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24 獣人との出会い

 翌朝、目を覚ますと宿屋に併設されている食堂で朝ごはんを済ませるとすぐにチェックアウトをした。


 今日はいよいよガヴエニャック王国との国境に近い町に行く予定だ。


 昨日、町に入った門とは反対の方向に歩いていくと冒険者ギルドが見えてきた。


 ちょっと迷ったが、ダメ元で情報収集をすべくギルドの中に入る。


 まだ、時間が早いのかそんなに人は多くなかった。


 依頼を探すフリをして依頼書が張り出されているボードに近付き、ギルド内にいる人達の会話に耳を傾ける。


「…ガヴエニャック…、第二王子が…」


 そんな会話が耳に届き、僕は何気ないふりでそちらに目をやると、冒険者らしき二人が立ち話をしていた。


 僕は依頼書を見るフリを装い、更に耳を二人の会話に集中させる。


「国王は相変わらず容態が悪いようだ。それをいい事に側妃が第二王子を城から追い出そうと画策しているらしい」


「追い出すって。たかだか側妃だろ? 何で正妃は何も抵抗しないんだ?」


「側妃の方が実家の爵位が上だからだろう。諫めるはずの国王があの状態じゃ、正妃に勝ち目はないさ。側妃にねじ込んだのだって爵位に物を言わせたらしいぞ」


「だったら最初から正妃になればよかったんじゃないのか?」


「仕方がないさ。国王が正妃の方を好きになったからな。正妃を争ったけど最終的には感情が動いたっていう事だ。だからこそ余計に側妃は正妃が憎いんだろうよ」


 その声には嘲るような笑いが込められていた。それが国王に対するものなのか、側妃に対するものなのかは僕には判断がつかなかった。


「第一王子が国王になったら獣人達を国から追い出すって話は本当なのか?」


「噂には聞くが本当かどうかは怪しいな。第一王子が獣人を嫌っているという話は聞かないしな。もしかしたら側妃がそうさせようとしているのかもな」


「結局、全ての元凶は側妃だって事になるのか? まったく、碌な女じゃねえな」


「もっとも獣人でない俺達には関係のない話だがな」


「まったくだ。ところで…」


 男達の話はそれから別の話題に移っていったので僕は依頼ボードから離れて外に出た。


 今の二人の話が本当ならば、第一王子が王位を継いでも獣人が追い出される事はないのだろうか。


 だが、母親である側妃が第一王子に干渉して来ないとも限らない。


 やはり一日でも早く獣人の里に辿り着かないといけないな。


 冒険者ギルドの建物から外に出ると僕は足早に門に向かった。


 門から町の外に出ようとしたところで、僕はふとすれ違った人物に違和感を感じて立ち止まった。


 門の外から町の中に入ってきたその人物も立ち止まって僕を凝視している。


 …この人、獣人だ。


 向こうも僕が獣人だと気付いたようで、僕に一歩近付いて来た。


 僕よりも少し年上の茶色い髪のがっしりした体格の男だ。


「…ちょっと、話をしてもいいかな? それとも急いでいるのかい?」


 遠慮がちに声をかけてきた男に僕は少し微笑んで頷いた。


「いえ、大丈夫です。何処かでお店に入りますか?」


「そうだな。立ち話もなんだしな」


 僕はその男と連れ立って来た道を引き返し、近くにあった食堂に入った。


 店の奥の席に腰を下ろして飲み物を注文する。


「突然、すまなかったね。まさかこんなところで会うとは思わなかったからな。俺の名前はルノー、熊だ」


 ルノーはどうやら熊の獣人のようだ。


「こちらこそ会えて嬉しいです。僕はシリル。狐です」


 ルノーはスッと目を細めて僕を見つめた。


「狐か。その髪の毛からすると白狐…いや、銀狐かな?」


 え? 銀狐?


 僕はてっきり自分は白狐だと思っていたのだけれど、違ったのだろうか。


「…銀狐…ですか? 僕は白狐とばかり思っていたんですが…」


 ルノーは飲み物を一口飲んでグラスをテーブルの上に置く。


「白狐でも稀に銀狐が生まれる事があるらしい。もっとも俺達には白狐と銀狐の違いなんて分からないがな」


 ルノーはガハハ、ど笑いながらなおも飲み物に手を伸ばす。


 僕はルノーにはどうしても聞きたかった質問をした。


「ガヴエニャック王国で獣人が追い出されるって本当なの?」 


 ルノーはピタッと笑顔を止めて真顔になる。


「本当だ。だから俺はガヴエニャック王国から出てきたんだ」

 


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