?


 こんな怪しげな場所にたむろするような人達だから、決してまともな人物ではないだろう。


 下手したら消されてしまうのかも…。


 このまま大人しく席に座っていいものか迷っていると、バン!と勢いよく後ろの扉が開いた。


「エリク! この馬鹿野郎! 待ち合わせ場所を間違えるなんて何をやってるんだ! …テオ、シリルを連れてきたぞ」


 その声に後ろを振り返ると二人の男が家の中に入ってきた。


 そのうちの一人は僕と同じような白い髪の色をしていた。


 …まさか、彼と間違えられた?



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