26 国境門
ルノーと別れた僕は最初の予定のとおり、次の町へ向かうために門に向かった。
ルノーから色々な情報を聞き出せたのは何よりの収穫だった。
門番にギルドカードを見せると特に何も言われる事もなく、すんなりと通された。
門を出て、ただひたすらに隣町へと足を進めていった。
勿論、一刻も早く隣町に着きたいので、人目がない所は狐の姿になって走った。
途中で食事のために狩りをして、休憩を取る。随分と狩りにも慣れてきたようだ。
街道沿いを走っていたのでそれほど時間はかからずに隣町に着いた。
ここでも門番にギルドカードを提示して町の中に入る。
冒険者ギルドを探して町をうろついていると、やがて左手に大きな建物が見えてきた。
中に入ると今日の仕事を終えた冒険者達が大勢詰めかけていた。
依頼書に書かれた素材や魔獣を集めて来た者が鑑定を待っていたり、一仕事を終えた者が併設された休憩所でくつろいでいたり、と様々だ。
依頼書を見るフリをして人々の話を探ってみるが、既に聞き及んでいる情報ばかりのようだ。
ガヴエニャック王国の国王が長くない事や、側妃が正妃を追いやり幅を利かせている事などだ。
側妃と共に挙げられるのが、獣人が追い出されるらしいという噂なのはここも変わらない。
今すぐにでもガヴエニャック王国に入りたかったが、国境門の開門時間は既に終わっている。
今日はここで宿を取って、明日の朝早くに国境門に向かう事にした。
冒険者ギルドの案内所で宿屋の情報を仕入れてそちらに向かう。
宿屋に向かう途中で何人か獣人らしき人の気配を感じたが、誰もルノーのように話しかけて来る人はいなかったので、敢えてこちらからも声はかけなかった。
宿屋にある食堂で夕食をとると、明日に備えて早々に休む事にした。
いよいよ明日はガヴエニャック王国に入る日だ。
そう思うとなかなか寝付けなかったが、気が付けば布団にくるまり朝を迎えていた。
急いで身支度を整え、朝食をとり、国境門をだ目指して町を進んで行くと、町の外に出る門に着いた。
「ガヴエニャック王国に行くのか? 今は色々と取り込んているみたいだからあまり近寄らない方がいいぞ。特に王都には注意しなよ」
話好きそうな門番が僕に声をかけてくるので、何も知らないフリを装う。
「王都に何かあるんですか?」
門番は「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに話しだした。
「国王が病気で臥せっているのをいい事に側妃が好き放題にやっているらしいからな。冒険者や旅人にも無茶振りをしているらしいぞ」
獣人だけでなく冒険者や旅人にまで影響があるとは思ってもいなかった。
「無茶振りですか? 例えばどんな…」
詳しい話を聞こうとしたところで
「おい! いつまで喋ってる! さっさとしないと次がつかえるぞ! おしゃべりを止めろと上からも言われただろうが!」
と、もう一人の門番から叱責を食らった。
「…いけね! 悪いな、坊主。さあ、通っていいぞ」
おしゃべり好きの門番はサッと僕を通して、次の人の対応に移っていく。
僕は残念に思いながらもギルドカードを受け取って国境門に向かって歩き出した。
人目のないところでまた狐の姿になって走り出した。
やがて国境門が見えてきた。
何人かの人達が国境門の前に列を作って門番のチェックを待っている。
僕もその最後尾に並んで順番を待つ事にした。
それほど待たされる事もなく僕の順番が回ってくる。
ギルドカードを差し出すと門番はそれを受け取り、前世でもあったカードリーダーのような機械に差し込んだ。
「特に何も問題は起こしてないな。通っていいぞ」
門番からカードを受け取って僕は門を潜ってガヴエニャック王国の中に入った。
…この国の何処かに僕の父さんと母さん、そしてお兄ちゃん達がいるんだ。
普通に歩いていたはずが、だんだん早足になり、いつの間にか駆け出していた。
前を歩いていた人が、後ろを振り返ってギョッとしたような顔で僕を見ていた。
慌てて走るのを止めて、歩いてその人を追い越していく。
視線を感じながらも早足で歩くのを止められなかった。
ロジェから貰った地図によると国境門からすぐの所に最初の町があるはずだった。
そこで獣人に会えたなら何とか話を聞き出したい。
そう決意を固めて僕はひたすらに町に向かって歩いて行った。




